フリーのシナリオライターとして活動しています
 でもアタシにまで、可愛さを求めないでほしいというのが本音。
 サッパリ・アッサリしているのが、自分の良いところだと思っている。
 それは服装や格好なんかにも現れている。
 スカートとかワンピースを着るのは好き。
 でもやっぱりデザインはシンプルなのを選ぶ。
 彼が着るような、フリルとレースはご遠慮願いたい。
「はあ…」
 ファミレスに入ると、彼はトイレに行った。
 …もちろん男性用のに行くワケだけど、他の人に見つかったら声かけられないだろうか?
 そんな心配をしていると、不意に2人組の男に声をかけられた。
 2人ともアタシ達と同じ歳らしい。
 ファミレスに入って来たアタシ達を見て、どうやらナンパしようと決めていたらしい。
 …と言うか、彼を女の子と勘違いしているな?
 そして彼らの口ぶりから、どうやらお目当てはアタシではなく、彼の方らしい。
 まっ、男の子って可愛い女の子を好むみたいだし。
 どう断ろうか考えていると、彼が戻って来た。
「どうしたの?」
 そして男の子達に声をかけられているアタシを見て、ビックリしている。
 男の子達は戻ってきた彼に、嬉しそうに声をかける。
 話の内容は彼を褒め称える言葉や、どこかに遊びに行こうという言葉。
「えっ、あの…」
 彼は二人の勢いに押され気味。
 だけどどんどんその表情が暗くなる。
 男の子達はそれでも話し続ける。
 ―やがて、彼がゆっくりと顔を上げた。
「…いい加減にしやがれっ!」
 いきなり顔付きも声も『男』になったことに、二人はギョッとして彼から離れる。
「こちとらデート中なんだ! しつこいナンパ野郎共は引っ込んでろ!」
 …ちなみに彼が住んでいる地域では、ちょっと訛り言葉を使われる。
 彼は立派に、その言葉遣いを受け継いだらしい。
「はっ! いっいけない…。ボクったら…」
 周囲がし~ん…と静まり返ってしまったので、彼も我に返るのが早かった。
 アタシはため息を一つし、荷物を持って立ち上がる。
 まだ注文する前で良かった。
「じゃっ、お店の邪魔になっちゃうと悪いから、行きましょうか」
 しゅん…と落ち込んでいる彼の手を、今度はアタシが繋いで店から出た。

 とりあえず落ち着かせようと人気の少ない住宅地まで歩いて来た。
 その間、彼はしょんぼりしたまま無口。
「…気にすることないわよ。ああいうタイプにはガッチリ言った方が良いんだから」
「うん…。でもあんなところで男の子っぽいとこを見せちゃうなんて…ボクもまだまだだなあ」
 がっくりと肩を落とす彼だけど…。
「でもアタシは惚れ直しちゃった」
「えっ?」
「だってかっこよかったから。それにアタシを守ってくれたじゃない」
 そう、女の子の格好をしてても、ちゃんとアタシを守ってくれる。
 一緒にいて、楽しい気分にさせてくれる。
 だからアタシは彼の告白を受け入れたのだ。
「確かにアタシはあなたに『お嫁さんになって』とは言ったけど、『女の子になって』とは言わなかったでしょ?」
「うっうん…」
「まあ女装するのは良いけれど、中身まで女の子になられちゃ、流石にアタシの立場がないし」
 とは言え、彼は家事全般が得意で趣味。
 毎日、アタシにお弁当とオヤツの差し入れをしてくれるし、時には手作りの洋服やアクセサリーまでくれる。
 女の子として叶わない部分が多いけれど、変わってほしくない部分もある。
「ボク、さ…」
 不意に彼は立ち止まるので、手を繋いでいるアタシまで立ち止まった。
「小さい頃、あんな告白しちゃったでしょう? でもキミが言ってくれた言葉もあるから、こういう格好をするようになったんだ」
 そう言って髪の毛の先を指でいじる。
 可愛い仕草だなぁ。
「可愛くなれるように一生懸命努力してきたつもりだったのに……。やっぱりキミの可愛さには叶わないなぁ」
 …でも言っていることは、イマイチ理解できない。
「可愛いってアタシのどこが?」
「全部だよ!」
 彼には珍しく、声を荒げた。
「え~? でもアタシなんて地味じゃない」
「違うよ! 可憐なんだよ」
 その言葉は真正面から彼に打ち返したい。
 けれどこれまた珍しく、本気でムキになっているので、黙っておこう。
 いつもは可愛らしい仕草しか見ていないから、何か珍しい。
「派手に着飾ったりしない分、可愛さが滲み出ていると言うか…」
 それはきっと…彼にしか感じないことだな。
 だってアタシ自身、全く分からないことだから。
「だからキミの理想通りの人になりたかったのに…」
「アラ、アタシは充分、今のあなたがステキだと思っているわよ?」
「ほっホント?」
「うん」
 男の娘でも、可愛い姿を見れるのは嬉しい。
 ちゃんとアタシを大事にしてくれるし、文句なんて一つもない。
 だからそう思っていることを証明したくって、彼の手を引いて、キスをする。
「んっ!?」
 突然のことに、彼は眼を白黒させる。
 いくら人気の少ない住宅地とは言え、全く人がいないワケじゃない。
「ねっ? コレで安心した?」
「うっうん…」
 白い頬を赤く染め、夢見心地の顔をする彼を見ると、愛おしいと思える。
「ねっねぇ」
「ん? なぁに?」
「もう一回…良い?」
 上目遣いでねだられると、断れるワケもない。
 軽くため息を吐くと、アタシは再び彼にキスをした。
 周囲から戸惑いの雰囲気が伝わってくるけど、素知らぬフリで。
 まあ何も知らない人から見れば、女の子同士のキスシーンに見えるだろうな。
 苦笑しながら唇を離すと、今度はぎゅっと抱き着かれた。
「ボク…絶対キミのお嫁さんになるからね!」
「はいはい」
 でも結婚式では、彼もウエディングドレスを着たいと言い出すかもしれない。
 そしたら…アタシがタキシードを着ようっかな?
 お揃いでウエディングドレスを着るよりは、まだマシかも、ね?

