フリーのシナリオライターとして活動しています
「坊や、わたし達のこと、ご両親から聞いているかい?」
 テンパランスは柔らかく微笑みながらしゃがみ込み、僕と視線を合わせた。
 僕は震えながら首を横に振る。
「聞いて…いません」
「ならどうして隠し部屋に閉じ込められていたんだ?」
「家に誰か来る時……時々、父さんや母さんに入れられてて…」
「おやおや」
 テンパランスは肩を竦め、デスを見た。
「どうやら何も知らされていなかったみたいだな」
「まあ教えたところで、理解できないだろう」
「そりゃそうだが…」
 腕を組んで唸っているテンパランスとは対照的に、デスはずっと冷静だった。
「あの、父さんと母さんは?」
 迎えに来ると言っていた両親の声も姿もなかった。
 そのことに不安が駆られる。
 僕は八歳にして、眼の前にいる男達が普通ではないことを感じていたからだ。
 テンパランスは気まずそうに、僕から視線を外す。
「え~っとな」
「―来い」
「おっおい!」
 テンパランスが止めるのも聞かず、デスは僕の腕を掴んでリビングに向かった。
 そこには…テーブルに前のめりに倒れている父親と、床に倒れている母親の姿があった。
 二人とも多量の血を流し、死んでいることは一目で分かった。
「どっどうして…!」
 むせ返るような血の匂いに、眼の前が暗くなる。
 心臓が嫌な音を立て、体温が急激に下がっていく。
「お前の両親は組織の一員だった」
「組…織?」
「殺しを請け負う組織だ。二人は金銭的な部分を仕事にしていたが、金を横領していた。組織への裏切り行為だ」
「うそ…」
「嘘じゃない。その証拠に俺に殺されたんだ」
 デスの声は常に冷たく、平坦だった。
 それが逆に、真実味を帯びていた。
 僕は体から力が抜けて、床に崩れ落ちそうになる。
 けれどデスが腕を掴んでいるせいで、倒れなかった。
「さて、金はどうでもいいが、お前のことはどうしたものか」
「どうでも……いい?」
「ああ、金などどうでもいい。問題はお前の両親が組織を裏切ったことだからな」
 そこで僕は組織というものがどんなに恐ろしいものか、少しだけ理解できた。
 そしてそんな恐ろしいものに、両親が関わっていたことが二人の死よりもショックだった。
 デスは懐から拳銃を取り出すと、僕の額に当てる。
「おい、デス! やめろ! 子供は関係無いだろう?」
 その光景を見て、慌ててテンパランスがやって来た。
「関係なくはないだろう? 裏切り者どもの子供だ」
 僕から視線を外さないまま、黒き死神は冷ややかに言い放つ。
「しかしただ殺すのもつまらない。だからお前には選択を与えてやろう」
「選…択?」
「このまま俺に殺され、両親の元へ行くか。それとも俺と共に来て、生きるか。どっちがいい?」
 ―僕は思った。
 どちらにしろ、地獄じゃないか。
 死ぬも地獄、生きるも地獄ならば…この死神と生きるのもいいかもしれない。
 だから僕はデスを真っ直ぐに見つめ、こう言った。
「…アナタの元に、行きます。連れてって…ください」
 震える声で言うと、デスは頷き、拳銃をしまった。
「いいだろう。今日からお前は俺の所有物だ。逆らえばすぐに殺す。覚えておけ」
「……はい」
 そして僕は死神が差し出す手を取り、彼の所有物になることを自ら選んだ。
 思えば一目惚れだった。
 両親を殺した男に一目惚れするなんて、僕も大概イかれている。
 けれど漆黒の闇をまとい、まるで人形のように整った顔立ちを一切崩さない彼は、本物の死神のように見えたのだ。
 そう、彼はデス―『死神』だ。
 そしてテンパランスは『節制』。
 僕のマジシャンは『魔術師』。
 レンのラバーは『恋人』という意味がある。
 ただレンには双子の姉がいて、名前は愛(あい)。
 彼女もまた組織の幹部の一人で、二人合わせて『恋人達』の意味となる。
 ちなみにアイはラバーズと呼ばれ、彼女は別の仕事で今は遠くの土地にいる。
 僕達の役名は、タロットカードの大アルカナに由来する。
 組織の幹部は大アルカナの名前を付けられ、その下に小アルカナ、更に下にはトランプと呼ばれる者達がいた。
 ちなみに僕の両親は小アルカナの位置にいたらしい。
 僕達は私怨では一切動かない。
 依頼があって、仕事をこなし、報酬を貰う。
 ただその為だけに動くのだ。
 シンプルでいい。楽だ。
 僕の性にも合っているし、人を殺すことに躊躇いはない。
 …いや、迷いなど持たないように育てられたんだ。
 あの黒き死神に。
 僕は彼の元に十五年もいる。
 その間、人を殺す為の技術を叩きこまれ、学校になど行かせてもらえなかった。
 常識と必要最低限の知識は、彼から学んだ。
 今こうして潜入できるのも、彼の教育のおかげだろう。
 あんまり良い育て方ではなかったが、それでも多少は感謝していた。
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【2011/12/05 00:17】 | BL・<Fascinated by the darkness>
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