Kissシリーズ・学園のキス1(2)

2017.07.30(12:27)

「だから…と言うこともないが。お前が女として迫ってきた時は……その延長みたいなもんだと思った」
 …つまりアタシの接触は、過激なスキンシップの一つと思っていたと。
「だけどお前は若いし、未来がある。可能性な無限大だし、俺なんかに構っているのが勿体無いと思ったんだ」
「むっ…」
「外の世界に出れば、お前にふさわしい良い男がすぐに見つかるさ。だから俺ことなんて…」
「むうっ!」
 耐え切れずに叫んだアタシは突然立ち上がり、机に膝を載せて先生の両肩を掴み、くだらないことばかり言う唇を唇で塞ぐ。
「んんっ…! おっおい!」

 ガターンッ

 そのまま先生は背中から床に落ちる。
 あたしは先生が抱きしめて庇ってくれていたから、どこも痛くない。
 …やっぱり優しい。
 そんな先生の上に乗りながら、アタシは何度も先生キスをする。
 最初は抵抗していた先生だけど、途中から力が抜けたようになすがままになった。
 唇がしびれるようになって、ようやくアタシは先生から離れる。
「…お前なあ」
 困り果てた先生の顔、唇はアタシの唾液で濡れていた。
 こういうところが妙に色っぽいんだよなぁ。
「だぁって先生、くっだらないことばかり言うから。アタシはこの恋心を一生のモノにしたい。死ぬ時だって持っていきたいと思っている気持ちを、バカにされたら怒るッスよ」
「うっ…」
 少し怒ったように上から言うと、先生はますます困る。
 そんな先生に、アタシはフッ…と笑いかけた。
「先生、知ってったッスか? アタシ、実は国語が苦手だったッスよ」
「…ああ、そう言えば一年の夏までは六十点台だったな」
「そうッス。でも夏に先生に惚れて、国語の教科書を大事にしたり、何度も読み返したりしたッス。そうすると、少しでも先生に近付けたように思えたッスから」
 そうしているうちに、いつの間にか成績がトップになっていたのだ。
「思い込んだら一途! と言うのがアタシッスからね。…逃がさないッスよ」
 ぎゅうっと先生に抱きつくと、とうとう観念したようにため息を吐く先生。
「…お前には本当に負けるよ」
「じゃあお嫁さんにしてくれるッスか?」
「ちゃんと大学に行くか、就職を決めれば、な」
「うがっ!?」
 …ヒドイ、交換条件。
 本当は専業主婦になりたかったのに…。
「んっ…。じゃあ大学に通って先生の資格を取って、この学校に戻ってくるッス。もちろん、国語の先生として。それなら良いッスよね?」
「お前…俺をクビにさせたいのか?」
「そうなったら、先生は専業主夫になれば良いッス!」
 ニヤッと笑うと、先生は柔らかくあたたかく苦笑した。
「言ってろ」
 そしてゆっくりとアタシの頭を引き寄せ、キスしてくれる。

 ――やっぱり恋愛は一途で、多少強引じゃなきゃね!

<終わり>

Kissシリーズ・学園のキス1(1)

2017.07.30(12:22)

「お前、どういうつもりだ?」
「何がッスか?」
「この進路希望だ」
 生徒指導室で、アタシの目の前にいる担任の先生は思いっきり顔をしかめて、アタシが書いた進路希望の用紙をピラピラと振って見せる。
そこに書いてあるのは、

