Kissシリーズ・鬼畜とのキス(2)

2017.07.16(15:31)

「はあ…」
 思わず熱い吐息をもらしてしまうと、ご主人様はクスッと笑う。
「随分、キスに溺れていたな」
「っ!? ご主人様がしつこいせいなのでは?」
 我に返ったあたしは、後ろに身を引いて離れた。
「お前が中々堕ちないから、つい」
 コイツっ…!
 ギャルゲーのように人をもてあそびやがって!
「…ずっと聞きたかったことがあるんですけどね」
「何だ?」
「何で、あたしなんです? ご主人様ならもっと良いおもちゃを見つけることができるでしょうに」
 あるいは志願する者を、側に置けば良い。
 庶民上がりの貧乏娘が珍しいのは分かるけれど、だからと言ってこんな執着を見せることはないと思う。
 まるで…本当に必要にされているかのように、錯覚させられるのが怖い。
 そんなことは絶対に有り得ないはずなのに、勘違いをしてしまう自分がイヤになる。
 ご主人様はあたしの問いかけを聞いて、机に肩肘をついて、手のひらに顎を乗せる。
「俺の側にいるクセに、分からないのか?」
「ご主人様だって、あたしの気持ちは分からないでしょうに」
 どんな願いだって、全力をもって叶えなければならない屈辱を、毎日のように味わっているのだ。
 それは絶対に、コイツが知らない感情だ。
「そうだな。お前がいつまでも意地を張っている気持ちは分からないが、見ていて面白い」
 サドめっ!
 声には出さずとも、目線で伝える。
 どーせ屈辱に打ちひしがれるあたしの姿を見て、笑っているんでしょーよ!
「お前は体の方が従順だな」
「…無理やりそういうふうにしつけたご主人様が、何をおっしゃりますか?」
 思わず嫌味な敬語を使ってしまう。
 さっきみたいに無理やりキスをするのは日常的なもの。
 時にはご主人様の家に泊まるように言われることもあり、人が逆らえないことをいいことに、好き勝手をしてくれる。
「でも心までは俺の物にはなっていない」
 そう言いながらも、表情は物凄く楽しそうだ。
 今まで手に入れられない物など、なかった人生を送ってきたんだろうな。
 けれどここで、気持ちばかりは逆らう姿を見せるあたしが現れた―と。
「…あたしとしては、もうそろそろ飽きてくれないかと思っているんですけど」
「俺がお前を見放して、今までのような生活を送れると思っているのか?」
「うっ!」
 学校のことはともかく、実家の仕事の方は困る。
「……じゃあ形だけでも、心までお仕えしているようにした方が良いですか?」
 するとご主人様の目線が、厳しいものへと変わる。
「下手な演技はしない方が、身の為だ」
 ううっ…!
 ヘビだ、ヘビがあたしの目の前にいる!
 そしてあたしはカエルになった気分になるのだ…。
 そもそも美形が怒ると、迫力があって怖い。
 コレが余計に、逆らえなくさせる。
「じゃあ…このままで、ご主人様の気が済むまでいた方が良いってことですか?」
「まあそれも楽しそうだが」
 不意にご主人様の手が伸び、あたしの後頭部に触れた…と思った瞬間!
「いたっ!」
 髪を鷲掴みにされて、引き寄せられた!
 おっ女の子の髪の毛を、普通掴んで引っ張る!?
「こういうふうに、いろんなお前を見られるのが一番楽しいからな」
 間近で悪魔が微笑む。
 痛みで涙が浮かび、顔をしかめる女の顔を見て、笑うなんて悪魔以外の何ものでもない!
 ぎりっと歯を噛んだ後、あたしは作り笑みを無理やり浮かべた。
「じゃあ…覚悟しといてくださいよ?」
「何がだ?」
「あたしは絶対にご主人様を愛しません。例え力でねじ伏せられても、あたしの心だけはご主人様の物にはなりませんから」
 真っ直ぐに目を見つめながら言うと、今まで見たことのないぐらい、甘い微笑みを浮かべる。
「それは楽しみだな」
 そう言って手を離したので、ようやく開放された。
 痛む頭を撫でながら、それでもあたしも引きつった笑顔を見せる。

 ―そう。絶対にこの鬼畜男のことは愛さない。
 そんな言葉は絶対に、口に出しては言わない。
 言ったら本当に、この関係は終わってしまうから。
 まだこのゲームは決着がついていない。
 あたしが本当にコイツの物になるのか。
 それとも『愛』なんて言葉を、いつかコイツの前で言う日が来るのか。
 今はまだ分からないけど、とりあえず、ご主人様の一番側にいよう。
 決して屈服しない姿を見せれば、ご主人様は執着した姿を見せてくれるから。
 さぁて、どっちが先に、堕ちる?
 カエルだって、ヘビにダメージを与えるぐらいの毒を持っていることを、教えなければならない。
 ご主人様の鬼畜さと、あたしのしぶとさ。
 勝つのはどっち?
 そしてゲームの終わりには、何が待っているんだろうな?
 とりあえず、終わるまではこのプレイをご主人様と共に楽しむことにしよう。
 そして後でお仕置きされるかもしれないことを考えつつ、あたしは自らご主人様の唇にキスをした。

<終わり>
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