先輩とのキス

2011.10.17(00:10)

「久し振りね!」
「…えっ?」
 驚いて、言葉が出てこなかった。
 目の前には、中学時代の先輩がいた。
「わたし、ここの高校だったのよ。知らなかった?」
「しっ知らなかった、です」
 先輩は再会できたことに、素直に喜んでいた。
 …あの日のことが、無かったように。



 『あの日』。二年前の先輩の中学卒業式の日。
 あたしの面倒を良くみてくれて、仲が良かった先輩。
 ―好きだった。本気で。
 だから、別れ際。
 …キス、をしてしまった。
 先輩の許可も得ず。
 キスしてすぐ逃げた。
 それ以来、一度も会わなかったし、連絡も取り合わなかった。
 なのに…入学した高校で偶然の再会。
 すっ素直に喜べないっ…!
「今日が入学式だったのよね? 学校を案内するわ」
「えっ、えっ?」
 先輩はあたしの手を取り、歩き出した。
 確かに今日は入学式だった。
 終わって親と別れ、少し学校内を回ろうと思っていたところに、先輩と出くわしてしまった。
 …先輩にとって、あのキスは意味の無かったものなんだろうか?
 ……いや、意味を無くしたいキスだろうな。
 高校の中をいろいろと案内されたけど、あたしはどこか上の空だった。
 先輩はキレイになっていた。
 キレイで明るくて優しい。
 とても人気のある先輩だった。
 だから…あたしも恋したんだけどね。
 この二年…忘れるのに必死だった。
 勉強に友達付き合いに一生懸命になったおかげで、県でも有名進学校に推薦で入れた。
 なのにっ! …リサーチ不足だった。
 せめて先輩がどこの高校に通っているかぐらい、前以て調べておけばよかった。
「今日、新入生代表で挨拶してたわよね?」
「えっええ。あっ、見てました?」
「うん、もちろん! 体育館の隅の方で」
 今日は教師と保護者、そして新入生しか体育館に集まっていないハズだった。
「あなたがここに入学するの、新入生名簿で見て分かってたから。あっ、わたし生徒会書記になったの。良かったら生徒会に入らない? あなただったら、中学時代の時みたいに力になってくれそう」
 …そりゃ、中学時代も生徒会に入っていましたよ。
 副会長だった先輩目当てで入って、2年からは会長も務めました。
 けれど、ね。
「…遠慮しときます」
「えっ、何で? 何か入るクラブ、決めてたの?」
「決めてはいないですけど…先輩と一緒にいるのは、まだちょっと辛いですから」
 ここでハッキリ言っておいたほうがいいだろう。
「わたしと一緒なのは…イヤ?」
「そんな悲しそうな顔しないでください。…先輩だってイヤでしょ? いきなりキスして逃げるような後輩を側に置いとくなんて」
「えっ…」
 先輩の顔が真っ赤に染まった。
 …相変わらず可愛い人だなぁ。
 年上なのに、可愛い人。
 よくスキンシップが好きで、抱き締められていた。
 先輩の良い匂いと体の柔らかさに、自己嫌悪するほど感じてしまった昔。
 けれど…近くにいたら、また同じことを繰り返してしまうかもしれない。
「だから、生徒会には入れません。悪いですけど別の人を誘ってください」
「でっでも…!」
「お互いの為、です」
 そしてあたしは踵を返し、歩き出した。
「まっ待って!」
 なのに…先輩は後ろから抱き着いてきた。
「せっ先輩?」
「…もう離れるのは、イヤなの…」
 消え入りそうな声で、先輩は言った。
「ホントは…声をかけようか迷ったの。昔のことが、あるから。でも…」
 ぎゅうっと抱き締められ、あたしは動けなくなった。
 久し振りの先輩の匂いと体温に、一気に胸が高鳴る。
「見かけたらやっぱり…声かけてた。わたし、ヘンなのかなぁ?」
「…それを言うなら、あたしの方が変なんですよ。未だ先輩のこと、好きなんですから」
 ゆっくりと振り返ると、先輩は涙目になっていた。
「あの日…先輩を一方的に傷付けてしまったんだから、素直に諦めようと思っていました」
「きっ傷付いてなんかっ…! たっただちょっと、びっくりしただけで…」
「じゃあ、イヤじゃなかったですか?」
「うっ…うん。イヤじゃ、なかった」
 真っ赤な顔で俯く先輩は、やっぱり可愛い。
 だから、キスをした。
 甘く柔らかな唇。
 二年ぶりの先輩の唇。
「…今はどうです?」
「今も…イヤじゃないよ」
 あたしは先輩を抱き締めた。
 柔らかく、あたたかな感触。
「―好きです、先輩。…二年間、待たせてすみません」
「…うっううん! わたしの方こそゴメンね!」
 先輩はあたしを強く抱き締め返した。
 そして二人でしばらく抱き合った後、笑顔で離れた。
「…えへっ」
「じゃ、次は生徒会室に案内してくださいね」
「えっ?」
「二年も空白の時間があったんですよ? あたしは先輩と一分一秒でも一緒にいたいんです。だから、入ります」
 先輩の手をぎゅっと握り、歩き出した。
「生徒会に!」
「あっ…!」
 そして二人、歩き出した。



<終わり>
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