甘々のキス・4(野球)・5

2017.06.11(23:35)

「何か賭ける? アイスとかジュースとか」
「賭けか…。じゃあ、勝者が決めるっていうのはどうだ?」
「うん、それで良いよ」
 彼の表情に、笑みが浮かんだことに安堵した。
 グラウンドに入り、わたしはグローブに何度か球を入れたり出したりした。
 練習メニューで投手をすることも多々あった。
 でもそれは個人メニューで、本人が望まなければなかった。
 副部長の相手をしたこともあり、わたしのピッチャーとしての腕はかなり上がった。
 だけど…思い返してみると、彼とのこの練習はしたことがない。
 理由は単純、彼が望まなかったから。
 わたしも強制しなかった。
 だからこれがはじめての対決となる。
 …普通好きな人相手なら、きっと手加減して投げるんだろうな。
 でもわたしは普通じゃない。
 マネージャーなんだ。
 手加減は彼を傷付けることにしかならない。
 わたしは深呼吸をして、気合を入れた。
「―じゃあ、行くよ」
「ああ、来いよ」
 傍から見れば、おかしな図だろう。
 私服姿の男女二人が、対決しようとしているんだから。
 でもわたしと彼には、ちょうどいい。
 わたしは球を握り締め、全身全霊の力を込めて投げた。
「やっ!」
 球はストレート。しかしその速さは部長をも追い抜く。
 しかし彼の眼は真っ直ぐ球を捉えていた。
 彼が動く。
 そして―

カッキーン!

 …ホームランを、打たれてしまった。
「… ウソ?」
 わたしは呆然と球の行方を見た。
 ああ…コレが部長の味わった気持ち。
 さっさすがにプライドが…。
「よっしゃ!」
 あっ、でも彼は喜んでいる。
 そりゃそうだよね。
 部員達の間では『無敗の女王』とまで言われたわたしに、勝てたんだから。
 …もしかして、自信をつける為に彼は勝負を挑んできたんだろうか?
 誰も勝つことができなかったわたしに勝てば、かなりの自信がつく。
 その為に、今まで練習に誘ってこなかったのかな?
 その可能性は…かなり、ある。
「おっおめでとう」
 プライドにヒビが入るのを感じながら、わたしは固まった笑みを浮かべた。
「ああ、勝てた!」
 彼はバットを投げ捨て、わたしの元へ駆け つけた。
「なっなあ、1つ言うこと聞いてくれるんだよな?」
「えっええ、わたしにできることなら…」
 練習メニューを変えることとかは、顧問や部長に相談しなきゃいけないけど…。
 一日ぐらい休むことや、お弁当メニューを彼好みに帰ることぐらいなら、わたしでもできることだ。
「じゃあ、あのさ」
 彼はわたしの肩を掴み、赤い顔で目を覗き込んできた。
「よかったら…オレと付き合ってくれないか?」
「えっ? どこへ?」
 がくっと項垂れる姿を見るのは、今日で二回目だ。
「何でこんな時までボケるんだよ…」
「ボケるって…」
「だからさっ!」
 顔を上げた彼は、思っているより間近にあった。
「あっ…」
「っと…」
 あとちょっとの距離で、唇が触れそうになる。
 肩を捕まれているから、余計に近い。
 だから顔を背けると、肩を揺さぶられた。
「…逃げんなよ」
「逃げてなんかない!」
「逃げてる! 前よりオレに構わなくなった!」
「子供みたいなこと、言わないでよ。マネージャーの仕事、忙しいの。わたしにマネージャーを頼んだのは、あなたでしょう?」
「それはお前に側にいてほしいからだよ!」
 至近距離で怒鳴られ、耳がビリビリする。
「なのにマネージャーの仕事を理由に、お前は離れていった。…何でだよ?」
「何でって…」
 マネージャーの仕事に専念したかった。
 彼と特別な関係になることを恐れていたから…。
 そう…逃げていた。
 離れていたのは彼じゃない。
 わたしなんだ。
「オレはお前にずっと側にいてほしかった。だからマネージャーに誘った。何にも言わなくても、お 前だってオレの気持ちは分かっていただろう?」
「…自惚れないでよ」
「自惚れてないさ。だって両想いだろう? オレ達」
 …その言葉には、反論できなかった。
「オレ、お前には運動神経、敵わなかったからさ。だから認めてくんないのかと思った。だから練習した。お前にも隠れて、一生懸命」
 そうじゃなきゃ、わたしの球を打てないだろう。
「でも今は違うだろう? だから…認めろよ」
「…何を?」
「オレがお前のことが好きで、お前もオレのことが好きだってことだ」
「………」
 認めるのは、怖かった。
 一歩を踏み出してしまったら、何かが終わって始まる予感がしていたから。
 そしたらもう二度と、彼とは仲が良かった頃には戻れな いんじゃないかって思ってたから…。
 でも今、その一歩を彼の方から歩んで来てくれた。
 なら、わたしは…。
 顔を上げて、背伸びをした。そして首に手を回し、彼の唇にキスをした。
 ―こうして気持ちを現すしかない。
 こういう方法しか、思い浮かばなかった。
 彼の手が、肩から背中に回る。
 密着した体から伝わる、お互いの鼓動。
 どっちも同じぐらい、強く高鳴っている。
「ふっ…」
 唇が離れた後も、強く抱き締め合ったままだった。
 優しく頭を撫でられ、わたしは彼に全てを預ける。
「もっと…オレを頼れよ」
「えっ?」
「そりゃ顧問や部長達みたいにはいかないけど、それでもお前の力になりたいからさ」
「…うん」
「お前が弱っている時とか、側にいることぐらいはできるし」
「うん」
「あ~っ! でもやっぱりいつも側にいろよ!」
「うんっ!」
 ぎゅっと抱き締めた後、わたしは顔を上げた。
「じゃあ、お決まりだけど。わたしを甲子園に連れてってね」
「ホントにお決まりだな」
 彼は苦笑するけど、困ってはいない。
 口には出さないけれど、やっぱり夢を持っている。
「でもって、最後はやっぱりホームランでしょう!」
「それは…ちょっと難しいかもな」
「大丈夫よ!」
 わたしは彼の両手をぎゅっと握った。
「ちゃんとわたしが鍛えてあげるから♪」
「えっ!?」
「副部長よりも優秀なバッターにしてあげるから、頑張ってね!」
「あっああ…」
 彼の笑みが固まった気がするけど、ムシムシ。
 わたしの頭の中には、彼を鍛えるメニューが浮かび始めていた。

<終わり>

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村←よかったら、ぽちっと押してください。

スポンサーサイト

コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:
http://hosimure.blog33.fc2.com/tb.php/1090-fb3e3769