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BL・<Fascinated by the darkness>・25

 言えばきっと、イザヤは僕を捨てる。
 うっとおしくなって、傍に置くのをイヤがるだろう。
 それが分かっているからこそ、今まで黙って大人しくイザヤの元にはいたけれど…。
 万が一組織から抜け出し、彼から離れることになったらと、考えたことがないとは言えない。
 まさか本当に現実に起こりうるとは思わなかった。
 それにここ最近、仕事に身が入っていないことを見抜かれていたが、ここまで評価が落ちていたとは……流石に落ち込む。
「そう、ですか…」
 僕は銃を下ろし、鷹近に視線を向けた。
 鷹近は土下座したままガタガタと震えている。
 まあ彼は見た目こそアレだけど、頭の回転は悪くないし、上手くやれば小アルカナぐらいにはなれるかもしれない。
「―それがお前の答えか?」
 僕は何も答えられなかった。
 …いずれ彼がこういう選択をしてくることは、何となく気付いていた。
 彼はどっちでも良いのだ。
 僕を手放そうが、鷹近を引き取ろうが、大したことじゃないと思っている。
 だから遊び心で言い出す。
「僕は……」
 口を開き、自分の意見を言おうとした。

 パンッ

 けれど続きは、ラバーの拳銃の音で途切れてしまった。
 銃弾は鷹近の背中から心臓を貫いている。
 ラバーはいつの間にか僕の隣に立っていた。
 驚いて顔を見ると、いつにない無表情を浮かべている。
「ラバー…」
「コレで良いだろう? デス」
 腰に拳銃をしまいながら、ラバーはデスを振り返って見た。
「ああ、行くぞ」
 そう言ってデスは井戸に飛び込んだ。
「ホラ、マジシャン。行くよ?」
「あっ、うん…」
 ラバーに手を引かれ、僕は井戸へ駆け寄った。
 銃声を聞いて、駆け付けてくる気配があったからだ。
 …最後にチラッと振り向いた時、鷹近の体は地面に倒れ込んでいた。
 土下座して顔を地面に向けたままだったし、きっとラバーに撃たれたなんて分からないまま死んだのだろう。 
 でもその方が良い。
 彼は本当に『神無月恋』を愛していたから―。



「ったく。妙なこと言い出さないでよね、二人とも」
 街から出る時、組織が用意した高級車の後部座席に三人で乗り込んだ。
 運転はトランプがしている。
 窓は外から中が見えないようにしてあるし、運転席と後部座席の間には今は壁があって、話やすくなっていた。
 デスは眼を閉じたまま、シートに座っている。
 僕は苦笑を浮かべ、甘えてくるラバーの頭を撫でた。
 ラバーの苛立ちは鷹近を殺したことじゃない。
 僕が少しでも組織から離れる意思を見せたからだ。
「アハハ。でも助かったよ、ありがとう」
「うん。マジシャンはやっぱり、オレの助けが必要だよな」
 …でも本当に助かった。
 僕自身、あの続きの言葉は何を言い出すか分からなかった。
 そのくらい混乱していたから…。
「そうだね。じゃあ新しい土地で落ち着いたら、約束通りに遊びに行こう」
「やった! 楽しみにしている」
 やれやれ。
 ラバーには大きな貸しを一つ、作ってしまったな。
 車は一時間ほど走り、到着したのは超が付くほどの高級ホテルの駐車場。
 そこで最上階に泊まる者しか使えない、専用エレベータで上がった。
 ここのホテルは組織の一部。
 だから最上階はいつも幹部達で使っている。
 エレベータが最上階に到着すると緊張が解けたのか、ラバーが背伸びをした。
「はぁ~。つっかれたぁ」
「お疲れ様~」
 ロビーには見知った男性がいて、僕達を迎えてくれた。
「アレ? ハーミット、お久しぶりですね」
「マジシャン、久しぶり」
 黒く長い髪を後ろで一つに束ね、中華風の服に身を包む長身の男性・ハーミット。
 黒い切れ長の眼を丸いメガネで隠し、一見は胡散臭い中国人のようだ。
 本当の年齢は知らないが、見た目だけなら三十代後半というところだろう。
 …もっとも僕がハーミットと出会ったのは十三年前で、それからちっとも容姿が変わっていない気がするのは…気のせいだろう、うん。
「お仕事ご苦労様。ボクの設計図、役に立った?」
「おかげさまで。何一つカラクリに引っかかることなく、無事に完了しました」
 肩を竦めて笑みを見せると、ハーミットも嬉しそうに笑う。
「そりゃ良かった」
 ―けれど彼は飄々として掴み所がない。
 得体の知れない部分が、恐怖に感じる。
「まあマジシャンとデスなら、ボクの助けなんていらなかっただろうけどね」
「おいっ、何でオレを抜かす! 殺されたいの? ハーミット」
「いやいや。ラバーは身軽だし、勘も良いから、二人より上だって言いたかったんだよ」
「…そこに悪意を感じるんだけど?」
 悪意―それは僕も思った。
 確かにレンの勘は鋭いよな。
 しかしハーミットはふと何かを思い出したように、手をポンッと叩いた。

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