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Hosimure

フリーのシナリオライターとして活動しています

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甘い鎖・1

〈ピピピッ ピピピッ〉
 携帯電話の目覚ましアラームが、部屋の中に鳴り響く。
「んんっ…」
 手を伸ばし、床に置いてあった携帯電話を取る。そしてアラームを止めて、再び夢の中に…行く前に、部屋の扉をノックされ、侵入者が部屋の中に入ってきた。
「綾(りょう)、おはよう。アラームが鳴ったよ」
「…はよ」
 低い声で挨拶をして、それでもオレは布団の中に潜り込んだ。
 何でこうも毎朝毎朝、目覚ましアラームが鳴った十秒後にオレの部屋に入るかなぁ。
「二度寝は禁止。とっとと起きる」
 そう言って侵入者は布団を勢い良く剥ぎ取った。
「うわっ、さむっ!」
「温かい朝食が待っているから、とっとと支度すること。分かったな?」
「…わーったよ」
 布団を取られては、降参するしかない。
「よし、良い子だ」
 ぐしゃぐしゃの髪を、キレイな手が撫でる。そしてそっとオレの額にキスをする。
「早く準備して来いよ」
「へいへい」
 侵入者は老若男女がうっとりするほど美しい笑みを浮かべ、部屋から出て行った。
「…はあ」
 残ったオレは、深くため息をつく。
 毎度のことながら、オレも諦めが悪いのかもしれない。
 しかしどう考えても、あの侵入者の方がおかしいと思うのは、オレだけじゃない気がする。
「何で毎朝毎朝、隣の家に来て朝食を作るんだよ?」
 侵入者こと真宮(まみや)光雅(こうが)の家は、オレの家の隣だ。
 ここら辺では目立つ高級マンションが、オレ達の住居だった。同じ八階で、くしくもオレの部屋と光雅の部屋は角部屋同士なので、向かい合っている。
 オレが小学校に入学するのと同時に引っ越してきてからというもの、アイツの顔を見ない日はほとんどない。
 それがまた嬉しいような、イヤなような、とっても複雑な気持ちになる今日この頃だった。
「…と考えている間に準備するか」
 あんまり遅いと今度は腕を捕まれ、強制的に準備をさせられる。…しかもアイツは満面の笑みと優しい口調で命じるから、背筋が凍り付く。
 バスルームに行き、シャワーを浴びるのが日課だった。なかなか目覚めが悪いのが、オレの短所だ。
 風呂から上がった後は、髪を拭きながら学校へ行く準備をする。ドライヤーで適当に髪を乾かし、制服に着替えて、カバンを持ってリビングに行く。
 しかし廊下に飾ってある等身大の鏡を見て、うんざりしてしまう。
 オレと光雅が着ているのは、全国でも有名な進学校として名高い青輪学院高等部のブレザー制服。男子校で中学・高校と一貫した学校だ。
 私立だが、公立と同じぐらいの料金で通えることから、地元では倍率がかなり高いらしい。
 オレも光雅も、中学部の時から青輪の生徒だけど…。
「オレ、公立でも良かったんだけどな…」
 今更口に出しても意味が無いことは分かっていた。分かってはいたけれど出してしまうんだから、本当に諦めが悪い。
「綾? 何しているんだ?」
 リビングではエプロン姿の光雅がいる。…すでに見慣れている光景なのが、何となくイヤだ。
「どっかおかしいところがないかの点検」
「うん…。髪がまだ濡れているな」
「そのうち乾くって」
「風邪引くぞ」
「大丈夫だって」
 オレが滅多に風邪を引かないこと、知っているクセに…。心配そうに髪を撫でてほしくない。
「それより朝飯、食おうぜ」
「ああ、そうだな。飲み物は何がいい?」
「コーヒー」
「分かった」
 オレはすでに朝食の準備が整ったテーブルを見て、思わず深く息を吐いてしまう。
 コンソメスープに、さまざまな種類のサンドイッチ、それにフルーツサラダまで…どこぞの高級ホテルの朝食を思い起こさせるような料理だ。
 しかも見た目だけではなく、味まで近いかそれ以上なのがある意味恐ろしい。
「ホラ、熱いから冷まして飲むんだぞ」
「はいはい」
 目の前に置かれた真っ白なコーヒーカップには、香ばしいコーヒーが注がれ、白いミルクが渦を巻いていた。
 オレが何も言わなくても、好みの量のミルクを入れてくれる。まあ付き合いが十年にもなると自然と覚えるんだろうけど、オレは光雅の好みなんざいちいち覚えてはいない。
 光雅はオレの向かいのイスに座り、手を合わせて頭を下げる。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
 オレも光雅に倣う。毎朝のことだった。光雅は躾に厳しい。自分にも厳しい人だけど、オレへの場合は教育もあるからだろう。
「味はどうかな?」
「んっ、んまいよ」
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