【もう1人のボク】・6

2012.01.12(12:38)

 僕は男子トイレに入ると、ため息をついた。
 あの女の子の表情…見覚えがある。
 マヒした感情。
 崩れた表情。
 …ボクが3年前、作り出した『人形』と同じだ。
「オレじゃねーよ」
 ビクッと体が震えた。
 顔を上げ、目の前の鏡を見ると、ボクがいた。
「オレが作った『人形』は、あんな無様じゃない。それは知っているだろ?」
 壁に寄りかかり、イヤな笑みを浮かべている。
「いつの間に外にっ…!」
「お前がピンチそうだったからな。そういう時は許可を得なくても出るさ」
 ボクは背を浮かせ、少し歩いた。
 そして僕の頬を撫でる。
「まあ今回は良いとして…。にしてもアレがオレの仕業だと思われているのは、よくないな」
「っ…!? 仕方無いだろ? 似てたんだから!」
 頬に触れる手を、叩いて払った。
 心を読まれたことの動揺を隠す為だ。
「間違えるなよ、陽日。オレはお前を万が一にでも傷付けることは、絶対にしない」
 それでもボクは僕の顔を両手で包み、真面目な顔で眼を真っ直ぐに見つめる。
「分かってる…! 分かってるから…」
 あまり真っ直ぐに見つめないでほしい…!
 また昔のように、ボクを求めてしまいたくないから…。
「お前を傷付けようとしたヤツのこと、調べる」
「…ダメだ。お前は動いちゃいけない」
「そんなこと言っている場合か? 今回の騒動、オレを引っ張り出す為かもしれないんだぞ?」
「それはっ…!」
 否定できない。僕も考えていたことだから。
「オレに用事があるなら、お前にちょっかいをかけるのも分かる。オレに任せろ。すぐに終わらせる」
「だから、それはっ…!」
「―陽日?」
 遊間の声だ!
「隠れて!」
 小声でボクに言って、ケータイ電話を手にした。
「アレ? 1人? 今誰かと話して話してなかった?」
「うっうん。電話してたんだ。帰り、遅くなりそうだから」
 僕はケータイを見せた。
「そうだったんだ。刑事さんが遅いから、心配してたよ」
「今行く。ゴメン、待たせて」
「ううん。具合悪くなったとかじゃないなら、安心だよ」
「そういう遊間は平気そうだね」
「俺、武術得意だから。ある程度のことでは驚かないんだ」
 そう言って肩を竦める。
 確かに女の子を縛り上げるのは、手際よかったけど…。
 今時の武術って、ああいうことまで教えるのかな?
「何だかこんなことになっちゃって、残念だったね。よければまた会ってくれないかな?」
「うっうん。いいよ」
 僕を見る、ボクの視線が険しくなった気がするけど、ムシで。
「じゃあ、よろしく。今度はちゃんとするから」
「うん、よろしく」
 その場で遊間とケータイのナンバーとメールアドレスを交換した。



 その後、遊間とは何度か遊んだりした。
 ボクはあまり良い顔をしなかったけど、遊間はとても付き合いやすかった。
 でも…どうしてもあの視線が気になる。
 そして門馬さんと希更さんには、眼を付けられてしまった。
 理由はやっぱりあの事件と、そして心配から。
 あの被害者の症状は、ボクが作り上げた『人形』とそっくりだったから。
 でも『人形』はボクが作り出したもの。
 だから僕を攻撃するなんてことは、万が一にもありえない。
 ボク―月夜を誘き出す為に、仕組まれた事件ならば、同じ顔をしている僕が狙われることもある。
 学校へは普通に行ける。
 でも門馬さんや希更さんに連絡をしたり、一緒にいることが暗黙の日常になってしまった。
 そして事件はあの後、ピタリと止まった。
 まるで役目を終えたように―。

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