先生の奥さん』

 という心から希望している進路だ。
「ふざけないで、どこの大学でも就職でもいいから書け」
「だーからぁ、本気ッス。アタシの気持ちはずっと先生に言ってたッスよ」
「その口調も止めろ…」
 先生はただでさえくたびれた中年オヤジなのに、今は余計にくたびれ感が出ている。
 先生とアタシが出会ったのは、中学一年の時。
 ウチの学校は共学で中・高一貫、しかも寮住まい。
 かなり厳しい進学校として有名で、アタシなんかは変わり種。
 けれど運動も勉強も上位の方だから、別に文句は言われない。
 …目の前にいる先生以外は。
 先生は国語担当の教師で、中学一年の時、アタシは国語係だった。
 教科の係は各クラス男女一名ずつ。
 先生が使う資料を運んだり、宿題の提出物を回収して渡す役目をする。
 ――が、アタシのパートナーは当時、係をサボってばっかいた。
 成績が思うように伸びなかったのと、アタシを敵視していた為、係の役目を押し付けやがった…!
 でもそのことに気付いた先生が、パートナーを説得してくれたおかげで、何とか役目をこなしてくれるようになった。
 一見はボサ~とした冴えないオッサンだけど、生徒のことをよく見て知っていてくれる。
 そんな先生に惹かれたアタシは、中学一年から先生に迫っていた。
 けれど年齢差が二回りも違ったせいで、最初は子供扱いだった。
 まあ確かに十二歳の女の子に、三十六歳の男が告白されても、懐かれたとしか思えない。
 だから思いきって高校に上がってすぐ、先生の部屋に夜這いに行ったのだ。
 先生は、男先生専用の寮の一階の角部屋だったから、侵入は楽だったなぁ。
 アタシも中等部の頃は二人部屋だったけど、高等部では一人部屋だから、抜け出しても結構バレない。
 だから男子寮と女子寮が離れていても、夜中に密会する恋人は多い。
 アタシと先生のように。
「アタシ、もう先生のせいで傷モノッスよ。責任取ってください」
「真夜中に夜這いしに来た女子高校生が何を言う」
 あっ、怒った。
 まあ確かに最初はそうだったけど…。
「でもそれから三年間は受け入れてくれたじゃないッスか」
「それはお前がいつまでも窓の外にいるからだろう!」
 …おっしゃる通りで。
 でもその気になれば、寮の部屋は空きがあるんだから移動することだってできた。
 それをしなかったんだから、多少なりと脈はあるはず!
「でも先生も無用心ッスよ。窓に鍵かけないなんて」
「寮の敷地で危ないヤツが侵入するとは思わなかったんだ。お前みたいなヤツがいるとは予想外だったがな」
 ヤレヤレといった感じで肩を竦める先生。
「…とにかく、お前は優秀な生徒だ。希望すればどこへだって行けるだろう? ふざけるのもいい加減にして、本気で進路を考えろ」
「何度も言わせないでほしいッス。アタシは先生の嫁になりたいッスよ。…それとも先生はこうやって女子生徒の気持ちを弄んでいたッスか?」

 ゴンッ!

「あいたっ!」
「…お前のその態度といい口調といい…頭の良いヤツはどこかおかしなもんだ」
 おっ女の子の頭にゲンコツを落とすか、普通?
「大体、何で俺なんだ? 遊ぶのもここら辺にしといた方が良いだろう?」
 先生の言葉で、アタシは首を傾げる。
「…まさか先生、アタシに弄ばれていると思っていたッスか?」
「そうじゃない! …ただ、擬似的な恋愛関係だっただけだろう?」
 ムッ!
「何ッスか、それ? アタシは本気ッス! だから先生の部屋に夜毎、通っていたし…」
「それをここで言うなっ!」
 小声で怒鳴って、先生はアタシの口を塞ぐ。
 まあ確かに人気の少なくなった校舎の中とはいえ、誰が通り過ぎるか分からないしな。
「…でもアタシ、ずっと待っていったッスよ? 先生がちゃんと独身で恋人いないことを知ったから、迫ったんだし…」
「そもそも三十過ぎの男に迫るな。俺ももう四十二だぞ?」
「知ってるッス。アタシはもう時期、十八。結婚できるッス」
「親の承諾が必要だろう?」
 …それもごもっとも。
「…じゃあ先生は何でアタシに付き合ってくれたんッスか? 遊びだったら遊びだったと、言ってほしいッス」
 ウソ、本当は言ってほしくない。
 けれど切るのならば、バッサリ切ってほしい。
 変な期待を持たせずに、背中を押してほしいと思うアタシはワガママだな。
 案の定、先生は困り顔で腕を組んで、ため息まで吐く。
「…正直言えば、こんなオヤジに懐いてくれるお前は可愛かった。まるで妹か娘が出来た気分だったしな」
 それは知っている。一緒にいて、感じていたから。

Kissシリーズ・お笑いのキス2(2)

2017.07.27(05:58)

