【幸せのロウソク】・2

2011.08.27(20:20)

 ロウソクを購入した日から、人生が変わった。
 あの日の夕食は夢で見た通り、ハンバーグだった。
 その後、あのロウソクを付けて夢を見ると、必ず現実になった。
 夢は楽しく幸せに満ちたもので、現実も楽しく幸せだった。
 素敵な彼氏ができたり、テストが満点だったり。おこづかいが上がったり、街でモデルの雑誌の人に声をかけられたりした。

―まるで一生分の幸せを味わっているみたい―

 ロウソクの香りに包まれながら、ぼんやりそう思った。
 しかしふと気付くと、ロウソクは残り少なくなっていた。
 思えば不思議なロウソクだ。
 火を付け続けていたある日、蕾の天辺が溶けて、一気に花びらが開いた。
 それはまるで生花のような美しさだった。
 香りもさることながら、こういう仕掛けのあるキャンドルならば、あの店の人気商品だというのもうなづける。
 そろそろ残りも切れるだろう。
 明日、またあの店に行こうと考えながら、眠りについた。



 翌日。腕時計を見て、渋い顔になった。
 帰ろうとしたら、担任に捕まった。
 内容はモデル雑誌社から学校へ連絡が入り、芸能界入りを認めているかどうかの問い合わせがあったと言うのだ。
 職員室にまで連れてかれて、そこで一時間グチられた。
 芸能界入りをすれば、勉強をおろそかにするのではないのか、他の生徒に悪影響を与えるんじゃないかと言われ続けた。
 しおらしく聞いていたが本当はイライラしていた。
 早くあの店に行きたいのに、こんな所で足止めをくらうなんて思わなかった。
 やがて他の先生方が止めに入り、やっと解放された。
 しかしすでに辺りは薄暗くなっていた。
 最初に来店した時のように、夕闇がおとずれた。
 思わず舌打ちしてしまう。
 40過ぎても結婚していない担任の女性は、女子生徒に人気が無かった。
 女子生徒には必要以上に厳しく、男子生徒には甘かったからだ。
 今回のことだって、学校側は芸能界のことを容認しているのに、あえての呼び出し。
 同じ学校の彼氏にも何かとちょっかいを出しているのも気にくわない。

―消えれば良いのに…!―

 ふと出た呟きだったが、本心だった。
 だがその考えもすぐに消えた。
 目的の店の前に到着したからだ。
 深く息を吐いて、扉を開けた。

―おや、いらっしゃいませ―

 青年の笑顔を見て、ほっとした。

―こんにちは。あの、この前買ったキャンドルが欲しいんですけど、まだ同じものありますか?―

 自分でも信じられないほどの、最上級の笑顔と声を出した。
 しかし青年の表情は一瞬にして困惑の色に染まった。

―無くなったんですか?―

―いっいえ! もうすぐ切れそうなので、次のを買っておこうかなと―

―そうでしたか…―

 青年はそう言うと、視線を棚に向けた。

―残念ですが、あのキャンドルは一つ一つ特別にできていまして、同じものはこの世に二つと無いんです―

―あっ、それじゃ別の形のでも…―

―まことに申し訳ありませんが、お一人様一点限りになっているんですよ―

―えっ、そうなんですか―

 青年には揺るがない意志があるようだ。
 しかしふと表情を和らげた。

―しかしもし、キャンドルが溶けて無くなり、その溶けたロウソクを当店へお持ちいただければ、また新品をお売りいたします―

 溶けて原型が無くなったキャンドルを証拠品に持って来いと言うことか。
 おかしな話だが、この店のやり方ならば仕方ない。

―わかりました。それじゃまた来ます―

 頭を下げて帰ろうとした時、呼び止められた。

―お売りしたキャンドルですが、開花しましたか?―

 青年に聞かれ、ふと何日か前のことを思い出した。 
 確かにあのキャンドルは蕾から花開いた。
 そのことを伝えると、青年は安堵した笑みを浮かべた。

―良かった。ならばあなたに幸せは訪れたんですね―

 この問いには笑顔で答えた。
 結局、キャンドルは買えなかったが、青年との会話で心が満ちた。
 彼はあのキャンドルで自分が幸せになることを心から望み、喜んでくれている。
 そのことが分かっただけでも来たかいがあった。
 イヤな気分はすっかり消え去り、家に帰った。
 だがその夜、キャンドルをつけて夢見た内容は、担任が車にひかれて亡くなる夢だった。
 恐ろしい夢、悪夢のはずなのに、顔は笑ってしまった。



 次の日の朝。
 キャンドルがいよいよ残り少なくなっていることに気付いた。
 良い夢を見ているほど、長くキャンドルをつけてしまう。
 特にここのところは、自分の思い描く通りの夢が見られるせいか、キャンドルは急速に量を減らしていった。
 もはや花の形はなく、あと一回火を付ければ終わりだろう。
 最後はどんな夢を見ようかと、楽しく考えながら学校へ行った。
 …だが。
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