BL・<Fascinated by the darkness>・20

 …壁です。
 怖くてアナタと眼が合わせられません。
「ではっ! 僕は明日も学校に行かなければなりませんので、先に休まさせていただきます! おやすみなさい!」
 言いたいことだけ言って、僕は部屋を出て行った。
 駆け足で自室に飛び込んだが、イザヤが追いかけてくることはなかった。
 よっ良かった。
 これ以上の問い詰めは精神的に参る。
 でも明日、レンにはどんな顔をすれば良いのか悩むな。
 せめてイザヤと別行動の時に誘われたかったと、性懲りもなく僕は思いながら眠りについた。




 どすんっ

「ぐえっ!」
 お腹にとても重い物が乗ってきて、僕は苦しさで眼が覚めた。
「おはよう。オムライス食べたい」
 お腹に乗っているのはレンだった。
 ふくれっ面で機嫌悪そうに眼を吊り上げている。
「わっ分かったから、どいて…」
 見た目は細くてもレンは殺し屋として鍛えた体を持っている。
 つまり重い。
 レンはゆっくりと僕の上から降りて、冷ややかな眼差しを向けてきた。
「フンっ。へたれ」
「ひどっ…!」
 レンはスタスタと歩き、バンッと扉が壊れそうなほど強く閉めて、部屋を出て行った。
 僕は咳き込みながら、上半身を起こした。
 久々にゆっくり眠れたと思ったら、寝起きは最悪だ。
 確かにイザヤにビビッて、レンを床に投げ付けたのは悪かったなぁ。
 …しかも萎えたし。
 今朝は特大のオムライスを作ってあげようと思い、僕はベッドから降りた。
 しかし作ってあげても、レンは不機嫌だった。
 イザヤは何事もなかったかのように、いつもの無表情。
 …ご飯が美味しくない。空気がマズすぎる。
 気まずいままに制服に着替え、二人で家を出た。
「いっ行ってきます、イザヤ」
「………」
「ああ」
 レンだけ無言だった。
 二人で並んで歩くも、どう声をかけていいのか分からず戸惑っていると、レンがぼそっと呟いた。
「…昨夜、ケイトとシたの?」
「してません。一人でぐっすり寝ました」
 思わず敬語になってしまう。
「ユウマってさ、やっぱりケイトが怖いんだ?」
「それはっ…レンだって同じだろう?」
「……まあね」
 それにイザヤには恩がある。
 僕はここまで育ててもらった恩が。
 レンにとってはある意味、僕以上。
 実の両親にアイと共に捨てられたところを、イザヤに拾われたのだ。
 …いや、正確には僕が二人を見つけて、イザヤが拾ったんだった。
 あれは十年前、イザヤと共に仕事で訪れた土地で、僕は一人で地元の神社で待っているように言われた。
 無人の神社は荒れ果てていて、僕はぼんやり夕日を見続けていた。
 けれどふと子供の幼い声が聞こえてきて、僕は暇潰しに探した。
 すると神社の建物の下の空間に、一組の男女の双子を発見したのだ。
 最初二人は子猫のように寄り添って、警戒していた。
 だけどお菓子を差し出すと、近寄って来た。
 そしてポツリポツリと話をした。
 レンとアイの両親は事業に失敗して、多額の借金を背負った。
 どうにもならなくなって、二人を車でこの土地へ連れて来て捨てた。
 …まあこう言ってはなんだけど、ありがちな話だった。
 二人はボロボロの格好をしていた。
 せっかく可愛い顔をしているのに、勿体無いと僕は思った。
 きっと食べ物も不自由しているのだろう。
 泊まるのもこの神社の下では可哀相過ぎる。
 だから神社に来たイザヤに、提案したのだ。
 ―二人を拾って僕達の仲間にしよう、と。
 イザヤは少し考えた後、頷いた。
 だからアイは男嫌いでも、僕やイザヤには頭が上がらないみたいだ。
「でもそれとこれとは別な気がする」
 …しかしレンは執念深かった。
 竹を割ったようにさっぱり・あっさりしているアイの弟とは思えないぐらいに。
「ユウマはオレとケイト、どっちが好き?」
「どっちって…好きの種類が違うから、選べないよ」
 レンは親愛の好き。
 イザヤは…恋愛の好き。
 比べるものでもない。
「…ユウマって卑怯」
 瞳を細めたレンは、侮蔑の表情を浮かべていた。
「……かもね」
 でも実際卑怯なので、否定はしない。
 レンが恋愛感情としての答えを求めてることを知っていて、言葉を濁したのだから。
「ユウマじゃなかったら、首絞めてる」
「アハハ…。…せめて家の中でね」
 家の中なら防ぎようもある。
 まあできる・できないはともかく。
 その後は特に会話もなく、学校へ到着。
 校門を過ぎると、鷹近が後ろから声をかけてきた。
「遊真、恋、おっはよーさん」
「おはよう、鷹近」
「あっ、鷹近ぁ。おはよー」

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