フリーのシナリオライターとして活動しています
「何か賭ける? アイスとかジュースとか」
「賭けか…。じゃあ、勝者が決めるっていうのはどうだ?」
「うん、それで良いよ」
 彼の表情に、笑みが浮かんだことに安堵した。
 グラウンドに入り、わたしはグローブに何度か球を入れたり出したりした。
 練習メニューで投手をすることも多々あった。
 でもそれは個人メニューで、本人が望まなければなかった。
 副部長の相手をしたこともあり、わたしのピッチャーとしての腕はかなり上がった。
 だけど…思い返してみると、彼とのこの練習はしたことがない。
 理由は単純、彼が望まなかったから。
 わたしも強制しなかった。
 だからこれがはじめての対決となる。
 …普通好きな人相手なら、きっと手加減して投げるんだろうな。
 でもわたしは普通じゃない。
 マネージャーなんだ。
 手加減は彼を傷付けることにしかならない。
 わたしは深呼吸をして、気合を入れた。
「―じゃあ、行くよ」
「ああ、来いよ」
 傍から見れば、おかしな図だろう。
 私服姿の男女二人が、対決しようとしているんだから。
 でもわたしと彼には、ちょうどいい。
 わたしは球を握り締め、全身全霊の力を込めて投げた。
「やっ!」
 球はストレート。しかしその速さは部長をも追い抜く。
 しかし彼の眼は真っ直ぐ球を捉えていた。
 彼が動く。
 そして―

カッキーン!

 …ホームランを、打たれてしまった。
「… ウソ?」
 わたしは呆然と球の行方を見た。
 ああ…コレが部長の味わった気持ち。
 さっさすがにプライドが…。
「よっしゃ!」
 あっ、でも彼は喜んでいる。
 そりゃそうだよね。
 部員達の間では『無敗の女王』とまで言われたわたしに、勝てたんだから。
 …もしかして、自信をつける為に彼は勝負を挑んできたんだろうか?
 誰も勝つことができなかったわたしに勝てば、かなりの自信がつく。
 その為に、今まで練習に誘ってこなかったのかな?
 その可能性は…かなり、ある。
「おっおめでとう」
 プライドにヒビが入るのを感じながら、わたしは固まった笑みを浮かべた。
「ああ、勝てた!」
 彼はバットを投げ捨て、わたしの元へ駆け つけた。
「なっなあ、1つ言うこと聞いてくれるんだよな?」
「えっええ、わたしにできることなら…」
 練習メニューを変えることとかは、顧問や部長に相談しなきゃいけないけど…。
 一日ぐらい休むことや、お弁当メニューを彼好みに帰ることぐらいなら、わたしでもできることだ。
「じゃあ、あのさ」
 彼はわたしの肩を掴み、赤い顔で目を覗き込んできた。
「よかったら…オレと付き合ってくれないか?」
「えっ? どこへ?」
 がくっと項垂れる姿を見るのは、今日で二回目だ。
「何でこんな時までボケるんだよ…」
「ボケるって…」
「だからさっ!」
 顔を上げた彼は、思っているより間近にあった。
「あっ…」
「っと…」
 あとちょっとの距離で、唇が触れそうになる。
 肩を捕まれているから、余計に近い。
 だから顔を背けると、肩を揺さぶられた。
「…逃げんなよ」
「逃げてなんかない!」
「逃げてる! 前よりオレに構わなくなった!」
「子供みたいなこと、言わないでよ。マネージャーの仕事、忙しいの。わたしにマネージャーを頼んだのは、あなたでしょう?」
「それはお前に側にいてほしいからだよ!」
 至近距離で怒鳴られ、耳がビリビリする。
「なのにマネージャーの仕事を理由に、お前は離れていった。…何でだよ?」
「何でって…」
 マネージャーの仕事に専念したかった。
 彼と特別な関係になることを恐れていたから…。
 そう…逃げていた。
 離れていたのは彼じゃない。
 わたしなんだ。
「オレはお前にずっと側にいてほしかった。だからマネージャーに誘った。何にも言わなくても、お 前だってオレの気持ちは分かっていただろう?」
「…自惚れないでよ」
「自惚れてないさ。だって両想いだろう? オレ達」
 …その言葉には、反論できなかった。
「オレ、お前には運動神経、敵わなかったからさ。だから認めてくんないのかと思った。だから練習した。お前にも隠れて、一生懸命」
 そうじゃなきゃ、わたしの球を打てないだろう。
「でも今は違うだろう? だから…認めろよ」
「…何を?」
「オレがお前のことが好きで、お前もオレのことが好きだってことだ」
「………」
 認めるのは、怖かった。
 一歩を踏み出してしまったら、何かが終わって始まる予感がしていたから。
 そしたらもう二度と、彼とは仲が良かった頃には戻れな いんじゃないかって思ってたから…。
 でも今、その一歩を彼の方から歩んで来てくれた。
 なら、わたしは…。
 顔を上げて、背伸びをした。そして首に手を回し、彼の唇にキスをした。
 ―こうして気持ちを現すしかない。
 こういう方法しか、思い浮かばなかった。
 彼の手が、肩から背中に回る。
 密着した体から伝わる、お互いの鼓動。
 どっちも同じぐらい、強く高鳴っている。
「ふっ…」
 唇が離れた後も、強く抱き締め合ったままだった。
 優しく頭を撫でられ、わたしは彼に全てを預ける。
「もっと…オレを頼れよ」
「えっ?」
「そりゃ顧問や部長達みたいにはいかないけど、それでもお前の力になりたいからさ」
「…うん」
「お前が弱っている時とか、側にいることぐらいはできるし」
「うん」
「あ~っ! でもやっぱりいつも側にいろよ!」
「うんっ!」
 ぎゅっと抱き締めた後、わたしは顔を上げた。
「じゃあ、お決まりだけど。わたしを甲子園に連れてってね」
「ホントにお決まりだな」
 彼は苦笑するけど、困ってはいない。
 口には出さないけれど、やっぱり夢を持っている。
「でもって、最後はやっぱりホームランでしょう!」
「それは…ちょっと難しいかもな」
「大丈夫よ!」
 わたしは彼の両手をぎゅっと握った。
「ちゃんとわたしが鍛えてあげるから♪」
「えっ!?」
「副部長よりも優秀なバッターにしてあげるから、頑張ってね!」
「あっああ…」
 彼の笑みが固まった気がするけど、ムシムシ。
 わたしの頭の中には、彼を鍛えるメニューが浮かび始めていた。

<終わり>

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【2017/06/11 23:35】 | <Kiss>シリーズ
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