<終わり>

FC2blog テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

【2017/07/27 05:58】 | <Kiss>シリーズ
【タグ】 小説  短編  キス  恋愛  婚約者  恋人  女装  高校生  
トラックバック(0) |
 休日、アタシは駅前で恋人を待つ。
 恋人はアタシと同じ高校に通っていて、学年も同じ2年生。
 元々母親同士が親友だったこともあり、小さな頃から遊んでいた。
 でもお互い住んでいる家は遠くて、なかなか一緒にはいられなかった。
 しかし高校受験前に、彼の方から同じ高校に通わないかと誘われ、通学するのも苦じゃない距離だったし、レベルもそこそこだったのでそこを希望校にした。
 お互い見事合格して、高校の始業式で会えた時は喜んだものだ。
 ウチの高校は自由がウリで、制服はあるけれど私服でも可。
 アタシも彼も、私服で通っている。
 でもアタシはたまーに制服を着るけれど、彼は滅多に着ない。
 まあ入学式と卒業式は流石に制服着用が校則としてあるから、しょうがなくは着ていたな。
 そんなことをボンヤリ思い出していると、目的の人物がこちらへと走って来るのが見えた。
「ごめ~ん! 待ったぁ?」
 上擦った舌っ足らずの甘い声を出すのが、アタシの『恋人』で『彼』だ。
 ちなみに着ている服は、いわゆるゴスロリファッション。
 もちろん―女の子用。
「ううん。そんなに待ってないよ」
 だけどアタシは笑顔で接する。
「ホント、ゴメンねぇ。電車が遅れちゃって…」
「いいって。それより早く行こう。今日は洋服を買いたいんでしょう?」
「うん! 行こう!」
 彼は笑顔で手を繋いでくる。
 ちなみにちゃんと髪も可愛くセットしているので、見た目的には『可愛い女の子』だろう。
 …実際、こっちを見る男性達の視線が熱く彼に向いているし。
 彼に引っ張られて来たのは、これまたゴスロリショップ。
 正直言って、アタシには縁が遠い。
 平凡な女の子であるアタシにとっては別世界に見える。
 けれど彼は慣れていて、すんなり入って行く。
「わあ! やっぱり春物が一番可愛い♪ 小物も、お洋服も! そう思わない?」
 春色の新作の洋服を嬉しそうに彼は自分の体に当てる。
 彼は小柄で、アタシと同じぐらいの身長なので、こういう服が良く似合う。
 顔立ちも可愛いし。
「うん、良く似合うよ」
「ホント? どれを買おっかな?」
 店内にいる女の子達の視線も、彼に向けられる。
 でも本当の性別を知らないことを思うと、ちょっと不憫。
 …まあ元々、彼がこうなったのはアタシのせいなんだけどね。

