Kissシリーズ・学園のキス1(1)

2017.07.30(12:22)

「お前、どういうつもりだ?」
「何がッスか?」
「この進路希望だ」
 生徒指導室で、アタシの目の前にいる担任の先生は思いっきり顔をしかめて、アタシが書いた進路希望の用紙をピラピラと振って見せる。
そこに書いてあるのは、

先生の奥さん』

 という心から希望している進路だ。
「ふざけないで、どこの大学でも就職でもいいから書け」
「だーからぁ、本気ッス。アタシの気持ちはずっと先生に言ってたッスよ」
「その口調も止めろ…」
 先生はただでさえくたびれた中年オヤジなのに、今は余計にくたびれ感が出ている。
 先生とアタシが出会ったのは、中学一年の時。
 ウチの学校は共学で中・高一貫、しかも寮住まい。
 かなり厳しい進学校として有名で、アタシなんかは変わり種。
 けれど運動も勉強も上位の方だから、別に文句は言われない。
 …目の前にいる先生以外は。
 先生は国語担当の教師で、中学一年の時、アタシは国語係だった。
 教科の係は各クラス男女一名ずつ。
 先生が使う資料を運んだり、宿題の提出物を回収して渡す役目をする。
 ――が、アタシのパートナーは当時、係をサボってばっかいた。
 成績が思うように伸びなかったのと、アタシを敵視していた為、係の役目を押し付けやがった…!
 でもそのことに気付いた先生が、パートナーを説得してくれたおかげで、何とか役目をこなしてくれるようになった。
 一見はボサ~とした冴えないオッサンだけど、生徒のことをよく見て知っていてくれる。
 そんな先生に惹かれたアタシは、中学一年から先生に迫っていた。
 けれど年齢差が二回りも違ったせいで、最初は子供扱いだった。
 まあ確かに十二歳の女の子に、三十六歳の男が告白されても、懐かれたとしか思えない。
 だから思いきって高校に上がってすぐ、先生の部屋に夜這いに行ったのだ。
 先生は、男先生専用の寮の一階の角部屋だったから、侵入は楽だったなぁ。
 アタシも中等部の頃は二人部屋だったけど、高等部では一人部屋だから、抜け出しても結構バレない。
 だから男子寮と女子寮が離れていても、夜中に密会する恋人は多い。
 アタシと先生のように。
「アタシ、もう先生のせいで傷モノッスよ。責任取ってください」
「真夜中に夜這いしに来た女子高校生が何を言う」
 あっ、怒った。
 まあ確かに最初はそうだったけど…。
「でもそれから三年間は受け入れてくれたじゃないッスか」
「それはお前がいつまでも窓の外にいるからだろう!」
 …おっしゃる通りで。
 でもその気になれば、寮の部屋は空きがあるんだから移動することだってできた。
 それをしなかったんだから、多少なりと脈はあるはず!
「でも先生も無用心ッスよ。窓に鍵かけないなんて」
「寮の敷地で危ないヤツが侵入するとは思わなかったんだ。お前みたいなヤツがいるとは予想外だったがな」
 ヤレヤレといった感じで肩を竦める先生。
「…とにかく、お前は優秀な生徒だ。希望すればどこへだって行けるだろう? ふざけるのもいい加減にして、本気で進路を考えろ」
「何度も言わせないでほしいッス。アタシは先生の嫁になりたいッスよ。…それとも先生はこうやって女子生徒の気持ちを弄んでいたッスか?」

 ゴンッ!

「あいたっ!」
「…お前のその態度といい口調といい…頭の良いヤツはどこかおかしなもんだ」
 おっ女の子の頭にゲンコツを落とすか、普通?
「大体、何で俺なんだ? 遊ぶのもここら辺にしといた方が良いだろう?」
 先生の言葉で、アタシは首を傾げる。
「…まさか先生、アタシに弄ばれていると思っていたッスか?」
「そうじゃない! …ただ、擬似的な恋愛関係だっただけだろう?」
 ムッ!
「何ッスか、それ? アタシは本気ッス! だから先生の部屋に夜毎、通っていたし…」
「それをここで言うなっ!」
 小声で怒鳴って、先生はアタシの口を塞ぐ。
 まあ確かに人気の少なくなった校舎の中とはいえ、誰が通り過ぎるか分からないしな。
「…でもアタシ、ずっと待っていったッスよ? 先生がちゃんと独身で恋人いないことを知ったから、迫ったんだし…」
「そもそも三十過ぎの男に迫るな。俺ももう四十二だぞ?」
「知ってるッス。アタシはもう時期、十八。結婚できるッス」
「親の承諾が必要だろう?」
 …それもごもっとも。
「…じゃあ先生は何でアタシに付き合ってくれたんッスか? 遊びだったら遊びだったと、言ってほしいッス」
 ウソ、本当は言ってほしくない。
 けれど切るのならば、バッサリ切ってほしい。
 変な期待を持たせずに、背中を押してほしいと思うアタシはワガママだな。
 案の定、先生は困り顔で腕を組んで、ため息まで吐く。
「…正直言えば、こんなオヤジに懐いてくれるお前は可愛かった。まるで妹か娘が出来た気分だったしな」
 それは知っている。一緒にいて、感じていたから。
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