【柘榴】・5

 キシは痛い目に合ったものの、婚約者になれたことに嬉しさを隠せないようだ。
 今もタオルで頬を押さえながら、ニコニコしている。
「でもアンタ、洋食コースを選んでいるのに、わざわざ他国のも学んだの?」
「ええ、モチロン。いろいろな料理教室をハシゴしましたとも!」
 …おかげでアリバイを取るのも、楽だったらしい。
 いろんな意味で目立つからな、コイツ。
 ちなみにアタシとコイツの通っている専門学校は、料理の専門学校。
 アタシは和食、コイツは洋食。
 他にもお菓子の専門科もある。
 …なのにわざわざ、他国の肉料理を学んでいたのか。
 本当に愛されているな、アタシ。
「でもボクが連絡しなかったせいで、ヒミカに迷惑をかけていたことは謝ります。すみません」
「良いのよ。アタシも勘違いしてたし。お互い様ってことで」
 でも婚約者にさせられたんだから、アタシの方が大きなマイナスなような…。
「ふふっ。まさにケガの功名ですね」
 そう言ってアタシの隣に移動してきて、ぎゅっと抱き締めてくる。
「結果オーライってことで」
「その前に」
 ぐいっとキシの体を押した。
「事件の真相を突き止めないと…。マカに睨まれっぱなしなのは、いただけないわ」
「あっ、そうでしたね」
 キシは少し考えた。
「ボク、あなたと料理に夢中で全然事件のこと知らないんですよ。教えてくれますか?」
 …あんなに世間が騒いでいるのに。
 アタシはマカから預かった新聞紙や雑誌をテーブルに広げて見せた。
 そして事件をかいつまんで説明した。
 正直、キシには少し期待していた。
 ストーカーということを抜けば、キシは優秀な人間だから。
「…う~ん。まあちょっと不思議ですねぇ」
「どこが?」
「食事に手が付けられていないこと。だからヒミカはボクを疑ったんでしょう?」
「ええ…。まるでアタシを待ち伏せしているような事件だったから、つい…」
「そうですね。でもボクだったら昨夜みたいに、あなたに直に伝えてますよ」
 確かに! ちょっと早計だったな。
「…食べる者のいない肉料理、ですか。悲しいものを感じずにはいられませんね」
「さっ昨夜の料理だったら、ちゃんと食べたじゃない」
「冷めたものを、ね」
 …相変わらず、ねちっこい。
 料理は結局、そのままウチに持ち込んだ。
 そして会話後、お腹が空いたので頂いた。
 とても美味しかった。
 …けど、さすがに冷めてはいた。
「でも確かに、ヒミカを誘っているようですね。コレを見てください」
 そう言ってキシが地図を広げた。
「料理があった五ヶ所なんですけど…」
 地図に赤ペンで丸を付けていく。
 そしてあたしは、眉をひそめた。
「…コレって」
「ええ。間違いなく、あなたを誘っているんでしょうね」
 料理が用意されていた公園、五ヶ所。
 キシが丸を付けた、その中心部には…。
 まるであたしのマンションを囲むようにして、起きていたことが分かる。
「…あたしへの挑戦状?」
「あるいは招待状でしょう」

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テーマ : 怪談/ホラー
ジャンル : 小説・文学

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