フリーのシナリオライターとして活動しています
 僕は男子トイレに入ると、ため息をついた。
 あの女の子の表情…見覚えがある。
 マヒした感情。
 崩れた表情。
 …ボクが3年前、作り出した『人形』と同じだ。
「オレじゃねーよ」
 ビクッと体が震えた。
 顔を上げ、目の前の鏡を見ると、ボクがいた。
「オレが作った『人形』は、あんな無様じゃない。それは知っているだろ?」
 壁に寄りかかり、イヤな笑みを浮かべている。
「いつの間に外にっ…!」
「お前がピンチそうだったからな。そういう時は許可を得なくても出るさ」
 ボクは背を浮かせ、少し歩いた。
 そして僕の頬を撫でる。
「まあ今回は良いとして…。にしてもアレがオレの仕業だと思われているのは、よくないな」
「っ…!? 仕方無いだろ? 似てたんだから!」
 頬に触れる手を、叩いて払った。
 心を読まれたことの動揺を隠す為だ。
「間違えるなよ、陽日。オレはお前を万が一にでも傷付けることは、絶対にしない」
 それでもボクは僕の顔を両手で包み、真面目な顔で眼を真っ直ぐに見つめる。
「分かってる…! 分かってるから…」
 あまり真っ直ぐに見つめないでほしい…!
 また昔のように、ボクを求めてしまいたくないから…。
「お前を傷付けようとしたヤツのこと、調べる」
「…ダメだ。お前は動いちゃいけない」
「そんなこと言っている場合か? 今回の騒動、オレを引っ張り出す為かもしれないんだぞ?」
「それはっ…!」
 否定できない。僕も考えていたことだから。
「オレに用事があるなら、お前にちょっかいをかけるのも分かる。オレに任せろ。すぐに終わらせる」
「だから、それはっ…!」
「―陽日?」
 遊間の声だ!
「隠れて!」
 小声でボクに言って、ケータイ電話を手にした。
「アレ? 1人? 今誰かと話して話してなかった?」
「うっうん。電話してたんだ。帰り、遅くなりそうだから」
 僕はケータイを見せた。
「そうだったんだ。刑事さんが遅いから、心配してたよ」
「今行く。ゴメン、待たせて」
「ううん。具合悪くなったとかじゃないなら、安心だよ」
「そういう遊間は平気そうだね」
「俺、武術得意だから。ある程度のことでは驚かないんだ」
 そう言って肩を竦める。
 確かに女の子を縛り上げるのは、手際よかったけど…。
 今時の武術って、ああいうことまで教えるのかな?
「何だかこんなことになっちゃって、残念だったね。よければまた会ってくれないかな?」
「うっうん。いいよ」
 僕を見る、ボクの視線が険しくなった気がするけど、ムシで。
「じゃあ、よろしく。今度はちゃんとするから」
「うん、よろしく」
 その場で遊間とケータイのナンバーとメールアドレスを交換した。



 その後、遊間とは何度か遊んだりした。
 ボクはあまり良い顔をしなかったけど、遊間はとても付き合いやすかった。
 でも…どうしてもあの視線が気になる。
 そして門馬さんと希更さんには、眼を付けられてしまった。
 理由はやっぱりあの事件と、そして心配から。
 あの被害者の症状は、ボクが作り上げた『人形』とそっくりだったから。
 でも『人形』はボクが作り出したもの。
 だから僕を攻撃するなんてことは、万が一にもありえない。
 ボク―月夜を誘き出す為に、仕組まれた事件ならば、同じ顔をしている僕が狙われることもある。
 学校へは普通に行ける。
 でも門馬さんや希更さんに連絡をしたり、一緒にいることが暗黙の日常になってしまった。
 そして事件はあの後、ピタリと止まった。
 まるで役目を終えたように―。

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【2012/01/12 12:38】 | 【BL風味・ホラー/オカルト短編集】
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