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悪魔とのキス

 はじめて出会った時から、何だか怖かった。
 アイツとは高校二年になってから知り合った。
 同じクラスになって、名簿順に席順が決まって、アイツがオレの後ろになった。
 まあ…適当に話はしていた。
 世間話ぐらいはしていた。
 けれど話せば話すほど、近くにいればいるほど、オレはアイツが怖くなってきた。
 だから席替えをした時は、かなりほっとした。
 クラスのアイツの評判は、かなり良い。
 物腰が柔らかくて、成績もそこそこ。
 容姿も良い方で誰に対しても平等だ。
 そりゃまあそこそこ人気は出るだろう。
 なのに何故か、オレだけがアイツを苦手としていた。
 その理由が分からないまま、夏休みに入った。
「あちぃ~」
 なのにオレは学校へ来ていた。
 別に補習を受けに来たワケじゃない。
 ウチの学校は夏休みに補習もするが、学力向上の為に勉強会もする。
 オレは数学がイマイチ不得意で、期末も赤点ギリギリだった。
 なので自己反省して、勉強会に参加したのだ。
 しかしクーラーの効いていない教室は、蒸し風呂状態だった。
 そして…何故か、アイツまで来ていた。
 平然とした顔で補習を受けている。
 …人間としての感覚がないのか?
 ぼんやりそう思っていると、授業が終わった。
 フラフラしながら、一階にある自販機に向かった。
「お茶お茶…」
 冷たいお茶のペットボトルを買って、近くのベンチに腰掛けた。
「あちぃ~」
 …今日の授業は殆ど頭に入っていなかった。
 暑いせいもあるが、アイツがいたせいで…。
 どうしても意識がアイツに向かってしまう。
 そのせいで、ノートもろくに取っていない。
「あ~くそっ」
 一気にお茶を飲む。
「美味しそうだね」
「ブッ!」
 いつの間にか、アイツが目の前にいた。
 …涼しげな笑顔で。
「何だかフラフラしてたけど、大丈夫?」
「だっ大丈夫っ」
 正直今の方が大丈夫じゃない。
「お茶、ちょうだい」
 そう言ってOKしないまま、ペットを取られた。
「あっ!」
 止める間も無く、口を付けた。
「―お茶、好きだよね」
 一口飲んで、返してきた。
 …コレをどうしろと?
「まあ、な…」
「パンでもご飯でも、お菓子食べてる時でもお茶飲んでる」
「…よく見てるな」
「キミほどじゃないよ」
 にこっと笑顔を見せられても…。
「ねぇ、ちょっと聞きたかったんだけどさ」
「何だ?」
「キミって、俺の事、好きでしょ?」

 ゴトンッ

 …キャップを締めて良かった。
 ……と言うかコイツ、暑さで頭がやられたか?
「ずっと俺のこと見てるし、そうじゃないかって思ってたんだけど」
「見てたのは否定しないけど…」
「ホラ、ね」
「でもそれと好きという感情がつながるとは…」
「んっ」
 …その先の言葉は言えなかった。
 口を塞がれたからだ。
「…えっ?」
「キスだよ。別に気持ち悪くないでしょ?」
 ………まあ、確かに。
「俺もね、最初は見られているってだけじゃ、恋にはならないだろうなって思ってたんだけど」
 …電波系だったのか、コイツ。
「でも行動してみなきゃ、やっぱりダメだよね」
 そう言ってまた笑う。
「…ちなみに聞くけど、お前はオレのこと…」
「うん、もちろん好きだよ」
 そうあっさり言われても…。
「一目で俺の本性、見抜いた人なんてキミぐらいだもの」
「………はい?」
「だってキミ、俺の事、怖がってるでしょ?」

 ぎくっ。

 …バレてた。
「お前の本性って…」
「まあ欲しい物が手段を選ばないこと? それにわりとワガママかなぁ」
 納得。
「それを今まで上手く隠してきたのに。キミときたらすぐに察して逃げるんだもの」
 確かに…。
「そういう人、今までいなかったからね。だから好きになったのかも」
 …どういう理屈だ。
「あっ、でもちゃんと好きだよ? 俺、キライな人にはキスしないし」
 ……出来ないし、じゃないのか。
 いろいろとツッコミどころが多いヤツだ。
「だからさ」
 顔と共に近付いてきたので、思わず後ろに引いた。
「今日から付き合おーよ。幸せにするよ?」
 何か違うっ!
 頭の中で、警報が激しく鳴り響く。
 でも…同じ強さで、コイツと一緒にいたいと思ってしまう。
 マズイだろ…。
「だからさ、俺の側にいてよ。俺のこと、もっとよく知って?」
 甘く囁かれ、再び唇が重なる。
 胸がカッと熱くなった。
 アイツの体を抱き締め、強く引き寄せた。
「んんっ」
 唇から漏れる息が熱い―。
 ヤバイ。
 これは絶対に危険。
 だけど…。
「…ふふっ。これでキミは俺のものだよ」
 ぎゅっと抱き締められ、離れられない。
「俺のことを俺より知っているキミが好き。もう絶対に離さないから」
 熱さで何も考えられなくなる。
 ああ…危険だ、コイツは。



<終わり>
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