 幼い頃、それこそ小学生に上がる前まで、彼は普通の男の子の格好をしていた。
 まあその頃から彼は可愛かったけど、こういう格好は一切していなかった。
 そんな彼に、ある日、こう言われた。
「あのね! ボク、将来キミのお嫁さんになりたいんだ!」
 …今思うと、ツッコミどころがある告白だったな。
 けれどアタシも幼くて、ただ単純に『結婚すること』として受け止めた。
 告白されたことは分かっていた。
 彼のことは確かに気になっていたから、アタシはつい、
「うん…分かった。じゃあ大きくなったら、アタシのお嫁さんになってね」
 ……と答えてしまった。

 その後、お互い小学校に上がると忙しくなって、会うことがなかった。
 手紙や電話、メールなどで連絡は取り合っていたけれど、お互いの成長した姿は一切見ないまま、高校で再会した。
 けれど入学式を終えた翌日、彼はこの格好で登校してきた。
 驚いて理由を尋ねたアタシに、彼はこう言った。
「え~、だってキミが『お嫁さんにしてくれる』って言ったじゃない」
 …そこでアタシは、十年前の自分の失言を思い出した。
 そして彼がずっと、アタシを思い続けてくれたことも知った。
 彼のご両親はこういう格好をすることに驚いたようだったけど、将来アタシと結婚することが決まっていると彼が言うと、
「それなら…」
 と渋々受け入れてしまったらしい…。
 まあ彼の母親とウチの母親は未だに仲良いからな…と遠い目をしながら思う。
 なのでアタシは高校入学と同時に、恋人婚約者がいる身となった。
 でもまあ今の世の中、こういうコがいることはテレビでも取り上げられているし。
 可愛いし似合っているし、アタシは彼を受け入れることにした。
 ―が、世の中そんなに甘くなかった。

 学校に行くと、アタシはいろんな生徒達から文句を言われる。
 その文句の言葉は、いつも同じ。
「何で彼にああいう格好をさせたんだ!」
 …ちなみに言ってきたのが男の場合、うっかり女装をしている彼に恋心を抱いてしまったパターン。
 女の場合、彼氏がうっかり女装した彼を好きになってしまったパターンと、女として敗北感を抱いてしまったパターンがある。
 何故こう言った苦情がアタシにくるのかと言うと、彼は自分が女装している理由を尋ねられた時、こう言っているらしい。
「だぁってボクの彼女が『お嫁さん』にしてくれるって、言ってくれたんだもーん」
 満面の無邪気な笑顔で、ハッキリと言っているらしい…。
 彼と付き合っているのは有名なので、いっつもアタシは苦情を受けるのだ。
 言われたアタシは遠い目をしながら苦笑するしかない。
 十年も前に言った言葉が、まさかこんな状態を生み出すなんて、予想もしていなかったのだから…。

「はぁ~。いっぱい買っちゃった♪ 満足満足」
 大きな紙袋を持ちながらも、空いている手ではしっかりとアタシの手を握っている。
「でもキミは何も買わなくてよかったの? せっかく似合いそうなのがあったのにぃ」
「アタシには似合わないわよ。あなたが着ている姿を見ている方が良いの」
「そお?」
 ちょっと拗ねたように言われるけれど、自分でも似合っていないのは分かっている。
「でもボク、キミとお揃いのワンピとか着たいなぁ」
「えっ!?」
「あっ、メイド服でも良いよぉ」
「そっそれは流石に…。あっ、お腹空かない? アタシ、何か食べたいな」
「そうだね。じゃあどっかに入ろうか?」
 上手く気がそらせて良かった…。
 時々彼はこういうことを言い出すから、心臓に悪い。
 流石に同じ服を着て二人並ぶというのはな~。
 …明らかに彼の引き立て役になってしまう。
 別に彼の女装姿がイヤなワケじゃない。

