フリーのシナリオライターとして活動しています
「エプロン外すから、ちょっと離れて」
「あっ、うん」
 あたしが離れると、アイツはエプロンを脱いだ。
 そして改めてあたしと真正面から向き合う。
「ここが良い? それとも移動する?」
「ここで良い」
 そう言って今度は正面から抱き着く。
 アイツはちゃんと抱きとめて、優しくあたしの頭や背中を撫でてくれる。
 …昔は同じくらいの身長だったのに。
 いつの間にかコイツは『男』に、あたしは『女』になってしまった。
 いつまでも同じではいられないことは分かっていても、なかなか受け入れられないんだから、あたしってガキなのかもしれない。
 顔だけ上げて、じっとアイツの顔を見つめる。
 すると理解したように笑みを浮かべ、キスしてくれる。
「んっ…」
 手であたしの顎を軽く持ち上げるようにして、キスしてくるんだから、ちょっとムカつく。
 だから両腕をアイツの首に回して、あたしの方に引き寄せる。
「ふっ…。どうしたの? 今日はやたらと積極的だね」
 口ではそう言いながらも、顔は喜んでいる。
「…ねぇ、前から一度聞きたかったんだけど」
 唇に息がかかるように、わざとしゃべる。
「なに?」
「なぁんであたしの面倒を見ているのよ? 恋人として求めていないのに、どんな魂胆なの?」
 そう、ハッキリとコイツから告白されたことはない。
 けれどあたしが『抱き締めてほしい』と言えば抱き締めてくれるし、『キスしてほしい』と言ったらキスしてくれる。
 でもコイツからは、一度たりとも求められたことはない。
 いつだって、あたしの方から言っている。
「魂胆なんて人聞きが悪い。ただ俺は、お前が俺なしでは生きられないようにしただけなのに」
 …何か今、とてつもなく物騒な言葉を聞いた気がする。
「…はい?」
「だから、もうお前は俺なしでは生きられないだろう? 今までたくさん面倒をみてきて甘やかしてきたのは、そういう下心があったから」
 爽やかな笑みを浮かべながら言っても、その意味の黒さは隠せない。
 それに魂胆も下心も同じような意味…って、ツッコミどころはそこじゃない!
「あっあたしがアンタから離れられなくして、どうしたいのよ!」
 そう、それが問題。
 確かに今までの生活に居心地の良さを感じていたのは事実だけど、あたしだってやろうと思えば一人でやれる。
「うん。だから俺から一生離れられなくしたいだけ」
 そう言ってアイツの方からキスしてくる。
 …え~っと、もしかして、いや、もしかしなくても。
「…今のってプロポーズ?」
「ああ、そうかも」
「……じゃあ、あたしのことが好きなの?」
「それは…考えたことがなかったな」
「んなっ!?」
 真面目な顔で否定しやがった!
「だって今まで、この生活が当たり前だったからな。当たり前過ぎて、変わることが想像できない。…と言うより、したくなかったから」
「…じゃああたしのことは好きじゃないの?」
「いや、好きだよ? ただ今までちゃんと考えていなかっただけ」
「何それ…」
 思わず不貞腐れるあたしの頭を、アイツは優しく撫でる。
「俺にとっては、お前の面倒を見る生活を守りたいって言うか、ずっと続けていきたいと思っているんだ。だから結婚して、それが叶うなら良いって思っている」
「そこに恋愛感情はないわけ?」
「まだちゃんと考えていなかっただけだって。お前だってそうだろう?」
「うっ…!」
 確かに恋愛云々では真面目に考えたことはなかった。
 …人として、は多少あるけど…。
「今まで当たり前過ぎたからな、自覚していなかっただけだ。多分、俺はお前のことが好きなんだ。だからずっと面倒を見ていたいと思う」
 普通は逆でしょうに…。
 好きだと自覚したからこそ、一生を共に過ごしたいと考えるはずだ。
 でも…この生活がずっと続くのは、悪くない。
 …そう思ってしまうんだから、とっくにコイツの思惑にはまってしまっているんだろう。
「…じゃあ、今まで以上にあたしを甘やかしてよ?」
「もちろん」
 そしてどちらかともなく、キスをする。
 …うん。こういう生活、ずっと続けていきたいな。

<終わり>
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FC2blog テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

【2017/07/20 01:59】 | <Kiss>シリーズ
【タグ】 小説  キスシリーズ  短編  キス  幼馴染み  恋愛  プロポーズ  
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