ヤンデレとのキス

2011.10.11(01:41)

「なぁ、お前って俺のこと、好きだよな?」
「えっ…そりゃあ好きだけど」
 オレは幼馴染の笑顔に、不安が過ぎった。
 隣に住む一つ年上の幼馴染は、何かとオレのことを構いたがる。
 同じ高校に通うようになってからは、特に束縛が強くなったような気がした。
 いつでもオレの側にいるし、離れる時はメールを頻繁に寄越す。
 …こういうのって恋人にする束縛なんじゃないかって、最近思い始めてきたけれど。
「それって特別の好き?」
 オレを後ろから抱き締めながら、間近で眼を見つめてくる。
「とっ特別って…」
 聞かれて顔が赤くなってしまう。
「うん。好きな人って意味。俺以上に好きな人はいないよな?」
 口ではそう言うものの、否定することを許さない意思をヒシヒシと感じる…。
「…ちなみにいるって答えたら?」
「とりあえず消えてもらうかな?」
 …何から? それともどこから?
 恐ろしくて聞けない…。
「俺は自信があるんだ。お前のことを世界で一番大事に思っているし、大切にもしているだろう?」
 口調は柔らかいものの、はっ背後から暗くて冷たい空気を感じる…!
 しかも逃れられないように、オレを抱きしめる手に力が込められる。
「えっと…」
「お前のこと、一番見続けたのは俺だ。そうだろう?」
「たっ確かにそうだけど……」
「それに一番近くにもいる。違っていないよな?」
「うっうん…」
 怖くて顔が見れない…。
 コレっていわゆる…ヤンデレ?
「でもその…オレも男だし…」
「関係ないよ。まあ俺はお前が女でも愛せる自信あるけど」
 うっ…。ハッキリ言われた。
「お前も俺のこと、好きだよな?」
 …否定したら、オレが消される。
 血の気が頭のてっぺんから、つま先まで一気に下がった。
「えっと…うん、と。……うっうん、好き」
 震えながら言うと、それでも背後から感じる空気はあたたかな物になる。
「あっ、やっぱりそうだったんだ。分かっていたけど、改めて聞くと嬉しいなぁ」
 と嬉しそうに後ろから頬ずりしてくる。
「うっ…」
 けれど幼馴染の腕の中は心地よくて、こうやって触られるのも気持ちいい。
 けど幼馴染に抱いている感情が、恋愛なのかと言うと、…あんまり分からない。
「じゃあキスして」
「えっ?」
 突然の言葉に思わず顔を後ろに向けると、すぐ近くに幼馴染の顔があった。
「あっ…」
「俺のことが好きなんだろう? なら、キスできるよね?」
「うっ…」
 コレは絶対、疑われている。
 ただ怖くて言っただけだと、気付かれている。
「ほら」
 ぐいっと体を引かれ、顔が近くなる。
「…めっ眼を閉じろよ」
「ヤダ。お前のキスしてくれる顔を見ていたい」
 逃げ道無し。
 いや、逃げたら恐ろしい目に合わせられる!
 オレは覚悟を決めて、向き直った。
 そしてゆっくりと、キスをした。
「んっ…」
 すぐに離れたけれど、幼馴染は嬉しそうに微笑む。
「ふっ…。やっぱりお前って俺のこと、好きなんだ」
 喜びながら、優しく抱き締めてくる。
 オレは何だか釈然としなかったけれど…。
 でもキスは不思議とイヤじゃなかった。
 それはきっと…。
「ああ、お返しをしないとな」
 そう言ってオレの顔中にキスの雨を降らせる。
 …こうやって毎日、甘やかされるからだ。
 そして唇が、オレの唇に触れる。
 優しく熱く、強く―。
 幼馴染の思いが唇から伝わってくるようだ。
「―今度は正面から聞かせて? 俺のこと、好き?」
 否定なんて許さないクセに…。
「好き…だ」
「うん、俺も好き」
 間近で狂気に満ちた目で見つめられると、何も言えなくなってしまう。
 幼馴染はそんなオレを、力いっぱい抱き締める。
「やっぱり可愛いなぁ。小さい時から可愛かったけど、今はもっと可愛い」
 可愛いって…高校生の男に言うセリフじゃないと思うけど。
「…なぁ、いつからオレのこと、好きだったんだ?」
「そんなの出会ってすぐ。あんまり可愛いんで、将来絶対結婚するんだって思ってた」
 …あれ?
 確かオレと幼馴染が出会ったのは、オレが小学1年生の時。
 幼馴染は小学2年生だったから、その頃には同性同士では結婚できないことを知って…いなかったのか?
「でも日本ではムリだってことは知ってた。だから大学までは日本にいて、お前が卒業したら外国へ行こう」
 ……えっ?
 何か今、再び血の気が引く言葉を聞いたような…。
「もしかして…外国で結婚する気か?」
「もちろん。ああでもその後は向こうにいても良いし、日本に戻るのも良い。どうせ二人暮らしを始めるんだから、俺はどっちでも構わないから。お前に任せる」
 結婚の意思は聞いてくれないのかっ!
 でもきっと…イヤだなんて言えば、無事では済まされない。
「そっそう…」
 だから今は、幼馴染に身を任せるしかない。
 …やっぱりヤンデレって、厄介だ。



<終わり>
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