【共に行く者】・12

2011.08.25(22:02)

 明るい霊安室では、泣き声が響き渡っていた。
 この病院は珍しくも、病院の最上階に霊安室があった。
 外は明るく、太陽の光に照らされていた。
 そこで棺桶に入っているのは、オレの親友の角汰(かくた)孝一と、仁田利実だった。
 オレが眼を覚ました時、いたのはバスの中ではなく、真っ白な病室だった。
 そこには体中に包帯や手当てをされた仲間達がいて、事情を説明してくれた。
 バスは洞窟に入ったところで、落石に巻き込まれた。
 洞窟自体がもう古く、老朽化していた為、崩れてきたそうだ。
 バスは洞窟に閉じ込められた。
 だがその前に、落石を避けようとして、バスは急ブレーキをかけた為、車体は横に倒れてしまったらしい。
 そこで…孝一と利実は命を落とした。
 近くに座っていた人が起きていて、孝一のことを教えてくれた。
 オレは孝一の手を掴んだまま、眠っていた。
 事故も一瞬のことで、オレは起きている暇もなかった。
 だが孝一は起きていた。
 車体が傾く寸前、眠っているオレを抱き込むようにして…オレが受けるはずだった傷を負った。
 オレを…庇って…。
 そして利実は起きていたものの、窓際に座っていたせいで、窓から投げ出されたらしい。
 そこへ落石が落ちてきて…。
 他の人達は多少怪我を負ったものの、無事だった。
 オレも多少のかすり傷を負っただけだった。
 2人の体は霊安室に並べられた。
 いろいろ、たくさんの人が出入りしている。
 その様子をオレはぼんやり見ていた。
 やがて、孝一の母親がオレの前に現われた。
 挨拶しなきゃいけないのに…アレ以来、上手くしゃべることができなかった。
 だから軽く頭を下げるだけ。
 その様子を見て、おばさんは涙を流しながら、手を差し出してきた。
 視線を向けると、孝一のケータイ電話だった。
 おばさんは言った。
 孝一は発見された時、オレを抱き締めながらも、その手にはケータイ電話を握り締めていたんだと…。
 オレはケータイ電話を受け取り、驚いた。
 孝一のケータイには、あのストラップがついていたからだ。
 2人の誓いの意味を持つ、ストラップが…。
 オレは傷だらけの孝一のケータイ電話を握り締め、自分のケータイ電話を取り出した。
 オレのケータイ電話にも、例のストラップはついていた。
「孝一…!」
 トパーズの石言葉は、友愛・潔白・友情・希望・名誉。
 孝一はその中で、友情という言葉に惹かれたんだろう。
 本当は今すぐにでも、孝一の元へ行きたかった。
 けれどアイツは言った。
 孝一にとって、オレが全て。
 オレが生きていることは、自分が生きていることなんだと!
 ならオレは…自ら命を絶つことはできない。
 それは孝一のもう1つの命を、絶つことと同じだから。
 アイツは…オレを庇って死ぬことを、あの時気付いたんだろう。
 それで生死の境をさ迷っていたオレを起こした。
 最後に会話をしたくて…。
 例のおそろいのケータイストラップを渡したくて、起こしたんだ。
 そして連れて行った。
 利実を。
 自分の黄泉路への旅に、道連れに選んだ。
 このまま利実をほっとけば、現実に戻った時、きっとオレにちょっかいをかけるだろう。
 利実が危ない連中との付き合いがあることは、オレ達は知っていた。
 そして利実の執着の深さも…。
 だから連れて行ったんだ。
 オレではなく、オレに害を成す者を…。
 オレの為に。
 ならオレは生きなきゃならない。
 そして…やがてオレの寿命がきた時、アイツの元へ行こう。
 きっと、ずっと待っていてくれる。
「孝一…!」
 オレはふらつきながら、孝一の棺桶に向かった。
 両手にケータイ電話を握り締め、孝一の元へ。
「…待っていてくれ。オレはオレの寿命が尽きるまで生きたら、絶対にお前の元へ行くから」
 何も話すことのできなくなった、オレの親友。
 最後にその頭を撫でる。
「その時はまたこうやって、頭を撫でてやる」
 ボタボタと孝一の顔に、オレの涙が降り注ぐ。
 孝一は笑顔だった。
 いつもの癒やしの笑顔を浮かべていた。
 オレはこの笑顔を胸に刻み込み、孝一から離れた。
「それまでの…さよならだ」
 両手のケータイ電話を握り締め、オレは孝一に背を向けた。
 きっと、時間なんてあっと言う間に過ぎる。
 お前がいなければ、余計に、だ。
 そして忘れないだろう。
 孝一、お前との誓いを。




 そして行く先は地獄を通り越した奈落の闇―。
 本来ならば命ある者を道連れとしたアイツの行った先は、濁った色を通り越した、闇の世界。
 オレは孝一と一緒にいることを望んだ。
 だから…オレもまた、奈落に落ちなければならない。
「孝一、お前と同じ所へ、必ずオレも行く」
 俯いた顔で、オレは笑みを浮かべた。

【完】
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