Kissシリーズ・甘々のキス・10(2)

「ふぅ…」
 映画を見た後、頭を冷やす意味もあって、近くの公園に来た。
 そこは海から見える夜景が綺麗で、夕暮れ時になるとカップルが多い。
 ボクとセンパイもそうだけど…でも他人の眼から見ると、違うように見えるだろうな。
「今日、疲れた? 何か途中から元気なかったけど」
 同じベンチに座るセンパイが、心配そうにボクの頬を撫でる。
「あっ、と…」
 どう答えようか迷っていると、ふと強い視線を感じる。
 その方向を見ると、男女のカップルがボク達をマジマジと見ていた。
「だっ大丈夫です! なので移動しましょう!」
「えっ、おっおい!」
 センパイの手を掴み、ボクは慌ててその場から離れる。
 ひっ人の目が辛すぎる…。
 別に何も悪いことはしていないのに…。
 …いや、やっぱりボクの格好が問題だ。
「なあ、どうしたんだ? やっぱり変だぞ?」
「すっすみません…。…でもボクといると、センパイが変な眼で見られるのが耐えられなくて…」
「変な眼?」
 ようやく人気が少ない所まで来て、ボクは立ち止まった。
「あの、ボクがこういう…女の子っぽくない格好をしているから、センパイが…その……」
「…ああ、そういうことか」
 センパイはようやく理解ができたように、頷いた。
「すみません…。今度から外で会う時はもっと女の子らしい服装をしてきます」
「別に無理して好きでもない格好をする必要はないんじゃないか? 俺は別にそのままでも良いと思うけど」
 そう言ってセンパイは優しく微笑んでくれる。
 そんなセンパイの優しさが、もっとボクをいたたまれなくさせる。
「…センパイは平気なんですか? 周囲の人から変な眼で見られること」
「う~ん。そうだなあ…」
 センパイは腕を組み、眼を閉じてしばらく考え込む。
 そして答えが出せた時、その表情には笑みが浮かんでいた。
「まあ女の子らしい格好も可愛いと思うけど、俺は普段の格好の方が見慣れているから」
 …センパイの答えを聞いて、ボクは全身から脱力した。
 そうだった…。
 センパイってちょっと天然だった。
「それにしても、そんなに人の目って気になるか?」
「センパイは全く気にしないみたいですね…」
「うん。俺、元からあんまり気にしないタイプだから」
 …だからボクの告白も受け入れてくれたんだろうか?
 思わず疑心にかられて、センパイをじっと見つめた。
 するとセンパイの顔が不意に近付いてきて……唇が、重なった。
「…えっ?」
「えっ? キスしたかったんじゃないのか?」
 間近にあるのは、センパイのきょとんとした顔。
 ボクは突然のことに、呆然する。
「いきなり見つめてくるし、人気のない所に来たから、キスしてほしいのかなって思って」
 センパイは首を傾げる。
 ああ…どこまでも天然な人。
 でもこういう人だから、ボクは惹かれたのかもしれない。
「…じゃあセンパイはずっとこういう男の子っぽい服装のままで、良いと言うんですね?」
「キミが気に入ってしている格好なら、良いと思う。どんなキミだって、可愛いことには変わりないし」
「ううっ…!」
 こういう恥ずかしいセリフも、すんなり出てくるんだから、恐ろしい人だ。
 けれどセンパイに抱きしめられると、今まで抱いていた悩みもくだらなく思えてきた。
 ボクはセンパイと恋人になって、ちょっと神経質になっていたのかもしれない。
 前までなら自分一人のことだし、何ともなかった。
 でもセンパイを巻き込んでしまうのなら…心が苦しい。
 けれど当のセンパイが気にしないと言うのならば、ボクも無理に変わることはないか。
「…ああ、でも男の子同士に見られるのが嫌なんだよな?」
 ふと顔を上げたセンパイが言い出したことに、今度はボクがキョトンとしてしまう。
「ええ、まあ…。でも…」
「ならさ、俺が女の子の格好をすれば…」
「それだけは勘弁してくださいっ!」
 ボクの心からの叫びは、公園中に響き渡った。

<終わり>

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