「空に月が輝く時」・13

2011.09.14(00:08)

 彼は片手にボトルを持って、もう片方の手で俺を指さし、にっこり微笑んだ。
「椎名空耶くん、キミを愛することにする」
「……………」
 アルコールが脳にまで回ったのだろうか?
 ジト目で見つめている間に、再びグラスにワインを注ぐ。
 しかしすでに中身は少なくなっていて、グラスに半分しか注がれなかった。
「キミはもうずっと、僕のことを好きでいてくれたしね。僕の本当の姿を知っても、変わらなかった。僕が愛するには、充分な資格がある」
 何だろうこの、はるか高みから見下ろされている気分は?
「…あなたは俺のことが大キライなんでしょう?」
「その純粋さが怖いだけだって。でもキミを恋人にしたら、解消されそうだ」
「なっ!」
 こっ恋人ってはっきり言った! 
 顔に一気に熱が集まる。
「今思えば、僕もキミのことがずっと好きだったのかもね。こんなに僕を愛してくれる人間なんて他にいないし?」
 そう言って頷きながら、ワインを一気に飲み干した。
「なっ何を今更っ! 勝手だと思わないんですか?」
「思うよ? でも先に告白したのは空耶くんの方だし。恋愛は先に惚れた方が弱いんだよ?」
「…それって精神科の医者としての意見ですか?」
「いや、ただの噂」
 …しかし確かにそうなので、頭を抱えてしまう。
「僕が精神科の医者を目指したのって、自分の気持ちを知る為だったんだ」
 不意に真面目な声になり、彼は遠い目をした。
「八雲にコンプレックスを抱きながらも、親友でいれたこと。そして空耶くんのことを利用価値がなくなった後も、構い続けた理由を知りたかった」
「…答えは見つかったんですか?」
「そうだねぇ。…どうだろう?」
 彼は笑う。
 はっきりと答えを出さないまま…。
「俺のことは…正直、本当に好きではないのでしょう?」
「今はよく分からない。でもキミを愛したいと思うよ。今のところはとりあえず、特別な人って言える」
 特別、か…。
 それが愛しい人、と言ってくれる日はくるんだろうか?
 僅かな希望を、彼から与えられたことが嬉しい。
 いつかまた、捨てられるかもしれない。
 それでも愛してもらえる可能性があるなら…。
「…一つ、約束してくれませんか?」
「なに?」
「俺にはもう、偽らないでください」
 俺は真っ直ぐ、彼の眼を見つめながら言った。
「邪険にしたいのなら、してもいいです。構ってほしくないなら、はっきり言ってもらってもいいです。ただ…嘘は止めてください。偽りの優しさはもう、必要ないですから」
「空耶くん…。…うん、分かった。約束する。キミには嘘・偽りは一切しないよ」
 彼は真面目な顔で頷いた後、ふとイタズラを思いついたように笑みを浮かべた。
「誤魔化したりはするかもしれないけど?」
 …やっぱりこの人には、俺の気持ちなんて理解できないのかもしれない。
 でもそんな人だからこそ、今でも思い続けている俺はバカだ。
「それで結構ですから、できる限りは守ってくださいね!」
「善処するよ」
 …望みは薄いと思って良いだろう。
「でも空耶くんはどんな僕でも、受け入れてしまうんだろうね」
「そうでしょうね。惚れた弱みがありますから」
「アハハッ。…じゃあ心の次は、体で受け入れてもらおうかな?」
「えっ…?」
 テーブルに置いた俺の手に、彼は自分の手を重ねた。
「かっ櫂都さん?」
 彼の眼が妖しく光っていることに気付き、身の危険を感じた俺は後ろに引こうとした。
 けれど掴まれている手を強く握り締められ、動きは止まる。
「ホントのことを言うとね。昨夜はあんまり眠れなかったんだ」
「あれだけお酒を飲んだのにですか?」
「お酒で酔っぱらったことはほとんどないねぇ」
 なら昨夜のアレは、演技…。
 やっぱり拒絶した方がいいのかもしれない。
「まあ身も心も疲れてはいたんだけどね。―空耶くんのベッドで寝ていると思うと、ね? しかも近くには本人がいたわけだし」
 彼は俺の手を掴み上げ、そっと指に口づけた。
 ―これは身の危険というより、明らかに貞操の危機っ!
「ちょっ、ウソでしょう?」
「嘘は言わない約束したでしょう?」
「うぐっ…!」
 自分で言った言葉に、追いつめられるとは…!
「本当は襲ってしまおうかと、昨夜は一晩中考えてた。でも何でそんなことを思うのか、自分でも理解できていなかったから、自制したんだ」
「じゃあ…今は理解できているって言うんですか?」
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