【悪魔のクッキング】・後編

2011.08.27(19:22)

 ビニールに入っていたのは、20代前半の若い男だった。
 しかし白目をむき、首には絞められた痕があった。
「おっ、良いじゃねぇか! アンタんとこ、良い仕事するな!」
「まあ本当だねぇ。奥さん、これならお子さんも喜ぶんじゃないかい?」
「そうね! 今日はせっかくだから、コレを頂くわ! 今すぐ捌ける?」
「モチロン! 肉屋の意地にかけて、上手く捌くさ!」
「ちょいと待っててね! 今、コッチに代金を払うから」
 精肉屋の妻が仕入れ業者の男に金を支払っているうちに、精肉屋の周囲には人盛りができてきた。
 みな買い物カゴを持った、奥さま達だ。
 制肉屋の夫が引きずっていくピニール袋を、興味津々に見つめている。
「アラ、活きの良いのが入ったわねぇ」
「これから捌くらしいわよ」
「じゃあ待ってようかしら?」
 ワイワイ華やぐ奥さま方を見て、精肉店の妻はにこにこ笑顔になった。
「ホント、アンタんとこは良い仕事してくれるから、嬉しいわ」
「ありがとうございます! これからもどうぞごヒイキに!」
 青年は代金を受け取ると、笑顔で車に乗って去って行った。
 しばらくして、奥さま達は大量の肉を買って、満足げに家に帰った。
 家に帰れば、子供達がすでに帰っていた。
「お帰り、お母さん。お腹空いたよぉ」
「オヤツのドーナッツ、置いてったでしょう?」
「もう食べちゃった。ハンバーグ、まだぁ?」
 子供2人に抱き着かれ、足元をフラフラさせながらも台所へ歩く。
「いっ今作るからね! それまで宿題と復習を済ませときなさい」
「「は~い!」」
 素直に返事をして、2人の子供は二階の子供部屋に行った。
 そして買ってきたばかりのものを、冷蔵庫と冷凍庫に次々入れていく。
「さて、とっとと準備しないと、今度は旦那にまで抱きつかれる」
 深く息を吐くと、エプロンをして、気合を入れた。
「よし! 今日は活きの良い赤身を買えたことだし、料理も頑張りましょう!」
 そして三十分後、美味しそうな匂いにつられて、2人の子供が下りてきた。
「お母さん、できたの?」
「できた?」
「もうすぐできるから、テーブル支度して」
「「はぁい!」」
 子供達はテーブルの上を拭いたり、準備をしたりした。
 そのうち、夫が帰ってきた。
「…そんなに強い匂いを放っているのかしら?」
 ちょうど料理が出来た時に帰ってきたので、妻は思わず辺りの匂いを嗅いだ。
「おっ、すぐに夕飯か」
「えっええ、アナタは着替えてきてくださいな」
「分かった」
 テーブルに次々と料理を並べる。
 メインはハンバーグ。その他にもフルーツサラダやパンを並べる。
「わあ! 美味しそうね、お母さん」
「やっぱりお母さんは料理上手だね」
「褒めてくれるのは嬉しいケド、お手伝いの手は止めないでね?」
 子供達がスープ皿を受け取ってくれるのを待つ間は、結構長かった。
「さあ! 食べましょう!」
 食卓には全ての料理がそろった。
 そして家族の人数もそろった。
「いただきます!」
 四人の声がキレイにそろい、まずはハンバーグに手が伸びる。
「うん! 美味しい!」
「本当だ! 美味しいね!」
「美味いよ、母さん。味付け変わった?」
「うふふ。お肉屋さんが、良い仕入先を見つけてくれたのよ。これからお肉が美味しく食べられるわよ」
「「わあーい!」」
「明日は焼肉な」
「はいはい」

―平和な家庭の食卓の光景が、そこにはあった―




材料を抜かせば。

【終わり】
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