Kissシリーズ・鬼畜とのキス(1)

2017.06.20(06:46)

 あたしは最近、自分がカエルになったような気分を味わう。
 カエルはヘビに睨まれると動けなくなると言われている上に、カエルはヘビに食べられてしまう生き物だからだ。
 生徒会室の扉の前で、深く息を吐いた。
 カエルにとって、ヘビは天敵。
 あたしにとっての天敵は、この生徒会室の主。
 扉を二度ノックして、声をかける。
「…失礼します」
 そして扉を開けると、生徒会室の主が眼に映る。
 生徒会長用のソファーイスに座り、大きく立派な机の上にティーセットを置いて、優雅に紅茶を飲んでいる。
 ゆっくりと顔を上げ、見られると…竦んでしまう。
「入れ、と言った覚えはないが?」
 ああ…返事が来る前に開けてしまったか。
 失態を悔やむも、すでに扉は開けてしまっている。
「そりゃすみませんね。でも別に何にも無かったんですから、良いじゃないですか」
 ふてぶてしく反論し、机の上にドサッと書類を置く。
「ご主人様のお言い付け通り、各委員会の予算希望の書類を回収してきました」
「ご苦労」
 けれどご主人様は書類を手に取ろうともしない。
 ただ真っ直ぐに、あたしを見つめるだけ。
 …居心地悪いったら、ありゃしない。
 ここに他の誰かがいれば良いんだけど、あいにく、全員出払っているみたいだ。
「…で? お次は何をすれば?」
 沈黙に耐えかねて聞くと、ニヤッと笑う。
 イヤ~な笑みを浮かべるなぁ。
「ちょうどヒマを持て余していたんだ」
「はあ…。ならゲームでもしますか?」
「別の方法でヒマを潰す。こっちへ来い」
「…はいはい」
 渋々言われた通り、ご主人様の元へ行く。
「今日はどんなことをご所望で?」
 腹をくくってご主人様を見下ろすと、いきなり腕を掴まれ、引っ張られる。
 気付けばご主人様の上に座る姿になっていて、驚いて身を引くヒマもなく、そのままキスされた。
「んむっ…!」
 反射的に逃げようとして、ご主人様の胸に手を当てて押すも、びくともしない。
 …こういう時、男と女の体格差を恨めしく思ってしまう。
 そんなことを考えている間にも、ご主人様のキスは続く。
 何度も弾むようなキスをされて、思わず開いてしまった唇に、深く口付けされる。
「んっ、ふっ…」
 こんなとろけそうなほど甘いキスをされると、拒絶したい心が一瞬、消えそうになってしまう。
 けれど呑まれてはいけない。
 コイツはあたしの人生をメチャクチャにしたヤツなんだから…!


 ―思い出す。
 あたしがまだ、高校入学したての時に、コイツのことを知った。
 コイツはこの高校の生徒会長で、入学式の時に壇上で挨拶をした。
 その後、コイツが恐怖政治を行なっていることも知る。
 何でもこの超がつくほどの名門校を経営する一族の者で、将来は世界を相手にビジネスをするであろう、器の持ち主だと、評判だった。
 あたしがそんな名門校に入学したのは、ただ成績が優秀だったから、それだけの理由だった。
 中学三年の時、この学校のスカウトの人がウチに来て、金銭面な部分は全て免除にするので、入学しないかと誘ってきたのだ。
 ウチの実家は町工場で、正直言ってあまり経営は良くなかった。
 なので定時制の高校に通いながら、働こうかと思っていた矢先だった。
 両親はその申し出を受けるように言ってきて、あたしも名門校を卒業すれば、良い職に就けると思って入った。
 …のが、間違いだった。
 コイツは入学式での挨拶の途中、いきなりあたしを名指しで生徒会副会長に指名してきたのだ。
 そこに拒否権など、無し。
 問答無用で、生徒会入りをさせられた。
 挙げ句、どこで調べたのか、ウチにまで来た。
 しかも秘書付きで。
 訪問の理由とは、あたしが生徒会入りをしたので、その代わりにコイツの会社から、ウチに仕事の依頼を持ちかけるというものだった。
 でも厳密に言えば、コイツの会社の子会社になったようなもの。
 けれどそれで経営が良くなるのならば、と受け入れるしかないのが貧乏人というものだ。
 プライドだけでは、食べてはいけないし、生きてもいけない。
 そして自動的に、あたしはコイツの私物化決定。
 逆らうことなどできず、でも受け入れることもできないまま、月日が過ぎる。


 周囲の女子生徒達は、思いっきり羨ましがる。
 確かに将来は決まっているし、顔も体も良い。
 何でも強引で傲慢なところも、好きな女性にはたまらないだろう。
 ……が、あくまでも『好きな女性ならば』だ。
 いい加減、長過ぎるキスにしびれを切らし、あたしは顔を背けた。
「ちょっと…しつこいんじゃないですか?」
「言っただろう? ヒマ潰しだと。―こっちを向け」
 そして顎を掴まれ、再びキスの嵐。
 強く抱きしめられると、抵抗する力が徐々に抜けてしまう。
 プライドなんて邪魔なもの。
 捨てた方が楽になるとは分かってはいるけど…!
 どーしたって、理不尽だあ!
 悔しさを感じながらも抵抗できず、結局ご主人様の気が済むまでキスされ続けた。
 唇だけじゃない。
 額や頬、耳や首にまでキスをされ、身が竦んでしまう。

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