フリーのシナリオライターとして活動しています
 さすがは医者の住居…と感心している間もなく、彼の性格が爆発した。
 薄々とは感じてたが、彼はとっても執着心が強い。
 そして一度決めると、絶対に覆さない。
 だから今みたいに予告なく帰宅時間が遅くなると、とんでもないことをする。
 彼の職場はマンションから近いので、定時で帰ってくる彼にはどうしても追い付かない。
 それでもなるべく急いで帰ろうとした。
 しかし、…扉の前で、俺は止まった。
 防音壁なので、音は一切聞こえない。
 でも部屋から漏れ出る異様なオーラが、可視できるのが恐ろしい。
「ううっ…!」
 先に帰ってきているであろう、彼の怒気を感じられる。
 勇気を振り絞り、ドアノブに手をかけた。
「たっただいま帰り…ひぃっ!」
 部屋の中は、惨劇が起こっていた。
 ありとあらゆる物が床に散らばり、そして壁に投げつけられていた。
 朝見たモデルルームのような綺麗な部屋の光景は、すでに過去のものになってしまった。
「…おかえり」
 そして惨劇の場の中心に、彼が笑顔で立っていた。
 …冷気をまといながら。
「すっすみません! 急に仕事が入って、遅くなったんです!」
 カバンを胸に抱えながら、必死に謝る。
 …彼は少しでも予告していた帰宅時間が遅れると、キれて暴れる。
 その後の俺の身に降りかかることは、恐ろしくて誰にも相談できない。
「ふぅん?」
「本当ですって! 兄貴に聞けば、分かりますから」
 足元に気をつけながら、彼に近付く。
 …本当は逃げ出したい。
 けれど逃げて捕まった後は、言葉にできないことをされた経験があるので、絶対に逃げられない。
「…空耶くんの仕事ってさ、結構忙しい上に不規則だよね?」
「まっまあそうですね」
 いつ急な仕事が入るとか、前以って分からないのが辛い仕事ではある。
「もう辞めちゃえば?」
「うっ…!」
 いつかは言い出されるとは覚悟していたものの、実際言われるとキツイ。
「平日は会社終わった後でも連絡来る上に、残業も多い。休みはなかなか取れないから、二人で一緒にいる時間も少ないし」
 …それも言われそうだったから、彼の元に引っ越してくることにしたのに。
「キミ一人ぐらい、僕が養ってあげるからさ。ねっ?」
 彼は俺の頬を両手で包み込み、間近で微笑んだ。
 こっ怖いっ! 
 悪魔どころか、魔王レベルの恐ろしさだっ…!
「でっでも、会社は俺がいなくちゃ成り立たない部分もありまして…かっ改善しますので、勘弁してもらえないでしょうか?」
 動揺のし過ぎで、敬語がおかしくなっている。
 でも直そうと思って、できることじゃない。
「ダメ」
 …彼の気迫が怖過ぎるから。
「八雲には僕から言っておくから。キミは大人しくここで僕を待ってて?」
「えっ…ええぇ~?」
 血の気が引く顔で、笑っても変に見えるだろう。
「うん、そうしな。専業主夫になりなよ、空耶くん」
 …俺も常々自分で自分のことを、執念深いと思っていた。
 自分をフッた男のことを、ずっと思い続けていたからだ。
 でもその相手は、自分以上の執念深さを持っていた。
 八年間、離れていた分だけ、溜まっているのかもしれないが…コレは少々どころか、かなりヤリ過ぎな気がする。
「…櫂都さん、自分で自分の行動、精神科のお医者さんとして見て、どういうふうに思いますか?」
「イかれているよね」
 精一杯の嫌味も、彼は笑顔で応える。
「でもそれってしょうがないんじゃないかな?」
「しょうがない?」
「そっ。だって」
 彼はゆっくりとキスをしてきた。
「恋って人を狂わせる力があるんだから」
「…それって、卑怯な言い方に聞こえますが」
 少しムッとしてしまう。
 愛の告白は、こういう時に言われると異様な力を持つから。
「ふふっ、ゴメンね? 僕もまさかこんなにキミに夢中になるなんて思わなかった」
 そう言って美しい狂人は、優しく抱き締めてくる。
「愛しているんだ、空耶くん。全部、僕の物になって?」
「…本当にズルいですね、櫂都さん」
 愛しい人にそんなことを言われたら、逆らえない。
「―良いですよ。俺の全てをあなたに差し上げます。代わりに、あなたを俺にください」
「良いよ。僕はすでにキミの物だ」
 この言葉は…本気? 
 それとも誤魔化し?
 …いや、どちらでも良い。
 今はただ、目の前に彼がいれば、それで良い。



【終わり】

★最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪

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【2011/09/19 01:14】 | BL・<空に月が輝く時>
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