 でもアタシにまで、可愛さを求めないでほしいというのが本音。
 サッパリ・アッサリしているのが、自分の良いところだと思っている。
 それは服装や格好なんかにも現れている。
 スカートとかワンピースを着るのは好き。
 でもやっぱりデザインはシンプルなのを選ぶ。
 彼が着るような、フリルとレースはご遠慮願いたい。
「はあ…」
 ファミレスに入ると、彼はトイレに行った。
 …もちろん男性用のに行くワケだけど、他の人に見つかったら声かけられないだろうか?
 そんな心配をしていると、不意に2人組の男に声をかけられた。
 2人ともアタシ達と同じ歳らしい。
 ファミレスに入って来たアタシ達を見て、どうやらナンパしようと決めていたらしい。
 …と言うか、彼を女の子と勘違いしているな?
 そして彼らの口ぶりから、どうやらお目当てはアタシではなく、彼の方らしい。
 まっ、男の子って可愛い女の子を好むみたいだし。
 どう断ろうか考えていると、彼が戻って来た。
「どうしたの?」
 そして男の子達に声をかけられているアタシを見て、ビックリしている。
 男の子達は戻ってきた彼に、嬉しそうに声をかける。
 話の内容は彼を褒め称える言葉や、どこかに遊びに行こうという言葉。
「えっ、あの…」
 彼は二人の勢いに押され気味。
 だけどどんどんその表情が暗くなる。
 男の子達はそれでも話し続ける。
 ―やがて、彼がゆっくりと顔を上げた。
「…いい加減にしやがれっ!」
 いきなり顔付きも声も『男』になったことに、二人はギョッとして彼から離れる。
「こちとらデート中なんだ! しつこいナンパ野郎共は引っ込んでろ!」
 …ちなみに彼が住んでいる地域では、ちょっと訛り言葉を使われる。
 彼は立派に、その言葉遣いを受け継いだらしい。
「はっ! いっいけない…。ボクったら…」
 周囲がし~ん…と静まり返ってしまったので、彼も我に返るのが早かった。
 アタシはため息を一つし、荷物を持って立ち上がる。
 まだ注文する前で良かった。
「じゃっ、お店の邪魔になっちゃうと悪いから、行きましょうか」
 しゅん…と落ち込んでいる彼の手を、今度はアタシが繋いで店から出た。

 とりあえず落ち着かせようと人気の少ない住宅地まで歩いて来た。
 その間、彼はしょんぼりしたまま無口。
「…気にすることないわよ。ああいうタイプにはガッチリ言った方が良いんだから」
「うん…。でもあんなところで男の子っぽいとこを見せちゃうなんて…ボクもまだまだだなあ」
 がっくりと肩を落とす彼だけど…。
「でもアタシは惚れ直しちゃった」
「えっ?」
「だってかっこよかったから。それにアタシを守ってくれたじゃない」
 そう、女の子の格好をしてても、ちゃんとアタシを守ってくれる。
 一緒にいて、楽しい気分にさせてくれる。
 だからアタシは彼の告白を受け入れたのだ。
「確かにアタシはあなたに『お嫁さんになって』とは言ったけど、『女の子になって』とは言わなかったでしょ?」
「うっうん…」
「まあ女装するのは良いけれど、中身まで女の子になられちゃ、流石にアタシの立場がないし」
 とは言え、彼は家事全般が得意で趣味。
 毎日、アタシにお弁当とオヤツの差し入れをしてくれるし、時には手作りの洋服やアクセサリーまでくれる。
 女の子として叶わない部分が多いけれど、変わってほしくない部分もある。
「ボク、さ…」
 不意に彼は立ち止まるので、手を繋いでいるアタシまで立ち止まった。
「小さい頃、あんな告白しちゃったでしょう? でもキミが言ってくれた言葉もあるから、こういう格好をするようになったんだ」
 そう言って髪の毛の先を指でいじる。
 可愛い仕草だなぁ。
「可愛くなれるように一生懸命努力してきたつもりだったのに……。やっぱりキミの可愛さには叶わないなぁ」
 …でも言っていることは、イマイチ理解できない。
「可愛いってアタシのどこが?」
「全部だよ!」
 彼には珍しく、声を荒げた。
「え~? でもアタシなんて地味じゃない」
「違うよ! 可憐なんだよ」
 その言葉は真正面から彼に打ち返したい。
 けれどこれまた珍しく、本気でムキになっているので、黙っておこう。
 いつもは可愛らしい仕草しか見ていないから、何か珍しい。
「派手に着飾ったりしない分、可愛さが滲み出ていると言うか…」
 それはきっと…彼にしか感じないことだな。
 だってアタシ自身、全く分からないことだから。
「だからキミの理想通りの人になりたかったのに…」
「アラ、アタシは充分、今のあなたがステキだと思っているわよ?」
「ほっホント?」
「うん」
 男の娘でも、可愛い姿を見れるのは嬉しい。
 ちゃんとアタシを大事にしてくれるし、文句なんて一つもない。
 だからそう思っていることを証明したくって、彼の手を引いて、キスをする。
「んっ!?」
 突然のことに、彼は眼を白黒させる。
 いくら人気の少ない住宅地とは言え、全く人がいないワケじゃない。
「ねっ? コレで安心した?」
「うっうん…」
 白い頬を赤く染め、夢見心地の顔をする彼を見ると、愛おしいと思える。
「ねっねぇ」
「ん? なぁに?」
「もう一回…良い?」
 上目遣いでねだられると、断れるワケもない。
 軽くため息を吐くと、アタシは再び彼にキスをした。
 周囲から戸惑いの雰囲気が伝わってくるけど、素知らぬフリで。
 まあ何も知らない人から見れば、女の子同士のキスシーンに見えるだろうな。
 苦笑しながら唇を離すと、今度はぎゅっと抱き着かれた。
「ボク…絶対キミのお嫁さんになるからね!」
「はいはい」
 でも結婚式では、彼もウエディングドレスを着たいと言い出すかもしれない。
 そしたら…アタシがタキシードを着ようっかな?
 お揃いでウエディングドレスを着るよりは、まだマシかも、ね?

