フリーのシナリオライターとして活動しています
 カミナ先生は険しい表情で頭を下げてきた。
 そしてキシはアタシを見て…。
「…カミナには今回の事件のことを任せましょう。うまく終わらせてくれますよ」
 アタシはしばし考えて…首を横に振った。
「大丈夫ですよ。アナタの血族のことや、サガミ先生のことは伏せて…」
「違うのよ、キシ」
 アタシはハッキリ言った。
「この事件、アタシはマカから任せられたの。だから最後まで担当するのは、アタシの役目だから」
 そしてアタシは携帯電話を取り出した。
 ―事件の終幕を、マカに伝える為に。


真実 /真実の後

 ソウマの店で、マカは雑誌や新聞をテーブルに広げて見ていた。
 例の猟奇事件が、世間から忘れ始めていた。
 けれどアタシは暗い表情のままだった。
「…まっ、ご苦労だったな。ヒミカ」
「ありがと。そっちこそ、うまく処理してくれたでしょう?」
「それが仕事だからな。…今回は血族が思わぬところで関わってしまったし」
 マカは血族の会議で、この事件の真相は話さなかった。
 終わったことだけを告げ、早々に闇に葬った。
 先生は遠くへ留学したことにした。その方が…いろいろな人を傷付けずに済む。
 多くの人に慕われていた先生。
 その裏の顔を、知る者は少なくて良い。
「今回はお咎めなしだが…あまり油断するなよ?」
「懲りたわよ。…もう二度と、外ではやらない」
「その言葉、信じるぞ」
 マカは真っ直ぐアタシを見てくる。
 だからアタシも見返して、頷いた。
「ぜひそうしてちょうだい。…さて、これからキシとデートなのよ」
「上手くやっているようだな」
「そりゃま、婚約者だからね」
 アタシを肩を竦めて見せて、ソウマに笑顔を見せた。
「お茶、ありがと。今度キシを連れて来てもいい?」
「ええ、ぜひお越しください。待っていますよ」
「うん。じゃね、マカ」
「ああ」
 アタシは店を出た。
 キシとは、あの公園で待ち合わせをしていた。
 彼からの指定だった。
 …アレから、キシとは付き合いを続けていた。
 だけどどこかギクシャグしているのは、事実だった。
 お互いに先生のことは禁句のようになっていて…ちょっと心苦しかった。
 公園に着くと、ベンチでキシが待っていた。
「ゴメン、待たせた?」
「とんでもない。ボクはヒミカの為なら、1日だって待てますよ」
「そこまでさせないわよ」
 アタシはキシの隣に座って…、キシの肩に寄り掛かった。
 キシは何も言わずに、頭を撫でてくれる。
 最近ではこうして素直に甘えられるようになった。
 それがとても嬉しい反面、罪悪感も拭えなかった。
「…ヒミカ」
「何? キシ」
「一つ、ボクのお願い、聞いてくれませんか?」
「ん?」
 アタシは顔を上げた。
 優しく、そして悲しそうにキシは微笑んでいた。
「もしボクが、ヒミカよりも先に死んだら…その体を残さず食べていただけますか?」
「はあ?」
 何を突拍子もないことを…。
「ボクはアナタが死んだら生きていけませんから、すぐに後を追います。けれどヒミカはボクを食べて、ずっと生きててください」
「どういうお願いよ、それ」
 あんまりに勝手すぎる『お願い』に、思わず顔が歪む。
「ホラ、人間は輪廻転生するって言うじゃないですか。でも体は残ってしまう。どうせ焼かれて骨になるなら、アナタの栄養になりたいと思いましてね」
 確かに、血族であるアタシと、人間であるキシとは同じ時間を生きられない。
 …やがてキシは歳を取り、死んでしまう。
 でも血族であるアタシは、そろそろ成長が止まるだろう。
 そして何もなければ、100年以上も生きる。
 その間にキシの転生を待つのなんて、苦ではない。
 …だからだろうか。
 キシは自分を食べて欲しいと言い出したのは。
 アタシと愛し合った証拠を、アタシ自身の中に納めたいんだろうな。
「愛するものの一部になれる…。これぞ究極の愛のカタチだとは思いませんか?」
 チクッと胸が痛んだ。
 それを隠すように、キシに抱きついた。
「…分かったわ。でも…なるべく長生きはしてね?」
「当然ですよ。アナタの為に、生き続けて見せますよ」
 キシは優しく抱き締めてくれた。
 …ああ、でも気付かれてしまったんだろうな。
 サガミ先生の温室には、殺された人間の残骸があった。
 どうやら先生は料理教室で料理をした後、温室の野菜の肥料に残骸を使っていたらしい。
 キシと共に温室を訪れた時に、アタシは気付いた。
 ―死体の匂いに。
 だからそこの温室は、こちらで押さえた。
 野菜も全て、取っていた。
 アタシが食べる為に。
 そしてサガミ先生の死体は…残さずアタシが食べた。
 肉の一欠けらも残さずに。
 キシはアタシのことになると、勘が血族並みに鋭くなる。
 だからこんなことを言い出したんだろう。
 キシの白い首筋が、眼に映った途端、思わずノドが鳴った。
 この薄い皮膚の下の、あの味と匂いが、アタシの血族としての顔を出させてしまうのだ。
 しかしキシが笑った。
「どうしたの?」
「まだボクが死ぬまで、ガマンしててくださいよ? 寿命はまっとうしますから」
 顔を見ずとも、気配で考えが分かったらしい。
 …やれやれ、いつまで狂気を押さえられるやら。

【終わり】

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【2017/07/04 08:47】 | ★マカシリーズ★
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