小悪魔とのキス

2011.09.27(19:27)

 オレがアイツをはじめて見たのは、…よりにもよって、男とキスをしているところだった。
 資料室に用事があったオレは、引き戸を開け、そのシーンを見て…。
「ぎっ…ぎゃーーーっ!」
 …学校中に響き渡るような悲鳴を上げ、逃げ出した。
 その話を言ったら、友人達は苦笑した。
 アイツは軽くて有名。
 別名・『小悪魔』と呼ばれている。
 キスなんて軽いって言われた…。
 けれど実際、目の当たりにしたのはオレなので、同情して優しくしてくれた。
 オレは…しばらく立ち直れなかった。
 ウチの学校は男子校。
 そういうのが、いないことはないだろうとは思っていたんだけど…。
 実物を目の当たりにすると、ダメージがでかい…。
 アイツはキレイな顔をしていた。
 だから同級生に限らず、先輩・後輩、果ては教師にまで…というウワサを聞いた。
 …何も学校でしなくても…。
 駅前に行けば、ホテルがあるのに…。
 まあ学生だし? 
 金が無いのは分かるんだけどさ。
 オレが騒いだせいで、アイツは教師から呼び出されたみたいだ。
 だけど…関係を持っている教師がいたせいかおかげか、ほとんど無罪放免。
 ……何か間違っていないか?
 でも友人達は、もう関わらない方が良いと言った。
 オレ達とはある意味、生きている世界が違うのだと…。
 オレもそう思った。
 だからあえて近付こうとは思わなかったのに…。
「やっ」
「ゲッ…」
 帰ろうとして廊下を歩いていたら、何故か目の前にアイツが…。
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
 オレは血の気が引く顔で、首を横に振った。
「少しで済むからさ」
 手を合わせ、上目遣いで見てくるも、オレは鳥肌が立つだけだ。
「いっいや、今日はちょっと用事あってさ…」
 ウソをついて逃げようとしたけれど、
「じゃあちょっとで済ます」
 そう言って、オレの腕を掴んで歩き出した。
 ひっ人の話を聞かない!?
 そして連れてかれたのは、よりにもよって例の資料室。
 思わず当時のことが頭の中でよみがえり、ダメージ再発…。
「この間のこと、詫びてなかったなぁと思って」
 資料室に入ると、腕を離してくれた。
「いっいや、オレの方こそ、大声だしてゴメン。怒られたんだって?」
「まあね。でもいつものことだから」
 …何が『いつものこと』? 
 ツッコミたいけど、怖くて出来ない…。
「まあとりあえず、ゴメンね。びっくりさせただろう?」
「そりゃあもう…」
 しばらく忘れられなかったぐらい…。
「うん、だから…」
 いきなりアイツの顔が間近に迫ってきた。
 逃げるヒマも無く…、

 チュッ

 …キスされてしまった。
「えっ…」
「あっ、大声はナシ」
「むぐっ」
 続いて口を塞がれた。
「…そのまま聞いてて。もしかして僕のこと、忘れられなかった?」
 尋ねられても答えられないので、とりあえず…首を縦に振った。
「じゃあ…キスして、イヤだった?」
 イヤ…では無かったので、首を横に振る。
「フフッ。キミって素直だよね」
 そう言って笑うが…どう見ても、「単純だ」と言われている気がしてならない。
 罰が悪くなり、オレはアイツの手を握って、口元から離した。
「…言いたいことはそれだけ? なら金輪際、オレに関わらないでほしい」
 きっぱり言うと、アイツの目が大きく見開いた。
「悪いけど、オレは男を恋愛対象に思わないし、考えられない。だけどお前の行動をどうこう言うつもりも無いよ。人それぞれだし」
 恋愛のことに口をはさむ権利なんて、誰にも無い。
 結局、自分自身が満足していれば、周りからどう言われたって幸福を感じるものだ。
 だから…オレは何も関与しないことを決めた。
「ただ学校で派手な動きをするのはやめたら? みっともないと思う」
 カッとアイツの顔が真っ赤に染まった。

バチンッ!

「いっ…てぇ」
 思いっきり、ビンタされた。
 いや、グーじゃないだけ、まだマシか。
「…図星つかれて怒るぐらいなら、もうちょっとマシな恋愛しなよ?」
「キミに何がっ…!」
「…うん、でも」
 オレは手を伸ばし、アイツの頬に触れた。
「傷付いた顔してる」
 ビクッと体が震えた。
 …こんなにキレイな顔と肌をしているのに、心はズタズタだ。
「自分を幸せにする恋愛、見つけた方が良い。いろいろな人と付き合うってのも勉強だろうけど、もう…いいだろう?」
 頬を撫でて、オレは手を離した。
「あっ…」
「…じゃな」
 オレはそのまま資料室を出た。
「ふぅ…」
 関与しないと言いながらも、思わず説教してしまった…。
「いつっ…」
 口の中が軽く切れていた。
 …やっぱり男だよな。
 キレイだけど…。
 って、いかんいかん!
 男は恋愛対象じゃないって思っていたのに…アイツなら、案外アリかも?ってちょっと思ってしまった。
 キスも…イヤじゃなかったしな。
 でも他のヤツとも、いっぱいしてるだろうしなぁー。
 …あっ、落ち込んできた。
「ちょっと待って!」
 しかしいきなり腕を捕まれ、現実に戻った。
 うをっ! 追いかけて来た…。
 もしかして、追加ビンタ?
「なっ何?」
 アイツは息を切らせながら、オレを見た。
「本気の恋愛…しろって言ったじゃん」
「あっああ」
「なら、キミにする」
「…えっ?」
 今何か、小悪魔の囁きが…。
「だから、キミに恋することにするよ」
「でっでも、オレは男は…」
「でも僕がキスして、イヤじゃなかったんだろう?」
「うぐっ」
 それは…そうだけど。
「キミって本当に素直だよね。そういうところ、気に入ったよ」
 そう言ってまたキスをしてくる。
 オレは何故か抵抗出来ない…。
 キスを甘く感じてしまうんだから、やっぱりオレは…。
「これからよろしくね!」
 抱きついてくる体も、突き放せない。
 ああ…明日から、オレの運命はどうなるんだ?


<終わり>
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