【もう1人のボク】・10

2012.01.16(13:42)

 3年前、陽日は精神的に追い詰められていた。
 そこで生み出されたのが、月夜という人格。
 カリスマ性があり、何でも上手くこなせる彼を、陽日は自分の中から生み出してしまった。
 ところが主人格である陽日の手を離れつつあった月夜。
 暴走の代償として、月夜は陽日の中で深い眠りにつかされた。
「なるほど。彼の3年前の状況を考えれば、簡単なことだったね」
 遊間は笑いながら立ち上がった。
「ねぇ、会いたかった…! 俺はずっとキミに会いたかったんだ!」
 夢見心地の表情で近付いてくる遊間を、月夜は冷めた眼差しで見ている。
「あんなつまらない人格に、キミは囚われるべきじゃない」
「つまらない?」
 月夜の眼が、険しくなった。
「そうだよ! 陽日なんて控え目なフリをしているけど、ただの臆病者じゃないか! キミこそ、主人格として生きるべきだ!」
 殺気立つ月夜の雰囲気に、遊間は気付かない。
「てめぇ…! 言っちゃならねぇことを、言いやがったな?」
「えっ?」
 後一歩という所で、遊間はようやく空気の温度差に気付いた。
 そして気付いた時には、首を捕まれ、地面に叩き付けられた。
「ぐはっ! なっ何故…?」
「バカ言ってんじゃねーよ。オレにとっちゃ、アイツが全てなんだ」
 月夜は陽日を乗っ取る為に生まれた存在ではない。
 守る為だけに、生まれてきたのだ。
 それを否定されることが、月夜は何よりもキライだった。
「お前、このまま生かしておくと、後々アイツに危害を加えそうだな。早めに始末しておくか」
 首を絞める手を緩めないまま、月夜は遊間の体を引きずり、手摺までやって来た。
「なっ何をっ…!」
「あっ? テメーが言ってじゃねーか。ここで飛び降りても、自殺になるって」
 イヤな笑みを浮かべる月夜を見て、遊間は自分の危機を悟った。
「まっ待って! 俺は陽日に危害を加えない! キミに会えただけで、満足なんだから!」
「ウソつくな。コレもさっき言ってただろ? アイツの存在を否定するようなことを!」
「ひっ…!」
「アイツを傷付けるものは、全て消す。それがオレの存在する意味だからな」
 遊間の体をいとも簡単に持ち上げ、上半身を手摺の向こうに押した。
「やっやめっ!」
「じゃあな」

―ダメだっ! 月夜っ! 殺すな!

「ぐっ…。陽日?」
 突如頭の中に響いた陽日の声に、月夜の手が止まった。

―人殺しは絶対にダメ! 僕ら、それこそもう二度と会えなくなる!

「だが陽日、コイツを野放しには出来ない。お前を傷付けたコイツを、許すことはできない」

―それでもだ! …月夜、僕はキミを失いたいくない…!

「陽日…」

 切ない陽日の声で、月夜は少し考えた。
「はぁ…。分かったよ」
 ため息をつくと同時に、遊間の体を屋上の床に投げ捨てる。
 すでに遊間は意識を失っていた。
「今日のところはお前に免じてコイツを解放するが…。二度は無いぞ?」

―…うん! ありがと、月夜。

「全てはお前とオレの為、だろ? ならオレは引くとしますか」
 月夜が肩を竦めるのと同時に、屋上の扉が音を立てて開いた。
「ハルくん! 大丈夫?」
 希更刑事が、飛び込んできた。
「…っ! コレは一体…」
 希更は倒れている学生達の中、1人立つ陽日の後姿を見つめた。
「ハル、くん?」
 恐る恐る声をかけると、陽日はゆっくりと振り返った。

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