【もう1人のボク】・1

 夢の中で、僕はボクに出会う。
 僕と同じ姿、声をしながら、もう1人のボクは正反対の性格をしていた。

―よぉ。

 軽々しく声をかけてきても、僕は顔を背け、ムシをした。

―何だよ。つれねーな。昔はよくオレに泣きついてきてたのに。
―うるさいな。

 あくまで顔は背けたまま、僕は小声で呟いた。

―何か困ったことがあるたび、オレを頼ってきてさ。可愛かったのに。

 向こうを見ずとも分かる。
 きっとわざとらしく、肩を竦めているんだろう。

―…だがな。

 急に間近で声が聞こえて、思わず顔を上げてしまった。
 間近にあった、ボクの顔。
 ニヤッとイヤな顔で笑う。

―オレを避けてもムダだぜ? オレ達は『同じ』なんだからな。
―っ!? うるさいっ! 消えろ!

 手を振り上げると、ボクの姿は闇に溶け込み、消えた。

―おっと、危ない危ない。

 しかし声は相変わらず聞こえたままだ。

―気をつけろよ。お前に眼をつけているヤツは結構いるからな。
―お前だってそうだろう! 僕を不幸にしたクセに!
―それは心外だな。オレはお前を守る為に、動いただけなのに。
―黙れっ!
―はいはい。それじゃあ、兄貴。またな。



 目覚めは最悪だった。
 ボクの夢を見るなんて…。
 それでも朝はきている。
 僕は起きなきゃいけない。
 1人暮らしをしているからと言って、何もしないと生きてはいけない。
 シャワーを浴びて、歯を磨いた。
 着替えて朝食を作る。
 トーストとヨーグルト、それに目玉焼き。
 目玉焼きはトーストの上に置いて食べる。
 僕はこの食べ方が好きだった。
 ボクの方は別々に食べるのが好きみたいだけど…。
「って、ダメだ。あんなヤツのこと考えちゃ…」
 ボクのことを考えることは、心を許すことにつながる。
 もう心を許しちゃいけない。
 僕は自分1人で生きていかなきゃいけない。
 でないと…。

ピンポーン

 インターホンの音で、意識が現実に戻った。
 玄関先のモニターを見ると、顔見知りの男女がいた。
 僕はすぐに玄関に行った。
「お久し振りです、門馬(もんま)さんに希更(きさら)さん」
「久し振りだね、陽日(はるひ)くん」
「久し振り、ハルくん」
 50代の男性が門馬さん。
 30代の女性が希更さん。
 2人とも刑事で、昔…僕とボクがお世話になった人だった。
「ちょっといいかな?」
「伝えたいことがって、今日は来たの」
 2人は笑顔だが、どこか緊張感がある。
「はい、どうぞ」
 だから僕は不安になりながらも、部屋の中に入れた。
「マンションでの1人暮らしには慣れたかね?」
「ええ、何とか。いろいろと大変なことは多いですけど」
「あら、でもちゃんと朝食を作って食べているなんて感心だわ。アタシなんてめんどくさくって、しょっちゅう抜いちゃうから」
「あっ、すみません。今片付けます!」
 慌てて食器を下げて、コーヒーカップを二つ棚から取り出した。
「お2人とも、ブラックコーヒーでよかったんですよね?」
「ああ、すまないね」
「お願いね~」
 コーヒーを淹れながら、僕はいろいろな考えを巡らせていた。
 まさかまたボクが何かしたのか?
 …でもそんなことない。
 そう、信じたい!

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