フリーのシナリオライターとして活動しています
「希…更さん」
 ぼやけた視界に映るのは、希更さんの戸惑った表情だった。
「ハルくん、なのね? コレは一体、どうしたの?」
「あっ、月夜が…」
「月夜くんが出てきたの?」
 びっくりする希更さんを見ながら、僕は軽く頭を振った。
「ええ、僕を助ける為に…。どうやら例の事件の首謀者は、遊間だったようです」
「やっぱり、か…」
 重々しい声で現れたのは、門馬さんだった。
「門馬さん…。気付いていたんですか?」
「何となく、刑事の勘でな。前々から怪しいとは思っていたんだが…」
「…その口ぶりだと、彼が怪しいと分かっていて、あえて僕と接触させてたってことですかね」
「えっ、それは…」
 口ごもる希更さんの様子を見て、僕は確信した。
 やっぱり…エサとされていたか。
「良いです。何も言わなくて」
「ハルくん…」
「事件があの日以来、ピタッと止まれば、怪しまれるのも当然ですもんね」
 遊間はあの日、僕と月夜が話しているのを聞いて、確信したんだろう。
 僕と月夜がまだ、切れていないことを。
 だから事件を起こさなくなった。
 目的は達成されたから。
「…月夜くんの方は?」
 門馬さんが不安そうに僕を見る。
 月夜の怒りの恐ろしさは、門馬さんでさえおびえさせる。
「今、引かせました。大分興奮していますが、僕の言うことを聞いてくれましたから」
「そうか…」
 安堵する門馬さんと希更さんの姿を見て、僕は複雑な思いにかられる。
 結局…事件解決の為に、僕は遊間と共に泳がされた。
 けれどここで怒りを出せば、また月夜が暴れてしまう…!
 胸元を押さえながらも、僕は落ちたケータイを拾った。
「…じゃあ、僕は帰りますね」
「あっ、送って行くわ!」
「いえ、結構です。僕のことより、彼等のことをお願いします」
 僕は2人に遊間達のことを頼み、学校から出た。



 結局、今回も月夜に助けられてしまった。
 月夜は徐々に出来上がった人格じゃない。
 ある日突然、僕の中から生まれ出た人格だった。
 どの人格障害の本にも、分裂してしまった人格は統合すべきだと書かれてある。
 でも僕は、月夜がいなければ何もできない。
 彼がいなければ、本当に生きていけない…!
 だから病院に通うことも拒否している。
 決して表に出さないのなら、という2人の刑事の条件で、僕は普通の学生の生活を送れている。
 だけど…僕は彼の存在を消すことはできない。
 分裂してしまった、もう1人のボク。
 けれど今、僕はたった1人なんだ。
 家族もバラバラ。
 友人関係だって、昔のことがあって、上手に作れない。
 心を許せるのは、月夜だけなんだ!



 ―ああ、そうだぜ、陽日。
 お前のことを分かってやれるのは、オレだけだ。
 オレとお前は『同じ』。
 お前の喜びは、オレの喜び。
 お前の怒りは、オレの怒り。
 全ての感情・記憶を共有するオレだから、お前を守っていられるんだ。
 ありとあらゆるモノから、お前を守ってやるよ。
 だからオレを消そうなんて、無駄なことは考えるなよ?
 そんなことしたら、お前は絶対生きていけないんだからな。
 オレと共に生きてくれんなら、お前の身も心も守り続けてやるぜ?
 なあ、兄貴?


<終わり>

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【2012/01/17 14:29】 | 【BL風味・ホラー/オカルト短編集】
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