フリーのシナリオライターとして活動しています
 その男は、美しい容姿をしていた。
 …が、性格にとても問題があった。
「僕、汚いの嫌いなんだよね」
 極度の潔癖性で、汚い物が大嫌い。
 通っている高校も、彼のせいと言うかおかげで、ピカピカに掃除されている。
 掃除しているのは主に、彼のファンの女の子達。
 男子生徒達は当初、反発するのと同時に彼にケンカを売って、物の見事に玉砕していった…。
 彼はでも、女子生徒達も近づくのを嫌う。
 どんなに可愛く、キレイな女の子でも、側に近寄らせない。
 ―はず、だった。
 わたしはと言えば、彼には近寄らないタイプの生徒だった。
 君子危うきに近寄らずとは、彼の為にある言葉だと思った。
 なので触らぬ神に祟りなしとばかりに、遠くから見るだけだった。
 しかしある日の放課後。
 図書室に本を返しに行った後、帰りのバスの時間がせまっていた。
 人気の無い放課後だったので、わたしはつい階段を駆け下りた。
「ホントはダメなんだけど…」
 カバンを両腕に抱えながら走っていると、足がもつれた。
「えっ!?」
 階段は残り5段、落ちれば保健室行きになるのは眼に見えるようだった。
 しかし両手が塞がっていた為、諦めて眼を閉じ、身を固くした。

どさっ

 …けれど、わたしは受け止められた。
「…えっ?」
 恐る恐る眼を開け、顔を上げた。
 すると、彼が、いた。
「えっ、あっ、ごっゴメンなさい!」
 慌てて彼から離れようとしても、体が震えていまく動けない。
「あの、嫌なら床に突き飛ばしていいから!」
 本当は良くないが、廊下に到着した後なら、階段を落ちる衝撃よりも軽いと瞬時に思った。
 けれど彼はじっと、わたしを見ている。
「えっと…あの…」
 声をかけても、真っ直ぐに見られるだけ。
 …恥ずかしいのと、居心地が悪いのが、心の中で渦を巻く。
「…何で平気なんだろう?」
 ふと彼はポツッと呟いた。
「なっ何が?」
「何でキミに触って、僕は平気なんだろう?」
 …それをわたしに言われても…答えようがない。
「あっあの、受け止めてくれて本当にありがとう。その…そろそろ開放してほしいんだけど」
 未だわたしの体は彼の腕の中。
 だけど彼は逆に、わたしをぎゅぅっと抱き締めてきた。
「きゃああっ!」
「少し黙って」
「はっはい…」
 言われた通りに黙っていると、彼の手がわたしの体に触れる。
 首筋や頬に、彼の唇の感触が触れるたびに、声を上げそうになるのを歯を食いしばって耐えた。
「…やっぱり大丈夫みたいだ。何でだろう?」
 彼の両手が、わたしの頬を包み込む。
 そして自然な流れで―わたしにキスをする。
「うん、キスも平気みたいだ」
 …と言われても、わたしは石像のように固まってしまっていた。
「匂いも感触も悪くない。よし、キミ。明日から…いや、今日から僕の傍にいなよ」
「へっ…? ええっ!?」
 その時の声は、校舎中に響き渡ったと言う…。



 そして彼は本当に、傍にいるようにしてきた。
 と言うより、わたしに近付いて、抱き着いてくる。
 それを周囲の生徒達が見て、驚きと悲鳴の絶叫を上げていた。
 …主に女子生徒達が。
 わたしはと言えば、彼に振り回されっぱなし。
 イヤがっても彼の拘束力は強く、またそれ以上に女子生徒たちの視線が強かった…。
 別のクラスなのに、休み時間になるとくっついてくる。
 人がいない場所に移動すれば、キスをしてくる。
 それを繰り返す日々を送っているうちに、だんだんと慣れてきてしまった自分が怖い。
「キミってさ、キス、ヘタだよね」
 …しかし彼は正直者だった。
「何度キスしても、慣れないし」
 そう言って人のいない階段の踊り場で、またもキスしてくる。
「んっ…ふぅっ」
「まあそういう慣れない顔見るの、結構好きだから良いけどね」
 にやっと笑い、弾むように唇を合わせてくる。
「はっ…! だっだったら、他のもっと可愛いコとか、キレイなコにすれば良いんじゃないの?」
「キミだって可愛いよ?」
 うっ!
 美形に真正面から言われると、ウソでも信じてしまいそうになる。
「特にキスしている時の顔が好き」
 そう言っては何度も何度もキスをする。
「…最初、何でキミに触っても平気なのか。分からなくて近付いたんだ」
「答えは出たの?」
「うん。落ちてくるキミを見て、一目惚れしたんだね」
 …落下したのが、一目惚れの原因?
 何か素直に喜べない!
「あんなにドキドキしたの、始めてだったし。キスする時も、ドキドキする」
「そういうわりには慣れていそうだけど…」
「キミがいつまでも慣れないだけだって。…まあその方が、楽しめて良いけど」
「性格悪いね」
「うん。だからキミを他に取られてら、狂ってしまうかも」
 …彼なら有りうる。まず、わたし自身が被害者になるだろう。
「だからキミも僕以外を見ないで、触れないで」
「もう…そういうつもりだから、安心して」
 毎日のようにくっつかれ、キスをされ続けたら、わたしまで彼に夢中になってしまった。
 あんなに近寄らないようにしていたのに…。
 近寄れば、ファンのコ達と同じように、夢中になってしまうことが分かっていたから。
「うん、それなら良い。ウソついたら…分かるよね?」
 彼の目に、危険な光が宿る。
「うっうん」
「いっつも引っ付いているんだから、キミに何かあったらすぐ気付くから」
「だから無いって! こっこれだけくっつかれたら、近付く人なんていないから!」
 すでに全校生徒&先生達の間では、話が広まっている。
「そりゃあ良かった。周囲に見せつけてたかいがあった」
 ううっ…! やっぱり性格が悪い。
「ねぇ、たまにはキミからキスしてよ?」
「うっ…」
 けれど潔癖症の彼が、わたしにだけ触れてくれるのなら…。
 わたしは背伸びをして、彼にキスをした。
 思いと誓いを込めた、キスを―。


<終わり>

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【2011/11/26 20:28】 | <Kiss>シリーズ
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