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【Kill Love】・1

2011.06.25(01:14)

 朝、俺の仕事は電話をかけることから始まる。
「おはようございます、社長。朝ですよ。起きていますか?」
『んあ~…。もう朝かぁ』
 電話越しに聞こえるのは、寝惚けた彼の声。
「もうすぐ御宅へ向かいます。それまで起きていてくださいね?」
『努力はするぅ』
「…分かりました。それでは切りますよ」
 いったん電話を切り、車に乗り込んだ。
 彼の住む高級マンションまで、車で15分とかからない。
 指紋と声、そして動脈のチェックを受け、カードを通してようやく中に入れる。
 最上階のフロアは全て、彼のモノだ。
 寝室に入ると…やはり二度寝していた。
「起きてください、社長。朝食の準備をしときますから、シャワーを浴びてきてください」
「んあっ…? ああ」
 寝惚けてだらしのない彼は、コレでも世界に通用する宝石ブランドの社長だ。
 若干36歳ながらも、世界を相手に商売をしている。
 俺は彼の秘書で、25歳。
 もう3年も彼の元で働いている。
 社長をシャワールームに押し込んで、キッチンに立つ。
 冷蔵庫のものは2日前に買い揃えたけれど、そろそろ買い足しに行った方が良いのかもしれない。
 エプロンをして、朝食の準備にとりかかった。
 そして朝食が出来上がる頃には、シャワーを浴び終えた彼が来た。
「おおっ、うまそー。良くオレが洋食食いたいこと分かったな」
「あなたの側にいれば、分かりますよ」
 気分屋な彼は、扱いが難しい。
 けれど年月を重ねているうちに、顔を見れば何となく分かってしまうようになった。
「朝食を取りながらで結構ですので、本日の予定を聞いてください」
「え~? そんな消化に悪い。車ん中で聞くからいいだろう?」
「車の中ではより詳細なことをお伝えします。今から言うのは今日の予定の大雑把なことだけです」
「ぶ~」
 文句を言うのはいつものこと。
 俺は気にせず、手帳に書き込んだ予定を読み上げる。
 20時頃の予定を言っている時に、彼の顔色が悪いことに気付いた。
「どうしました?」
「『どうしました?』じゃないだろ! 何だその殺人スケジュール!」
「死にませんよ。代わりに明日は午前中、半休を取ってあるんですから」
 あっさり言い返し、空になった皿を片付け始めた。
「ううっ! アメとムチを使い分けやがって」
「それが秘書というものです」
 皿の代わりにコーヒーカップを置く。
「5分で飲み終えてくださいね。俺は片付けと用意をしときますから」
「へーい」
 ダラダラしながらも、全ての用事が済む頃には、きちんとスーツを着て準備万端なんだから、やっぱり彼には社長という地位は相応しいんだろう。
 彼の荷物を持ち、車に乗り込んだ。
 彼は後部座席に乗ると、ノートパソコンを立ち上げる。
「あ~…ウチの株、上がったな」
「上がるように日々頑張っていますからね」
「誰が?」
「もちろん、社員達がですよ」
「ひでっ!」
「36にもなって、そのリアクションはやめてください。部下に示しがつきません」
「きっついなー。ウチの秘書は」
「上がだらしないと、下が引き締まるんですよ」
 すかさず言い返しながらも、安全運転で会社へ向かう。
 高級ビルが立ち並ぶ中、一際目立つビルがある。
 そこが彼と俺の働く会社。
 車が入ると、幹部達が玄関で待っているのが見えた。
 俺は先に降りて、彼のドアを開け、カバンを渡す。
「いよっ、おはようさん」
「おはようございます、社長」
 社員達が次々と頭を下げ、挨拶をする中、俺は部下の1人に車のキーを渡した。
 駐車場へはいつもの者に入れてもらう。
 そして彼の後を歩きながらも、周囲に気を回す。
 会社の中で何か不穏な動きがないか、感じ取る為に。

 チリッ…

 わずかに肌が反応した。
 彼の顔を見ると、俺を見て笑った。
 彼も感じ取ったのだろう。
 会社に流れる不穏な空気を。
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