BL・<Fascinated by the darkness>・8

2011.12.08(00:07)

「分かりました。でもあんまり心配し過ぎると、頭と胃、おかしくしちゃいますよ?」
『お前とデスのおかげでとっくにイかれている。まっ、憎まれ口叩けるのなら、まだ大丈夫なんだろう』
「ご心配、おかけします」
『ああ。それじゃあ切るぞ』
「ええ、また連絡をください」
 通話を切って溜息をつくと、背後の気配が動いた。
「相変わらずテンパランスはお前のことが心配みたいだな」
「大アルカナの良心的存在ですからね、彼は」
 気配の正体はイザヤだ。
 通話の途中から、僕の部屋に入って来ていた。
 それを知った上で会話を続けていたんだから、僕も性格悪いな。
「ラバーはどうした?」
「目的相手に仕事をしています。今夜は遅くなるでしょう」
「そうか」
 短く答えると、イザヤは僕に近付いて来た。
 ただならぬ気配を放ちながら。
「まだ何か?」
 それでも僕は笑みを浮かべ続ける。
 イザヤは両手の手袋を取り、床に投げ捨てた。
 そしてベッドに腰掛けている僕の後頭部に手を回し、いきなり髪の毛を掴んで後ろに引っ張った。
「イタッ! なっ何するんですか、いきなり!」
 仕事が遅れ気味なことに、腹を立てていたんだろうか?
「テンパランスにはよく俺達のことを報告しているのか?」
 …ああ、そっちか。
「聞かれたことに答えているだけです。彼は古株、僕はまだ若輩者ですから」
 いくら同じ幹部でも、権力まで同じとは限らない。
 もっともテンパランスとイザヤの立場は対等みたいだ。
 二人を十五年間見てきて、僕が知ったのはそのぐらいだ。
「それで? ベッドの中のことまで話したのか?」
「それは流石にルール違反でしょう?」
 ベッドマナーを話すほど、彼とは親しくない…と言うか、しゃべりたくない。
「ほお」
 …何か、機嫌、悪い?
 細められた漆黒の眼に、どこどなーく剣呑な色が浮かんでいるのは、僕の気のせいだろうか?
「しっ仕事でしたら、明日にでも良い報告をします。だから後一日だけ、待っていてくれませんか?」
「まだ期間以内だ。別に焦ってはいない」
「なら何で不機嫌なんですか?」
「不機嫌? 俺が?」
 僅かに眼を見開いたイザヤを見て、僕まで眼を丸くする。
「こういうことをしておいて、機嫌が良いワケありませんよね?」
 僕は引きつった笑いを浮かべながら、自分の後頭部を指さした。
 力は一向に緩まず、無理やり顔を上に向けさせられているので首がかなり痛い。
 イザヤはスッと眼を細め、僕の頭を今度はベッドに押し付けた。
「イタタっ、痛いですって! 何でそんなに機嫌悪いんですか!」
 この前のスパイの件は綺麗サッパリ終わったのだと、テンパランスから聞いていた。
 現在進行中の仕事のことでもないとなると、この暴力の意味は一体何?
「最近、気が散っているみたいだな」
 上から降ってくる冷たい声に、一瞬背筋がヒヤッとする。
 言われたことに、思い当たるフシがあったからだ。
「…ちょっと仕事が上手く進んでいないんで、焦っているだけですよ」
 しかし悟られたくはないので、作り笑いを浮かべて見せる。
「―嘘、だな」
 イザヤはアッサリと見抜き、僕の頭を掴み上げると顔面をベッドに押し付けた。
「うぐぅっ…!」
「十五年もお前を近くに置いて観察しているとな、嘘なんてすぐに見抜けるんだ」
 いっ息ができない! 
 僕はあまりの苦しさに、後頭部を掴むイザヤの手を爪で引っ掻いた。
「っ!」
 力が緩んだ隙をついて、僕は彼の手から逃れた。
「げほっごほっ」
 …何だか今日はむせてばかりいる。
「しっ仕事に影響がなければいいでしょう? 何もミスはしていません」
 スプリングの強さが今は恨めしかった。
 鼻や口を押し潰されると、本当に苦しい。
 息する気管が全て塞がれると、流石に恐怖を感じる。
「お前も言うようになったな」
 僕が引っ掻いた傷を舌で舐めながら、イザヤは笑った。
 イヤ~な笑みだ。
 獲物を喰らおうとする野生の光が、眼に宿った。
 危険を察知して反射的に後ろに下がろうとするも、ここはベッドの上。
 ―逃げられない。
 ならば得意の話術で、何とかするしかない! 
 …もっともイザヤ相手にどこまで通用するか分からないが、とりあえず挑発的に笑って見せる。
「コレでも幹部になって数年経ちましたからね。アナタと対等とまではいかなくとも、反撃ぐらいは許されるでしょう?」
「そうだな。お前は最年少で幹部に上がったほどだ。教育係として誇らしい」
 言っていることはとても素晴らしいが、全部棒読みで語られても説得力は無い。

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