<終わり>

Kissシリーズ・お笑いのキス2(1)

2017.07.27(05:48)

 休日、アタシは駅前で恋人を待つ。
 恋人はアタシと同じ高校に通っていて、学年も同じ2年生。
 元々母親同士が親友だったこともあり、小さな頃から遊んでいた。
 でもお互い住んでいる家は遠くて、なかなか一緒にはいられなかった。
 しかし高校受験前に、彼の方から同じ高校に通わないかと誘われ、通学するのも苦じゃない距離だったし、レベルもそこそこだったのでそこを希望校にした。
 お互い見事合格して、高校の始業式で会えた時は喜んだものだ。
 ウチの高校は自由がウリで、制服はあるけれど私服でも可。
 アタシも彼も、私服で通っている。
 でもアタシはたまーに制服を着るけれど、彼は滅多に着ない。
 まあ入学式と卒業式は流石に制服着用が校則としてあるから、しょうがなくは着ていたな。
 そんなことをボンヤリ思い出していると、目的の人物がこちらへと走って来るのが見えた。
「ごめ~ん! 待ったぁ?」
 上擦った舌っ足らずの甘い声を出すのが、アタシの『恋人』で『彼』だ。
 ちなみに着ている服は、いわゆるゴスロリファッション。
 もちろん―女の子用。
「ううん。そんなに待ってないよ」
 だけどアタシは笑顔で接する。
「ホント、ゴメンねぇ。電車が遅れちゃって…」
「いいって。それより早く行こう。今日は洋服を買いたいんでしょう?」
「うん! 行こう!」
 彼は笑顔で手を繋いでくる。
 ちなみにちゃんと髪も可愛くセットしているので、見た目的には『可愛い女の子』だろう。
 …実際、こっちを見る男性達の視線が熱く彼に向いているし。
 彼に引っ張られて来たのは、これまたゴスロリショップ。
 正直言って、アタシには縁が遠い。
 平凡な女の子であるアタシにとっては別世界に見える。
 けれど彼は慣れていて、すんなり入って行く。
「わあ! やっぱり春物が一番可愛い♪ 小物も、お洋服も! そう思わない?」
 春色の新作の洋服を嬉しそうに彼は自分の体に当てる。
 彼は小柄で、アタシと同じぐらいの身長なので、こういう服が良く似合う。
 顔立ちも可愛いし。
「うん、良く似合うよ」
「ホント? どれを買おっかな?」
 店内にいる女の子達の視線も、彼に向けられる。
 でも本当の性別を知らないことを思うと、ちょっと不憫。
 …まあ元々、彼がこうなったのはアタシのせいなんだけどね。