FC2blog テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

【2017/07/27 05:48】 | <Kiss>シリーズ
【タグ】 小説  キスシリーズ  短編  キス  恋愛  女装  婚約者  恋人  幼馴染み  高校生  
トラックバック(0) |
「エプロン外すから、ちょっと離れて」
「あっ、うん」
 あたしが離れると、アイツはエプロンを脱いだ。
 そして改めてあたしと真正面から向き合う。
「ここが良い? それとも移動する?」
「ここで良い」
 そう言って今度は正面から抱き着く。
 アイツはちゃんと抱きとめて、優しくあたしの頭や背中を撫でてくれる。
 …昔は同じくらいの身長だったのに。
 いつの間にかコイツは『男』に、あたしは『女』になってしまった。
 いつまでも同じではいられないことは分かっていても、なかなか受け入れられないんだから、あたしってガキなのかもしれない。
 顔だけ上げて、じっとアイツの顔を見つめる。
 すると理解したように笑みを浮かべ、キスしてくれる。
「んっ…」
 手であたしの顎を軽く持ち上げるようにして、キスしてくるんだから、ちょっとムカつく。
 だから両腕をアイツの首に回して、あたしの方に引き寄せる。
「ふっ…。どうしたの? 今日はやたらと積極的だね」
 口ではそう言いながらも、顔は喜んでいる。
「…ねぇ、前から一度聞きたかったんだけど」
 唇に息がかかるように、わざとしゃべる。
「なに?」
「なぁんであたしの面倒を見ているのよ? 恋人として求めていないのに、どんな魂胆なの?」
 そう、ハッキリとコイツから告白されたことはない。
 けれどあたしが『抱き締めてほしい』と言えば抱き締めてくれるし、『キスしてほしい』と言ったらキスしてくれる。
 でもコイツからは、一度たりとも求められたことはない。
 いつだって、あたしの方から言っている。
「魂胆なんて人聞きが悪い。ただ俺は、お前が俺なしでは生きられないようにしただけなのに」
 …何か今、とてつもなく物騒な言葉を聞いた気がする。
「…はい?」
「だから、もうお前は俺なしでは生きられないだろう? 今までたくさん面倒をみてきて甘やかしてきたのは、そういう下心があったから」
 爽やかな笑みを浮かべながら言っても、その意味の黒さは隠せない。
 それに魂胆も下心も同じような意味…って、ツッコミどころはそこじゃない!
「あっあたしがアンタから離れられなくして、どうしたいのよ!」
 そう、それが問題。
 確かに今までの生活に居心地の良さを感じていたのは事実だけど、あたしだってやろうと思えば一人でやれる。
「うん。だから俺から一生離れられなくしたいだけ」
 そう言ってアイツの方からキスしてくる。
 …え~っと、もしかして、いや、もしかしなくても。
「…今のってプロポーズ?」
「ああ、そうかも」
「……じゃあ、あたしのことが好きなの?」
「それは…考えたことがなかったな」
「んなっ!?」
 真面目な顔で否定しやがった!
「だって今まで、この生活が当たり前だったからな。当たり前過ぎて、変わることが想像できない。…と言うより、したくなかったから」
「…じゃああたしのことは好きじゃないの?」
「いや、好きだよ? ただ今までちゃんと考えていなかっただけ」
「何それ…」
 思わず不貞腐れるあたしの頭を、アイツは優しく撫でる。
「俺にとっては、お前の面倒を見る生活を守りたいって言うか、ずっと続けていきたいと思っているんだ。だから結婚して、それが叶うなら良いって思っている」
「そこに恋愛感情はないわけ?」
「まだちゃんと考えていなかっただけだって。お前だってそうだろう?」
「うっ…!」
 確かに恋愛云々では真面目に考えたことはなかった。
 …人として、は多少あるけど…。
「今まで当たり前過ぎたからな、自覚していなかっただけだ。多分、俺はお前のことが好きなんだ。だからずっと面倒を見ていたいと思う」
 普通は逆でしょうに…。
 好きだと自覚したからこそ、一生を共に過ごしたいと考えるはずだ。
 でも…この生活がずっと続くのは、悪くない。
 …そう思ってしまうんだから、とっくにコイツの思惑にはまってしまっているんだろう。
「…じゃあ、今まで以上にあたしを甘やかしてよ?」
「もちろん」
 そしてどちらかともなく、キスをする。
 …うん。こういう生活、ずっと続けていきたいな。

