フリーのシナリオライターとして活動しています
 明るい霊安室では、泣き声が響き渡っていた。
 この病院は珍しくも、病院の最上階に霊安室があった。
 外は明るく、太陽の光に照らされていた。
 そこで棺桶に入っているのは、オレの親友の角汰(かくた)孝一と、仁田利実だった。
 オレが眼を覚ました時、いたのはバスの中ではなく、真っ白な病室だった。
 そこには体中に包帯や手当てをされた仲間達がいて、事情を説明してくれた。
 バスは洞窟に入ったところで、落石に巻き込まれた。
 洞窟自体がもう古く、老朽化していた為、崩れてきたそうだ。
 バスは洞窟に閉じ込められた。
 だがその前に、落石を避けようとして、バスは急ブレーキをかけた為、車体は横に倒れてしまったらしい。
 そこで…孝一と利実は命を落とした。
 近くに座っていた人が起きていて、孝一のことを教えてくれた。
 オレは孝一の手を掴んだまま、眠っていた。
 事故も一瞬のことで、オレは起きている暇もなかった。
 だが孝一は起きていた。
 車体が傾く寸前、眠っているオレを抱き込むようにして…オレが受けるはずだった傷を負った。
 オレを…庇って…。
 そして利実は起きていたものの、窓際に座っていたせいで、窓から投げ出されたらしい。
 そこへ落石が落ちてきて…。
 他の人達は多少怪我を負ったものの、無事だった。
 オレも多少のかすり傷を負っただけだった。
 2人の体は霊安室に並べられた。
 いろいろ、たくさんの人が出入りしている。
 その様子をオレはぼんやり見ていた。
 やがて、孝一の母親がオレの前に現われた。
 挨拶しなきゃいけないのに…アレ以来、上手くしゃべることができなかった。
 だから軽く頭を下げるだけ。
 その様子を見て、おばさんは涙を流しながら、手を差し出してきた。
 視線を向けると、孝一のケータイ電話だった。
 おばさんは言った。
 孝一は発見された時、オレを抱き締めながらも、その手にはケータイ電話を握り締めていたんだと…。
 オレはケータイ電話を受け取り、驚いた。
 孝一のケータイには、あのストラップがついていたからだ。
 2人の誓いの意味を持つ、ストラップが…。
 オレは傷だらけの孝一のケータイ電話を握り締め、自分のケータイ電話を取り出した。
 オレのケータイ電話にも、例のストラップはついていた。
「孝一…!」
 トパーズの石言葉は、友愛・潔白・友情・希望・名誉。
 孝一はその中で、友情という言葉に惹かれたんだろう。
 本当は今すぐにでも、孝一の元へ行きたかった。
 けれどアイツは言った。
 孝一にとって、オレが全て。
 オレが生きていることは、自分が生きていることなんだと!
 ならオレは…自ら命を絶つことはできない。
 それは孝一のもう1つの命を、絶つことと同じだから。
 アイツは…オレを庇って死ぬことを、あの時気付いたんだろう。
 それで生死の境をさ迷っていたオレを起こした。
 最後に会話をしたくて…。
 例のおそろいのケータイストラップを渡したくて、起こしたんだ。
 そして連れて行った。
 利実を。
 自分の黄泉路への旅に、道連れに選んだ。
 このまま利実をほっとけば、現実に戻った時、きっとオレにちょっかいをかけるだろう。
 利実が危ない連中との付き合いがあることは、オレ達は知っていた。
 そして利実の執着の深さも…。
 だから連れて行ったんだ。
 オレではなく、オレに害を成す者を…。
 オレの為に。
 ならオレは生きなきゃならない。
 そして…やがてオレの寿命がきた時、アイツの元へ行こう。
 きっと、ずっと待っていてくれる。
「孝一…!」
 オレはふらつきながら、孝一の棺桶に向かった。
 両手にケータイ電話を握り締め、孝一の元へ。
「…待っていてくれ。オレはオレの寿命が尽きるまで生きたら、絶対にお前の元へ行くから」
 何も話すことのできなくなった、オレの親友。
 最後にその頭を撫でる。
「その時はまたこうやって、頭を撫でてやる」
 ボタボタと孝一の顔に、オレの涙が降り注ぐ。
 孝一は笑顔だった。
 いつもの癒やしの笑顔を浮かべていた。
 オレはこの笑顔を胸に刻み込み、孝一から離れた。
「それまでの…さよならだ」
 両手のケータイ電話を握り締め、オレは孝一に背を向けた。
 きっと、時間なんてあっと言う間に過ぎる。
 お前がいなければ、余計に、だ。
 そして忘れないだろう。
 孝一、お前との誓いを。




 そして行く先は地獄を通り越した奈落の闇―。
 本来ならば命ある者を道連れとしたアイツの行った先は、濁った色を通り越した、闇の世界。
 オレは孝一と一緒にいることを望んだ。
 だから…オレもまた、奈落に落ちなければならない。
「孝一、お前と同じ所へ、必ずオレも行く」
 俯いた顔で、オレは笑みを浮かべた。

【完】
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【2011/08/25 22:02】 | 【BL風味・ホラー/オカルト短編集】
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