フリーのシナリオライターとして活動しています
「分かりました。でもあんまり心配し過ぎると、頭と胃、おかしくしちゃいますよ?」
『お前とデスのおかげでとっくにイかれている。まっ、憎まれ口叩けるのなら、まだ大丈夫なんだろう』
「ご心配、おかけします」
『ああ。それじゃあ切るぞ』
「ええ、また連絡をください」
 通話を切って溜息をつくと、背後の気配が動いた。
「相変わらずテンパランスはお前のことが心配みたいだな」
「大アルカナの良心的存在ですからね、彼は」
 気配の正体はイザヤだ。
 通話の途中から、僕の部屋に入って来ていた。
 それを知った上で会話を続けていたんだから、僕も性格悪いな。
「ラバーはどうした?」
「目的相手に仕事をしています。今夜は遅くなるでしょう」
「そうか」
 短く答えると、イザヤは僕に近付いて来た。
 ただならぬ気配を放ちながら。
「まだ何か?」
 それでも僕は笑みを浮かべ続ける。
 イザヤは両手の手袋を取り、床に投げ捨てた。
 そしてベッドに腰掛けている僕の後頭部に手を回し、いきなり髪の毛を掴んで後ろに引っ張った。
「イタッ! なっ何するんですか、いきなり!」
 仕事が遅れ気味なことに、腹を立てていたんだろうか?
「テンパランスにはよく俺達のことを報告しているのか?」
 …ああ、そっちか。
「聞かれたことに答えているだけです。彼は古株、僕はまだ若輩者ですから」
 いくら同じ幹部でも、権力まで同じとは限らない。
 もっともテンパランスとイザヤの立場は対等みたいだ。
 二人を十五年間見てきて、僕が知ったのはそのぐらいだ。
「それで? ベッドの中のことまで話したのか?」
「それは流石にルール違反でしょう?」
 ベッドマナーを話すほど、彼とは親しくない…と言うか、しゃべりたくない。
「ほお」
 …何か、機嫌、悪い?
 細められた漆黒の眼に、どこどなーく剣呑な色が浮かんでいるのは、僕の気のせいだろうか?
「しっ仕事でしたら、明日にでも良い報告をします。だから後一日だけ、待っていてくれませんか?」
「まだ期間以内だ。別に焦ってはいない」
「なら何で不機嫌なんですか?」
「不機嫌? 俺が?」
 僅かに眼を見開いたイザヤを見て、僕まで眼を丸くする。
「こういうことをしておいて、機嫌が良いワケありませんよね?」
 僕は引きつった笑いを浮かべながら、自分の後頭部を指さした。
 力は一向に緩まず、無理やり顔を上に向けさせられているので首がかなり痛い。
 イザヤはスッと眼を細め、僕の頭を今度はベッドに押し付けた。
「イタタっ、痛いですって! 何でそんなに機嫌悪いんですか!」
 この前のスパイの件は綺麗サッパリ終わったのだと、テンパランスから聞いていた。
 現在進行中の仕事のことでもないとなると、この暴力の意味は一体何?
「最近、気が散っているみたいだな」
 上から降ってくる冷たい声に、一瞬背筋がヒヤッとする。
 言われたことに、思い当たるフシがあったからだ。
「…ちょっと仕事が上手く進んでいないんで、焦っているだけですよ」
 しかし悟られたくはないので、作り笑いを浮かべて見せる。
「―嘘、だな」
 イザヤはアッサリと見抜き、僕の頭を掴み上げると顔面をベッドに押し付けた。
「うぐぅっ…!」
「十五年もお前を近くに置いて観察しているとな、嘘なんてすぐに見抜けるんだ」
 いっ息ができない! 
 僕はあまりの苦しさに、後頭部を掴むイザヤの手を爪で引っ掻いた。
「っ!」
 力が緩んだ隙をついて、僕は彼の手から逃れた。
「げほっごほっ」
 …何だか今日はむせてばかりいる。
「しっ仕事に影響がなければいいでしょう? 何もミスはしていません」
 スプリングの強さが今は恨めしかった。
 鼻や口を押し潰されると、本当に苦しい。
 息する気管が全て塞がれると、流石に恐怖を感じる。
「お前も言うようになったな」
 僕が引っ掻いた傷を舌で舐めながら、イザヤは笑った。
 イヤ~な笑みだ。
 獲物を喰らおうとする野生の光が、眼に宿った。
 危険を察知して反射的に後ろに下がろうとするも、ここはベッドの上。
 ―逃げられない。
 ならば得意の話術で、何とかするしかない! 
 …もっともイザヤ相手にどこまで通用するか分からないが、とりあえず挑発的に笑って見せる。
「コレでも幹部になって数年経ちましたからね。アナタと対等とまではいかなくとも、反撃ぐらいは許されるでしょう?」
「そうだな。お前は最年少で幹部に上がったほどだ。教育係として誇らしい」
 言っていることはとても素晴らしいが、全部棒読みで語られても説得力は無い。

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【2011/12/08 00:07】 | BL・<Fascinated by the darkness>
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