<終わり>

FC2blog テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

【2017/07/20 01:59】 | <Kiss>シリーズ
【タグ】 小説  キスシリーズ  短編  キス  幼馴染み  恋愛  プロポーズ  
トラックバック(0) |
 あたしには幼馴染の男がいる。
 出来が良くて、格好良くて、モテる。
 …けど、あまりあたしはこの幼馴染が好きではない。
 同じ歳で、しっかりしすぎて、あたしの面倒まで見てくれる。
 でもいくら何でも、20歳を越えたら、ちょっと変わるもんじゃないだろうか?
 などと思いながら、あたしは食器を洗っている幼馴染に声をかける。
「…ねぇ、何か甘い物食べたい」
「今、夕飯を食べたばかりだろう? それにデザートにコーヒーゼリーを食べたし」
 …そう。つい30分ほど前まで、あたしはコイツと夕飯を食べていた。
 コイツは手料理が上手で、今日もクリームパスタとフルーツサラダ、コーヒーゼリーまで作った。
 美味しく頂いたけれど…。
「コーヒーゼリーってあんまり甘くないもん。生クリーム余っているなら、それ使ってなんか作ってよ」
「ったく…。太ったって知らないぞ?」
 そう言いつつ、冷蔵庫を見始めるから、作る気満々だ…。
 家が隣同士ということもあり、小さな頃からコイツとは一緒だった。
 幼稚園・小学校・中学校・高校に大学まできたら、流石に一緒にいることに飽きてくるんじゃないだろうか?
 コイツは精神的に成長が早く、いっつもあたしは面倒を見てもらっていた。
 でも流石に中学生ぐらいではそういうのもうっとおしくなって、離れようとした。
 …でも長年、コイツに頼りっきりの生活を送ってきたせいか、なかなか上手くいかず、結局今までズルズルと…。
 大学に入ってからは、マンションに一人暮らしするようになった。
 コイツの親戚が、大学近くに結構立派なマンションを持っていたので、紹介で住むことになった―までは良かった。
 けれどもれなくコイツまで、あたしの隣に引っ越してきたのは、どういうことだろう?
 まあ同じ大学に通っているから、不思議ではない。
 …問題は、何故毎日あたしの部屋に来ては、あたしの面倒を見ているか、だ。
 家事をしてくれるのはもちろんのこと、私生活のことでも面倒を見てくれる。
 不思議に思いつつも、受け入れているあたしもあたしか…。
「ほら、できたぞ」
 考え事をしている間に、注文の品はできた。
「フルーツ入りのクレープ。お前、好きだろう?」
「うん、ありがと」
 ナイフとフォークを使い、切り分けていると、アイツは紅茶を淹れてくれる。
 何と言うか、本当に甲斐甲斐しい。
 そう思いながらも、美味しいクレープと紅茶を食べて、満足。
 アイツは食器を持って、流し場へ向かう。
 なんのかんのと言いながらも、あたしのワガママは全部聞いてくれる。
 だから昔から、周囲には恋人扱いされてきた。
 でも…そういうのは一切なかったりする。
 けれどあえて否定しなかったのは、そう言うことで面倒な恋愛事を避けたかったから。
 恋愛なんてめんどくさい。
 それだったら、コイツに面倒を見てもらう生活を送る方が楽。
 出来がよすぎることに頭にきた時もあったけど、今はただ便利としか思えない。
 …でも流石に、何時までもこういうことは続けていられない。
 もう二十歳。
 そろそろお互いに本当に一緒にいたい相手を見つけたり、自立したほうがいいだろう。
 …まあコイツはとっくに自立しているけど。
 あたしは立ち上がり、アイツの背後に立つ。
「ん? どうかしたか?」
 食器を洗っている最中なので、顔だけこちらを向く。
 あたしは黙ってその背中に抱き着いた。
「ん~…。ちょっと甘えたくなった」
「そうか。もう少しで洗い物が終わるから、待っててくれ」
「うん」
 けれどあたしは離れない。
 ぎゅうっとしがみついたまま。
 アイツは拒まない。
 今まで一度たって、あたしのことを拒んだり、邪険にしたことはない。
 それが分かっているから、こうやって甘えられる。
 恋愛対象ではないのに、こうやるのって卑怯かな?
 そんなことをぼんやり思っている間に、洗い物は終了。


