Kissシリーズ・お笑いのキス2(2)

2017.07.27(05:58)

 でもアタシにまで、可愛さを求めないでほしいというのが本音。
 サッパリ・アッサリしているのが、自分の良いところだと思っている。
 それは服装や格好なんかにも現れている。
 スカートとかワンピースを着るのは好き。
 でもやっぱりデザインはシンプルなのを選ぶ。
 彼が着るような、フリルとレースはご遠慮願いたい。
「はあ…」
 ファミレスに入ると、彼はトイレに行った。
 …もちろん男性用のに行くワケだけど、他の人に見つかったら声かけられないだろうか?
 そんな心配をしていると、不意に2人組の男に声をかけられた。
 2人ともアタシ達と同じ歳らしい。
 ファミレスに入って来たアタシ達を見て、どうやらナンパしようと決めていたらしい。
 …と言うか、彼を女の子と勘違いしているな?
 そして彼らの口ぶりから、どうやらお目当てはアタシではなく、彼の方らしい。
 まっ、男の子って可愛い女の子を好むみたいだし。
 どう断ろうか考えていると、彼が戻って来た。
「どうしたの?」
 そして男の子達に声をかけられているアタシを見て、ビックリしている。
 男の子達は戻ってきた彼に、嬉しそうに声をかける。
 話の内容は彼を褒め称える言葉や、どこかに遊びに行こうという言葉。
「えっ、あの…」
 彼は二人の勢いに押され気味。
 だけどどんどんその表情が暗くなる。
 男の子達はそれでも話し続ける。
 ―やがて、彼がゆっくりと顔を上げた。
「…いい加減にしやがれっ!」
 いきなり顔付きも声も『男』になったことに、二人はギョッとして彼から離れる。
「こちとらデート中なんだ! しつこいナンパ野郎共は引っ込んでろ!」
 …ちなみに彼が住んでいる地域では、ちょっと訛り言葉を使われる。
 彼は立派に、その言葉遣いを受け継いだらしい。
「はっ! いっいけない…。ボクったら…」
 周囲がし~ん…と静まり返ってしまったので、彼も我に返るのが早かった。
 アタシはため息を一つし、荷物を持って立ち上がる。
 まだ注文する前で良かった。
「じゃっ、お店の邪魔になっちゃうと悪いから、行きましょうか」
 しゅん…と落ち込んでいる彼の手を、今度はアタシが繋いで店から出た。

 とりあえず落ち着かせようと人気の少ない住宅地まで歩いて来た。
 その間、彼はしょんぼりしたまま無口。
「…気にすることないわよ。ああいうタイプにはガッチリ言った方が良いんだから」
「うん…。でもあんなところで男の子っぽいとこを見せちゃうなんて…ボクもまだまだだなあ」
 がっくりと肩を落とす彼だけど…。
「でもアタシは惚れ直しちゃった」
「えっ?」
「だってかっこよかったから。それにアタシを守ってくれたじゃない」
 そう、女の子の格好をしてても、ちゃんとアタシを守ってくれる。
 一緒にいて、楽しい気分にさせてくれる。
 だからアタシは彼の告白を受け入れたのだ。
「確かにアタシはあなたに『お嫁さんになって』とは言ったけど、『女の子になって』とは言わなかったでしょ?」
「うっうん…」
「まあ女装するのは良いけれど、中身まで女の子になられちゃ、流石にアタシの立場がないし」
 とは言え、彼は家事全般が得意で趣味。
 毎日、アタシにお弁当とオヤツの差し入れをしてくれるし、時には手作りの洋服やアクセサリーまでくれる。
 女の子として叶わない部分が多いけれど、変わってほしくない部分もある。
「ボク、さ…」
 不意に彼は立ち止まるので、手を繋いでいるアタシまで立ち止まった。
「小さい頃、あんな告白しちゃったでしょう? でもキミが言ってくれた言葉もあるから、こういう格好をするようになったんだ」
 そう言って髪の毛の先を指でいじる。
 可愛い仕草だなぁ。
「可愛くなれるように一生懸命努力してきたつもりだったのに……。やっぱりキミの可愛さには叶わないなぁ」
 …でも言っていることは、イマイチ理解できない。
「可愛いってアタシのどこが?」
「全部だよ!」
 彼には珍しく、声を荒げた。
「え~? でもアタシなんて地味じゃない」
「違うよ! 可憐なんだよ」
 その言葉は真正面から彼に打ち返したい。
 けれどこれまた珍しく、本気でムキになっているので、黙っておこう。
 いつもは可愛らしい仕草しか見ていないから、何か珍しい。
「派手に着飾ったりしない分、可愛さが滲み出ていると言うか…」
 それはきっと…彼にしか感じないことだな。
 だってアタシ自身、全く分からないことだから。
「だからキミの理想通りの人になりたかったのに…」
「アラ、アタシは充分、今のあなたがステキだと思っているわよ?」
「ほっホント?」
「うん」
 男の娘でも、可愛い姿を見れるのは嬉しい。
 ちゃんとアタシを大事にしてくれるし、文句なんて一つもない。
 だからそう思っていることを証明したくって、彼の手を引いて、キスをする。
「んっ!?」
 突然のことに、彼は眼を白黒させる。
 いくら人気の少ない住宅地とは言え、全く人がいないワケじゃない。
「ねっ? コレで安心した?」
「うっうん…」
 白い頬を赤く染め、夢見心地の顔をする彼を見ると、愛おしいと思える。
「ねっねぇ」
「ん? なぁに?」
「もう一回…良い?」
 上目遣いでねだられると、断れるワケもない。
 軽くため息を吐くと、アタシは再び彼にキスをした。
 周囲から戸惑いの雰囲気が伝わってくるけど、素知らぬフリで。
 まあ何も知らない人から見れば、女の子同士のキスシーンに見えるだろうな。
 苦笑しながら唇を離すと、今度はぎゅっと抱き着かれた。
「ボク…絶対キミのお嫁さんになるからね!」
「はいはい」
 でも結婚式では、彼もウエディングドレスを着たいと言い出すかもしれない。
 そしたら…アタシがタキシードを着ようっかな?
 お揃いでウエディングドレスを着るよりは、まだマシかも、ね?

<終わり>
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