フリーのシナリオライターとして活動しています
「おはよう!」
「おっおはよう…」
 朝、オレを見るなり、アイツは笑顔で抱きついてきた。
「今日のお弁当はサンドイッチだよ」
「へっへぇ」
 …コイツは周囲の視線を全く感じないのか?
 周りにいる学生達は、驚き半分・嫉妬半分の視線を向けてくる。
 いい加減、ウンザリしていた。



「ねぇねぇ、次の休み、映画見に行こーよ。僕、見たいのあるんだ」
「ああ、良いけど…」
 けれどコイツを突き放せない自分がいることも、自覚していた。
 キライではない。
 それは素直にそう思える。
 向けられる好意は、とても優しくて温かい。
 最近のコイツの表情は以前と比べて、とても柔らかくなった。
 生活態度も真面目になったし、昔付き合ってたヤツらともキッパリ縁を切ったらしい。
 それはまあ…良いんだけどさ。
「ねぇ、どう?」
「えっ?」
「サンドイッチの味! 頑張ったんだけど?」
 そう言ってハムサンドをオレの口に押し込んできた。
 オレは口を塞がれたので、両手で丸を作って、頷いて見せた。
 すると満面の笑顔になる。
 …最近になって、やっとコイツの本当の笑顔を見られるようになったと思う。
 前はまだちょっと…トゲトゲしかったからな。
「映画の待ち合わせ、何時にする?」
 ハムサンドを噛んで飲んで、オレは口を開いた。
「10時で良いだろう? 映画見て、お昼はどっかで食えば良いし。いつも弁当を作ってもらっているから、お礼に奢るよ」
「ホント? ラッキー!」
 あまりに嬉しそうな笑顔だったから、オレも笑った。
 休みの日に、どこかに行くのももう定番みたいになっていた。
 アイツはいつも待ち合わせ時間より先に来て、待っている。
 …何て言うか、本命には尽くすタイプなんだろうか?
 いや、それだったらオレの方もハッキリさせないと…。



 モヤモヤした気分のまま、待ち合わせ場所に行くと…。
「…っるさいな!」
 …ちょっと、いや、かなりヤバイ場面に遭遇してしまった。
 アイツが二人組みの男に絡まれている。
 いや、アレは…多分、昔付き合いがあった連中だろう。
 何となく、雰囲気で分かる。
「僕はもう遊ばないことにしたんだ! アッチに行けよ!」
 激しく拒絶するも、二人組みはニヤニヤしている。
 昔の悪いツケが回ってきているな。
 学校内ではともかく、街にはいろんなヤツらがいるからなぁ。
 オレは深くため息をつくと、アイツと二人組みの間に割って入った。
「はい、そこまで!」
 アイツの手を握り、二人組みを真っ直ぐに見た。
「悪いケド、今のコイツのツレはオレだけだから。じゃ!」
 そう言って人ゴミの中を走り出した。
「えっ!」
「いいから、走れって!」
 ―そして街の中にある公園まで走った。
 遊具よりも木が多いので、隠れる場所が多かった。
「ぜぇぜぇ…」
「はあはあ…」
 二人して息を荒げながら、木に寄り掛かった。
「あ~しんどかった。…さっきの、何?」
「えっと…」
 アイツは汗を拭いながら、口ごもった。
 …まっ、多分オレの考えた通りだろう。
 ポケットからハンカチを取り出して、アイツの汗を拭いた。
「あっ…」
「まっ、何はともあれ、無事でよかった」
 それは本心から出た言葉だった。
「…ゴメン」
「いいって」
 泣きそうな顔で謝られると、こっちも胸が痛くなる。
「やっぱり…僕、やめた方がいいのかな」
「何を?」
「キミを、好きでい続けること…」

 どくんっ…

 心臓がイヤな音を立てた。
「キミに言われるまで、ロクでもないことをしてきたのは事実だし…。今そのツケが回ってきても、僕は文句言えない立場だけど…。キミには嫌われたくない」
「それが何で諦めることにつながるんだよ?」
「だって…これからだって、何言われるか分かんないし…。僕、自分のことだけで、キミに何かあるなんて、思わなかったし」
「別に絡まれたワケじゃないんだから、大丈夫だよ」
「でもっ…!」
「いいからっ!」
 大声で遮って、思いっきり強く抱き締めた。
「…えっ?」
「いいから…オレを好きなままでいろよ」
 ぎゅうっと力を込める。
 離したら、このままどこかへ消えてしまうような気がしたから…。
「ホントに…良いの?」
「…ああ、オレも好きだから、さ」
 腕の中で、アイツがびくっと震えた。
「ずっと…言えなくてゴメン。でもお前のこと、好きだから。だから好きでい続けてほしいんだ」
「ふっ…!」
 体が小刻みに震えだした。
 …泣かしたか。
 何だかいっつもこんなパターン。
 でも…こんなコイツの表情、オレだけしか知らない。
 それがとても嬉しく思えるし、ずっと見ていたいと思う。
 だからアイツの頬を両手で包み、キスをした。
 涙で濡れていた唇だけど、やっぱり甘いキス。



「ねっねぇ、やっぱり離そうよ」
「ん? 別にいいじゃん。こんな人ゴミの中じゃ分からないって」
 オレはアイツの手を握って、街の中を歩いていた。
「でっでも…」
「だってお前、こうしなきゃどっかに行ってしまいそうだし」
「行かないよ! …僕はもう、キミから離れられないんだから」
 真っ赤な顔で目線をそらすコイツを、やっぱり好きだと思う。
「あっ、そうだ。言い忘れてたことがあったんだった」
「えっ、何?」
 キョトンとしているアイツの耳に、囁いた。
 ―愛しているよ、と。



<終わり>
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【2011/09/28 14:55】 | <Boys Kiss>シリーズ
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