お正月が過ぎれば、世の中は次のイベントの準備を始める。
2月は特に、女の子にとっては重要なイベントがある。
「お~。
バレンタインのディスプレイって、本当に可愛くてキレイだな」
わたしはデパートの一角に作られた、
バレンタイン用の売り場を見て心が踊った。
カラフルな色や、可愛い物、綺麗な飾りがいっぱいで、女の子が大好きな物に溢れている。
「おっ、本当だ。なあ、くれるよな?」
不安げな声でわたしに声をかけるのは、一ヶ月前まではただの幼馴染、今では恋人の彼だ。
「良いけど…。どんなチョコが食べたい?」
「それはお前に任せるよ」
「じゃあ既製品で、
バレンタインを一日過ぎて半値売りにされているのでも?」
「…手作りの物にしてくれ」
「面倒だけど、了解」
後ろから盛大なため息が聞こえる。
…だから『恋人』になるなんて、止めようって言ったのに。
思い返すこと一ヶ月前。
まだクリスマスも前の話だ。
わたしと彼は幼稚園からの付き合いで、小学・中学・高校と同じ学校に通った。
そして高校二年の現在は同じクラスメートでもある。
ずっと一緒だったせいか、わたしは彼のことを特別な男性とは思えない。
なのに『恋人』になった理由は、彼の告白にあった。
あの日、わたしの家で期末テストの勉強をしていた時、突然言われた。
「なあ、俺と恋人にならないか?」
彼は最近の男子高校生にしては珍しく、真面目で純粋なタイプだった。
だからこんなこと、ウソや冗談で言う人ではないと、分かってはいたんだけど…。
「…アンタ、熱でもあんの?」
ついそう言ってしまう。
「いや、ないが…。本気で真面目に言っているんだ。その…考えてみてくれないか?」
メガネをかけなおしながら言う彼を見て、わたしも流石に真面目に考える。
「…でも止めておいた方が良いんじゃない?」
「なっ何でだ?」
「だってわたし、冷めた性格しているから、恋人になったって甘い関係にはならないと思う。それこそ今のような関係のまま、続いていくだけなら、恋人になるだけムダじゃない?」
思ったことを容赦なく言うと、彼が深く傷付く音が聞こえた。
けれど何一つ、嘘は言っていない。
関係名を変えたところで、中身が変わらないのならば、わざわざ変えることもないと思う。
「でっでも俺は別に、お前に変わってもらおうなんて思っていない。そのままのお前が良いんだから!」
「…あっ、そう」
こんな女を良いと思うなんて、彼の女性趣味は悪い。
「だからその、イヤじゃなかったら…恋人になってほしいんだ」
「むう…」
わたしは腕を組み、考える。
確かに彼とは長い付き合いがあるせいか、一緒にいて苦にはならない。
まあ心トキメクことがないと言えば、やっぱり親愛程度なのかもしれないけど…。
…ここは一つ、確かめてみる必要があるな。
そう思ったわたしは移動し、彼の正面に座った。
「なっ何だ?」
そして彼のメガネを外して、薄く開いた唇にキスをした。
「っ!? んなっ!」
彼の目が白黒するのを見て、わたしは首を傾げた。
「ん~まあキスもイヤじゃないし、とりあえず良いよ。恋人になる」
「どっどういう確認の仕方だっ!」
真っ赤な顔で怒鳴りながらも、彼は抱き着いてくる。
彼の背に手を回しながら、やっぱりイヤだと感じなかったことに気付いた。
だから思う。
彼以外の男とキスしたり、抱き締めあったりするのを考えただけで、鳥肌が立つ。
けれど彼とは平気。
だから彼のことを、少なくとも好意は持っている。
…でもそれが愛情なのかと問われれば、首が曲がるのだから、しょーもない。
「じゃあ材料を買って行くかな」
「…俺に内緒で作るとか、してくれないのか?」
「面倒だ。せっかく来ているんだし、ここで買っていこう」
呆れて脱力している彼の腕を引っ張りながら、わたしは売り場に入った。
呆れた彼の表情を見るのは、ここ最近ずっとだ。
…何だか恋人になる前の方が、笑顔を見ていた気がする。
彼は変わることを望んではいないと言っていたけれど、まさか全く変わらないとは思っていなかったんだろうな。
相変わらずわたしは冷めていて、彼に夢中ってことはない。
好きなんだけど…何だかなあ。
普通、恋人ができた女の子は、もうちょっとはしゃいだり、可愛くなったりするもんじゃなかったっけ?
と思ってしまうほど、変わらない。
そのうち、彼の方から元サヤに戻ろう、と言い出すだろう。
そしたらわたしはきっと、冷静に受け入れるだろう。
だってそういうのが、わたし、なのだから…。
変わりようがないのだ。
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テーマ : 恋愛小説
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