 幼い頃、それこそ小学生に上がる前まで、彼は普通の男の子の格好をしていた。
 まあその頃から彼は可愛かったけど、こういう格好は一切していなかった。
 そんな彼に、ある日、こう言われた。
「あのね! ボク、将来キミのお嫁さんになりたいんだ!」
 …今思うと、ツッコミどころがある告白だったな。
 けれどアタシも幼くて、ただ単純に『結婚すること』として受け止めた。
 告白されたことは分かっていた。
 彼のことは確かに気になっていたから、アタシはつい、
「うん…分かった。じゃあ大きくなったら、アタシのお嫁さんになってね」
 ……と答えてしまった。

 その後、お互い小学校に上がると忙しくなって、会うことがなかった。
 手紙や電話、メールなどで連絡は取り合っていたけれど、お互いの成長した姿は一切見ないまま、高校で再会した。
 けれど入学式を終えた翌日、彼はこの格好で登校してきた。
 驚いて理由を尋ねたアタシに、彼はこう言った。
「え~、だってキミが『お嫁さんにしてくれる』って言ったじゃない」
 …そこでアタシは、十年前の自分の失言を思い出した。
 そして彼がずっと、アタシを思い続けてくれたことも知った。
 彼のご両親はこういう格好をすることに驚いたようだったけど、将来アタシと結婚することが決まっていると彼が言うと、
「それなら…」
 と渋々受け入れてしまったらしい…。
 まあ彼の母親とウチの母親は未だに仲良いからな…と遠い目をしながら思う。
 なのでアタシは高校入学と同時に、恋人婚約者がいる身となった。
 でもまあ今の世の中、こういうコがいることはテレビでも取り上げられているし。
 可愛いし似合っているし、アタシは彼を受け入れることにした。
 ―が、世の中そんなに甘くなかった。

 学校に行くと、アタシはいろんな生徒達から文句を言われる。
 その文句の言葉は、いつも同じ。
「何で彼にああいう格好をさせたんだ!」
 …ちなみに言ってきたのが男の場合、うっかり女装をしている彼に恋心を抱いてしまったパターン。
 女の場合、彼氏がうっかり女装した彼を好きになってしまったパターンと、女として敗北感を抱いてしまったパターンがある。
 何故こう言った苦情がアタシにくるのかと言うと、彼は自分が女装している理由を尋ねられた時、こう言っているらしい。
「だぁってボクの彼女が『お嫁さん』にしてくれるって、言ってくれたんだもーん」
 満面の無邪気な笑顔で、ハッキリと言っているらしい…。
 彼と付き合っているのは有名なので、いっつもアタシは苦情を受けるのだ。
 言われたアタシは遠い目をしながら苦笑するしかない。
 十年も前に言った言葉が、まさかこんな状態を生み出すなんて、予想もしていなかったのだから…。

「はぁ~。いっぱい買っちゃった♪ 満足満足」
 大きな紙袋を持ちながらも、空いている手ではしっかりとアタシの手を握っている。
「でもキミは何も買わなくてよかったの? せっかく似合いそうなのがあったのにぃ」
「アタシには似合わないわよ。あなたが着ている姿を見ている方が良いの」
「そお?」
 ちょっと拗ねたように言われるけれど、自分でも似合っていないのは分かっている。
「でもボク、キミとお揃いのワンピとか着たいなぁ」
「えっ!?」
「あっ、メイド服でも良いよぉ」
「そっそれは流石に…。あっ、お腹空かない? アタシ、何か食べたいな」
「そうだね。じゃあどっかに入ろうか?」
 上手く気がそらせて良かった…。
 時々彼はこういうことを言い出すから、心臓に悪い。
 流石に同じ服を着て二人並ぶというのはな~。
 …明らかに彼の引き立て役になってしまう。
 別に彼の女装姿がイヤなワケじゃない。

Kissシリーズ・甘々のキス・13(2)

2017.07.20(01:59)

