お姫さまとのキス

2011.10.22(06:10)

「おっそーい!」
「はぁ…」
「アタシが呼んだらすぐ来てよ! じゃなきゃ、アンタにお給料払っている意味ないじゃない!」
 別にアナタから貰っているワケじゃないんですけどね。
「すみません。以後気を付けます」
「そうしてちょーだい。…お茶」
「はい」
 私は言われた通り、彼女の好きな緑茶を淹れる。
 美しく賢い彼女は、ウチの高校の『お姫さま』。
 有名私立校と名高いウチの学校の理事長の血縁者で、自身もすでに会社を経営している。
 そんな彼女に仕えるのが私の仕事。
 1年生の私が、2年生の彼女に仕えるのは中々難しい。
 何せ教室が遠い。
 彼女は特別教室がある棟の一室を占領していて、私の教室はその棟の真向かいにある。
 ケータイで呼び出されても、どんなに急いでも5分はかかってしまうのだが…もう、慣れた。
「どうぞ」
「ありがと」
 長く細い足を組み変え、彼女は緑茶を飲む。
「…うん、相変わらず良い味」
「ありがとうございます」
 彼女に雇われている理由は、実は良く分かっていない。
 元々奨学金を受けて入学してきた私は一般民。
 美しい彼女を見ながら、はじめて出会った時のことを思い出す。
 確か入学式が終わって帰ろうと、校庭を歩いていたら彼女に声をかけられた。
 一般民が入学してきたのが珍しいらしく、見に来たと言っていたな。
 そこで10秒ほどじっと顔を見つめられて、仕える仕事をしないかと誘われた。
 破格の給料の良さに、すぐさまOKした。
 仕事内容は、彼女が呼び出したらすぐに駆けつけること。
 まあ…結構タイヘンだ。
 いきなり休日とか家に帰った後に呼び出されることもあるから。
 でもそういう時は車で(高級車で)迎えに来てくれるしな(送ってもくれる)。
「ちょっと! 何ジロジロ見てんの? アタシの美しさに見惚れた?」
 自信ありげに微笑む彼女は、本当にキレイ。
「はい、お美しいです」
「なっ…!」
 すると彼女は顔を真っ赤にした。
「アンタって子は…。何でそう真顔で言えるのよ?」
「本当のことですから」
「だからぁ」
 彼女はオタオタする。
 その可愛い仕種に、思わず笑みが浮かぶ。
「今度は何笑ってるのよ!」
「あんまり可愛らしいので、つい」
「なーっ!」
 周りの評判では、彼女は『キレイ』で『賢く』て『傲慢』。
 でも可愛い一面もあるのだが、それは私だけの秘密。
「~~~もうっ! アンタってヘンな子ね。アタシがどんだけワガママ言ってもヒかないし」
「はあ…。まあ別に今に始まったことではありませんし」
 実は今、授業中。
 言わば二人とも、サボりだ。
「…どんなワガママもきけるってぇの?」
「はい、ご命令とあらば」
 不思議と彼女に命令されるのはキライじゃない。
 それにワガママそうに見えて、ムリなことは決してさせない。
「じゃあ…命令よ」
「はい」
「アタシにキスしなさい」
 そう言って艶やかに輝く唇を、指でさす。
「…はい?」
「アタシの命令なら利けるんでしょ? キスしてよ。もちろん唇にね」
「はあ…」
 …まあこんな具合に、気まぐれなこともやる。
 でもまあ…イヤ、ではないな。
「じゃあ失礼します」
「へっ?」
 彼女の驚いた顔が間近に見えた。
 顔を寄せれば当たり前、か。
 そのままキスをする。
 甘く柔らかい感触。
 彼女の可愛さが、唇の感触に表れているようだ。
 一瞬だけで、すぐに離れた。
「…これでよろしいですか?」
「~~~っ!」
 彼女は耳まで真っ赤になって、口を手で覆った。
 私は唇に付いたグロスを指で擦った。
「グロス、落ちちゃいましたね。今、拭くものを…」
「ちょっ…待ちなさい!」
 ぐいっと腕を引かれ、私は顔だけ振り返った。
「はい?」
「何でっ、キスしたの?」
「…命令でしたし」
「命令なら何だってきくの?」
「アナタならば、何だってききます」
「ならっ…!」
 彼女はそこで言葉を止めた。
 彼女には珍しく、言うことを躊躇っているようだった。
「…どんなお願いだってきいてくれるのよね?」
「ええ」
「それなら、アタシを愛しなさい」
 顔を真っ赤にしながらも、真剣な表情で命令をしてきた。
 ああ…美しい。
 大輪の赤いバラのような彼女の命令ならば。
 私は彼女の手を取り、膝をついた。
「はい、姫さま。永久に愛を誓います」



<終わり>
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