フリーのシナリオライターとして活動しています
 旧家の家に長女として生まれたのならば、人生は決まっている場合が多い。
 人も羨む豪華な生活を送れるだろうけど、結婚相手や将来の職業に関しては、自分の意志など何一つ通じない。
 それが分かっているからこそ、私も大人しく18になってお見合いをすることを決めた。
 相手は同じく旧家の長男。
 この見合いが上手くいけば、私は相手の家に嫁入りしなければならない。
 まあこういうのも、昔から代々続くものだ。
 だから覚悟はとうに出来ている……はずだった。
 少なくとも、私は出来ている。
 なのに…何故相手の男は何時まで経っても現れない?
 見合いの仲人は時間を過ぎても現れないことに焦り、今、連絡を取りに行っている。
 今日は当人同士の顔合わせということで、親も付き添い人もいなくて、私一人が部屋に残されてしまった。
「まったく…。遅れるとはどういうことじゃ」
 いつもの古臭い言葉遣いも、人がいないからできるもの。
 いい加減、痺れを切らし、私は部屋から出た。
 見合いの席として用意されたのは、会員制の高級老舗料亭。
 の木がたくさん植えられていて、とても美しい庭園がある。
 かく言う私が今日着ている着物も、お気に入りの柄だ。
 せっかくの見合いだから、一番良い着物を着て、普段はしない化粧までしてきたと言うのに。
「それとも相手にはその気がなく、破談にするつもりかえ?」
 ああ、そういうのもあるな。
 一度の見合いで上手くいくのは珍しい方。
 別に婚約者というワケでもないし、破談になったところで別に構わない。
「しかし顔も見せんとは、礼儀もしつけもなっとらんのう」
 まあ私もこういう言葉遣いをいくら言われても直さないけれど、時と場合では使い分ける。
「…来ぬなら来ぬで連絡ぐらいしてこれば良いものを」
 そしたら一人ででも、この料亭で食事をしたのに。
 部屋は庭が見える所だし、庭園を見ながら美味い食事はしたい。
 でも相手がいつ来るのか分からないままでは、注文もできやしない。
「はあ…。腹が……」

 ぐりゅりゅりゅ~

 …ちなみに私の腹の音では決してない。
「…どこか聞こえてきよった?」
 周囲をキョロキョロ見回すと、の木の下に、一人の青年が倒れているんだか寝ている姿を発見した。
 まさか腹を空かせて、倒れているとか?
 この料亭にいるってことは、不審人物ではないだろう。
 チェックは厳しいから。
 しかしもしかしたら、この料亭の関係者かもしれない。
 私はそっと近寄り、声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「んっ…」
 私の声に反応し、青年は顔をこちらに向けた。
 …おっ、結構整った顔立ちをしているな。
 年の頃は25歳前後というところか?
「何故ここで寝ている? 具合が悪いのならば、人を呼ぶか?」
「…ああ、大丈夫。天気が良かったし、も綺麗だったから、つい昼寝をしてた」
 そう言って上半身を起こし、大きな欠伸をする。
「確かにここのは立派ぞ。こう見事なは、ウチにもないからのぉ」
 私は桜を見上げ、そっとその幹に触れた。
 しかし青年がじっとこちらを見ていることに気付き、改めて視線と声をかける。
「何ぞ?」
「いや、アンタさぁ…。もしかして桜の精?」
「……はい?」
 どーやらまーだ頭の回転が悪いらしい。
 寝ぼけなまこで私を見ながら、頭をボリボリかいている。
 せっかく立派なスーツを着ているのに、台無しにしている。
 なのに本人は全く気にしていないとは…大物なのか、バカなのか。
「何故そう思う?」
 が、一応理由は聞いておきたいと思った。
「ん~…。だって古い言葉遣いをするし、桜の着物を着ているし…」
 …コレはアレか?
 いわゆる電波とか、そういう次元とリンクしているのか?
「それに綺麗だし」
 ……まあ最後の言葉は良しとしよう。
 ちょっと機嫌が良くなったので、笑って見せた。
「残念ながら18になったばかりの小娘じゃ。そなたは?」

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【2017/07/20 01:37】 | <Kiss>シリーズ
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