FC2blog テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

【2017/07/20 01:52】 | <Kiss>シリーズ
【タグ】 小説  キスシリーズ  短編  キス  恋愛  幼馴染み  大学生  
トラックバック(0) |
「俺は24になったばかりの男」
 にしては、だらしない男だ。
「でもまあ考えてみたら、現実感ありすぎるし、ないか」
「まあ…何だ。そろそろ現実に戻って、自分が行くべき場所を思い出すと良い」
 と、言うしかないな。
「…ああ、そっか。行く所、あったんだ、俺」
 しかし思い当たることがあったらしい。
 不意に顔付きが変わったことに、思わず胸が高鳴る。
 うん、真面目な表情は悪くない。
 青年が立ち上がると、身長の高さにビックリした。
 私より頭二つ分、身長が高い。
 私は女にしては身長がある方だから、青年は男性にしても高い方だろう。
 青年は服を叩いて、歩き出す。
 ―けれどふと振り返り、私を見つめる。
「ん? どうかしたか?」
 真剣な眼差しを向けられると、不覚にも顔が熱くなってしまう。
「―一応、確かめておこうと思って」
 そう言ってきびすを返し、今度はこちらに歩いて来た。
「へっ?」
 突然のことに驚いている間に、青年はどんどん近付いて来て、とうとう私の目の前に立つ。
 そして両腕を伸ばし、私に抱き着いてきた!
「えっ…えええっ!」
 あまりに突然の行動に、呆然とし、抵抗することも忘れてしまう。
 そして固まっているうちに、青年は顔を上げて…私の唇にそっと口付けた。
「…えっ?」
「ああ…この感触は確かに人間だ」
 そう言って、ゆっくりと私から離れた。
 そして振り返り、また歩き出した青年の背に、
「ふざけるではないわあ!」

 どかっ!

 と飛び蹴りを食らわした。
「ぐおっ!?」
 青年は顔から地面に倒れ込む。
 その背中を今度は踏みつけた。
「いたたたっ!」
「何をしたか、分かっておるのか! 貴様!」
 いっいきなり口付けされるなんて思わなかった!
 しかも…甘く感じてしまうなんて…!
 恥ずかしくて、照れ臭くて、また情けなくて。
 頭の中が熱くなる!
「いっいや、だから。本当に人間かどうか、確かめたかったんだって!」
 顔をこちらに向け、青年は必死に言い訳をするが、踏み付ける力は緩めない。
「人間だと言ったじゃろうがっ! その耳は飾り物かっ!」
 ぎゅうぎゅう踏んでいると、ふと料亭の方から仲人がやって来た。
 そして私と青年を見て、ぎょっと眼を丸くする。
 仲人が慌てた様子で青年の名を呼んだ。
 その名に聞き覚えがあった私は、足の力を緩める。
 何せその名は、今日の見合い相手の名前だったからだ。


「…まさかと思うが、私が誰だか分かっていて、ああいうことをしたのかえ?」
「いいや。でもそうかな?って思ってはいた」
 部屋の中で、改めて私と青年は二人っきりになった。
 仲人が5分ほど紹介の時間を取った後、青白い笑顔で部屋を出て行ったからだ。
 その後、青年は私の隣に座り、髪の毛や頭、頬を触れたりしている。
「でもこんなに綺麗なコが嫁さんになるなんて、ちょっと信じられなくて…」
 そしての精かとも思って、口付けたのか…。
「うん、でもキミなら良いな。ねぇ、俺の嫁さんになってよ」
 …何つうアッサリしたプロポーズ。
 ロマンの欠片もありはしない。
 いや、あのの木の下で出会った時が、一番甘い空気が流れていたな。
 まあ…その後のキスも甘かった。
「ねぇねぇ」
 …人が考えている間に、今度は体にしがみついて揺さぶってくる。
 コイツ、見た目に反してガキだ。
 しかもタチの悪いガキ。
 でも、だけど、私に一目惚れしたらしい…し?
 堅っ苦しい旧家の生活から抜け出して、こういう男と夫婦となるのも楽しいかもしれない。
「…お前さん、私を大事にしてくれるか?」
「もちろん。何があったって、俺はキミのことを守るよ」
 そう言って優しく微笑む。
「ならしょうがない。結婚してやろう」
「ホント? やった♪」
 嬉しそうに笑うと、まぁた私にしがみついてくる。
 …やれやれ。
 退屈な結婚生活を想像していたのだが、破天荒な結婚生活を送りそうだ。

<終わり>



FC2blog テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

【2017/07/20 01:43】 | <Kiss>シリーズ
【タグ】 小説  キスシリーズ  短編  キス  恋愛  お見合い  歳の差    
トラックバック(0) |