Kissシリーズ・甘々7(1)

2017.06.19(06:53)

 お正月が過ぎれば、世の中は次のイベントの準備を始める。
 2月は特に、女の子にとっては重要なイベントがある。
「お~。バレンタインのディスプレイって、本当に可愛くてキレイだな」
 わたしはデパートの一角に作られた、バレンタイン用の売り場を見て心が踊った。
 カラフルな色や、可愛い物、綺麗な飾りがいっぱいで、女の子が大好きな物に溢れている。
「おっ、本当だ。なあ、くれるよな?」
 不安げな声でわたしに声をかけるのは、一ヶ月前まではただの幼馴染、今では恋人の彼だ。
「良いけど…。どんなチョコが食べたい?」
「それはお前に任せるよ」
「じゃあ既製品で、バレンタインを一日過ぎて半値売りにされているのでも?」
「…手作りの物にしてくれ」
「面倒だけど、了解」
 後ろから盛大なため息が聞こえる。
 …だから『恋人』になるなんて、止めようって言ったのに。

 思い返すこと一ヶ月前。
 まだクリスマスも前の話だ。
 わたしと彼は幼稚園からの付き合いで、小学・中学・高校と同じ学校に通った。
 そして高校二年の現在は同じクラスメートでもある。
 ずっと一緒だったせいか、わたしは彼のことを特別な男性とは思えない。
 なのに『恋人』になった理由は、彼の告白にあった。
 あの日、わたしの家で期末テストの勉強をしていた時、突然言われた。
「なあ、俺と恋人にならないか?」
 彼は最近の男子高校生にしては珍しく、真面目で純粋なタイプだった。
 だからこんなこと、ウソや冗談で言う人ではないと、分かってはいたんだけど…。
「…アンタ、熱でもあんの?」
 ついそう言ってしまう。
「いや、ないが…。本気で真面目に言っているんだ。その…考えてみてくれないか?」
 メガネをかけなおしながら言う彼を見て、わたしも流石に真面目に考える。
「…でも止めておいた方が良いんじゃない?」
「なっ何でだ?」
「だってわたし、冷めた性格しているから、恋人になったって甘い関係にはならないと思う。それこそ今のような関係のまま、続いていくだけなら、恋人になるだけムダじゃない?」
 思ったことを容赦なく言うと、彼が深く傷付く音が聞こえた。
 けれど何一つ、嘘は言っていない。
 関係名を変えたところで、中身が変わらないのならば、わざわざ変えることもないと思う。
「でっでも俺は別に、お前に変わってもらおうなんて思っていない。そのままのお前が良いんだから!」
「…あっ、そう」
 こんな女を良いと思うなんて、彼の女性趣味は悪い。
「だからその、イヤじゃなかったら…恋人になってほしいんだ」
「むう…」
 わたしは腕を組み、考える。
 確かに彼とは長い付き合いがあるせいか、一緒にいて苦にはならない。
 まあ心トキメクことがないと言えば、やっぱり親愛程度なのかもしれないけど…。
 …ここは一つ、確かめてみる必要があるな。
 そう思ったわたしは移動し、彼の正面に座った。
「なっ何だ?」
 そして彼のメガネを外して、薄く開いた唇にキスをした。
「っ!? んなっ!」
 彼の目が白黒するのを見て、わたしは首を傾げた。
「ん~まあキスもイヤじゃないし、とりあえず良いよ。恋人になる」
「どっどういう確認の仕方だっ!」
 真っ赤な顔で怒鳴りながらも、彼は抱き着いてくる。
 彼の背に手を回しながら、やっぱりイヤだと感じなかったことに気付いた。
 だから思う。
 彼以外の男とキスしたり、抱き締めあったりするのを考えただけで、鳥肌が立つ。
 けれど彼とは平気。
 だから彼のことを、少なくとも好意は持っている。
 …でもそれが愛情なのかと問われれば、首が曲がるのだから、しょーもない。

「じゃあ材料を買って行くかな」
「…俺に内緒で作るとか、してくれないのか?」
「面倒だ。せっかく来ているんだし、ここで買っていこう」
 呆れて脱力している彼の腕を引っ張りながら、わたしは売り場に入った。
 呆れた彼の表情を見るのは、ここ最近ずっとだ。
 …何だか恋人になる前の方が、笑顔を見ていた気がする。
 彼は変わることを望んではいないと言っていたけれど、まさか全く変わらないとは思っていなかったんだろうな。
 相変わらずわたしは冷めていて、彼に夢中ってことはない。
 好きなんだけど…何だかなあ。
 普通、恋人ができた女の子は、もうちょっとはしゃいだり、可愛くなったりするもんじゃなかったっけ?
 と思ってしまうほど、変わらない。
 そのうち、彼の方から元サヤに戻ろう、と言い出すだろう。
 そしたらわたしはきっと、冷静に受け入れるだろう。
 だってそういうのが、わたし、なのだから…。
 変わりようがないのだ。

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