「エプロン外すから、ちょっと離れて」
「あっ、うん」
 あたしが離れると、アイツはエプロンを脱いだ。
 そして改めてあたしと真正面から向き合う。
「ここが良い? それとも移動する?」
「ここで良い」
 そう言って今度は正面から抱き着く。
 アイツはちゃんと抱きとめて、優しくあたしの頭や背中を撫でてくれる。
 …昔は同じくらいの身長だったのに。
 いつの間にかコイツは『男』に、あたしは『女』になってしまった。
 いつまでも同じではいられないことは分かっていても、なかなか受け入れられないんだから、あたしってガキなのかもしれない。
 顔だけ上げて、じっとアイツの顔を見つめる。
 すると理解したように笑みを浮かべ、キスしてくれる。
「んっ…」
 手であたしの顎を軽く持ち上げるようにして、キスしてくるんだから、ちょっとムカつく。
 だから両腕をアイツの首に回して、あたしの方に引き寄せる。
「ふっ…。どうしたの? 今日はやたらと積極的だね」
 口ではそう言いながらも、顔は喜んでいる。
「…ねぇ、前から一度聞きたかったんだけど」
 唇に息がかかるように、わざとしゃべる。
「なに?」
「なぁんであたしの面倒を見ているのよ? 恋人として求めていないのに、どんな魂胆なの?」
 そう、ハッキリとコイツから告白されたことはない。
 けれどあたしが『抱き締めてほしい』と言えば抱き締めてくれるし、『キスしてほしい』と言ったらキスしてくれる。
 でもコイツからは、一度たりとも求められたことはない。
 いつだって、あたしの方から言っている。
「魂胆なんて人聞きが悪い。ただ俺は、お前が俺なしでは生きられないようにしただけなのに」
 …何か今、とてつもなく物騒な言葉を聞いた気がする。
「…はい?」
「だから、もうお前は俺なしでは生きられないだろう? 今までたくさん面倒をみてきて甘やかしてきたのは、そういう下心があったから」
 爽やかな笑みを浮かべながら言っても、その意味の黒さは隠せない。
 それに魂胆も下心も同じような意味…って、ツッコミどころはそこじゃない!
「あっあたしがアンタから離れられなくして、どうしたいのよ!」
 そう、それが問題。
 確かに今までの生活に居心地の良さを感じていたのは事実だけど、あたしだってやろうと思えば一人でやれる。
「うん。だから俺から一生離れられなくしたいだけ」
 そう言ってアイツの方からキスしてくる。
 …え~っと、もしかして、いや、もしかしなくても。
「…今のってプロポーズ?」
「ああ、そうかも」
「……じゃあ、あたしのことが好きなの?」
「それは…考えたことがなかったな」
「んなっ!?」
 真面目な顔で否定しやがった!
「だって今まで、この生活が当たり前だったからな。当たり前過ぎて、変わることが想像できない。…と言うより、したくなかったから」
「…じゃああたしのことは好きじゃないの?」
「いや、好きだよ? ただ今までちゃんと考えていなかっただけ」
「何それ…」
 思わず不貞腐れるあたしの頭を、アイツは優しく撫でる。
「俺にとっては、お前の面倒を見る生活を守りたいって言うか、ずっと続けていきたいと思っているんだ。だから結婚して、それが叶うなら良いって思っている」
「そこに恋愛感情はないわけ?」
「まだちゃんと考えていなかっただけだって。お前だってそうだろう?」
「うっ…!」
 確かに恋愛云々では真面目に考えたことはなかった。
 …人として、は多少あるけど…。
「今まで当たり前過ぎたからな、自覚していなかっただけだ。多分、俺はお前のことが好きなんだ。だからずっと面倒を見ていたいと思う」
 普通は逆でしょうに…。
 好きだと自覚したからこそ、一生を共に過ごしたいと考えるはずだ。
 でも…この生活がずっと続くのは、悪くない。
 …そう思ってしまうんだから、とっくにコイツの思惑にはまってしまっているんだろう。
「…じゃあ、今まで以上にあたしを甘やかしてよ?」
「もちろん」
 そしてどちらかともなく、キスをする。
 …うん。こういう生活、ずっと続けていきたいな。

<終わり>

<Kiss>シリーズ

  1. Kissシリーズ・学園のキス1(2)(07/30)
  2. Kissシリーズ・学園のキス1(1)(07/30)
  3. Kissシリーズ・お笑いのキス2(2)(07/27)
  4. Kissシリーズ・お笑いのキス2(1)(07/27)
  5. Kissシリーズ・甘々のキス・13(2)(07/20)
前のページ 次のページ