甘々のキス・4(野球)・4

2017.06.10(02:23)

「オレも別に…」
 そう言って顔を背ける。
 …何だか前に比べて、ちょっと扱いが難しくなった?
 前はよく笑っていたり、話しかけてくれたんだけど、最近はムスッとした顔ばかりされる。
 まあわたしも顧問や部長、副部長達と話し合うことが多くなったから、彼ばかり構ってはいられないのが、ちょっと寂しかったりするんだけど…。
「まっまあお互い、ムリせず頑張りましょう! 目指せ、一回戦突破!」
「それが目標かよ! せめて優勝とか言えないのか?」
「ムリな夢は見ないことにしているの」
 わたしはあっさり言い切った。
「だから一回戦突破できたら、御の字と思ってね? わたしをマネージャーに選んで良かったって、思わせてみせるから!」
「あっああ…」
 ん? 何かイマイチな反応。
 彼はわたしの運動神経を見込んで、マネージャーに誘ったのだから、一緒にはりきってくれて良いはずなのに…。
 テストや大会を控えて、ちょっと神経質になっているのかな?
 いつもの天真爛漫な彼からはちょっと想像できないけど…。
 ちなみに彼はバッターで、副部長に次ぐ実力の持ち主。
 彼の練習メニューもわたしが考えて、ぐんぐん力をつけている。
 そのことを誰もが喜んでいるのに、何故か彼は満足した様子を見せない。
 何か…悩みでもあるんだろうか?
 そう思って、顧問や部長達に話をしてみた。
 けれど彼等が聞いても、何も言ってくれなかったらしい。
 ちょっと不安はあったけれど、調子を崩していないから、ほっとくことにした。
 野球部は彼1人だけではない。他にもサポートする人がいるのだ。
 テストや大会が近いと、部員達の心の中には少なからず不安が生まれる。
 それを取り除くのも、マネージャーとしてのわたしの役目だ。

 そして大会当日。
 何と彼の打った球がホームランとなり、野球部はめでたく一回戦突破となった。
 何年ぶりかの快挙に、野球部どころか学校自体も沸いた。
 普通の学校ならば一回戦突破したことぐらいで喜ばないだろうけど、これが何年かぶりになると喜びも大きい。
 顧問や部長達に、涙ながらにお礼を言われた。
 だけど戦いはまだ続いている。
 みんな、この一回の勝ちで本気になった。
 全員一丸となって優勝しようと口に出して言ってきたのだ。
 勝てたことは嬉しいけれど、みんなの心が成長したことが、何よりわたしは嬉しかった。
 テストも第一試合も無事に終わり、少し部活は休みになった。
 それでも次の試合の為に予定を考えていると、彼が家に来た。
「どっどうしたの?」
 休日に、何の予定もないのに彼が来ることなんて今まで一度もなかった。
 なので変に慌ててしまう。
「ちょっと付き合えよ」
「いいけど…どこに?」
「学校」
「忘れ物でもしたの?」
 連想することをそのまま口に出して言ったら、彼はがっくり項垂れた。
「お前は学校と言うと、忘れ物しか思い浮かばないのかよ?」
「えっと…何となく?」
 テヘッ☆と笑って誤魔化してみる。
 別に彼が忘れ物が多いとかではない。
 他に思い浮かべることがないのだ。
「…はあ。まっ、とりあえず後ろに乗れよ」
「うん…。あっ、お弁当いる? お握りぐらいなら作れるけど」
 時間はもうお昼時だった。
「ああ、食べる」
「じゃあ待ってて。すぐに作ってくるから」
 わたしは家の中に戻った。
 ご飯は今朝炊いたばかり。具材もお握りに入れるぐらいなら何とかなる。
 考えてみると、彼にお弁当を作るのはかなり久し振りになる。
 部員の為なら何度もある。
 けど彼個人に作ることはこれで三回目ぐらいだった。
「昨日のうちに言ってくれれば、ちゃんとしたの作ってあげられたのになぁ」
 そう思いながらも、お握りを作り始めた。
 彼とわたしの分を作り、冷蔵庫に入っていた緑茶の缶を二本、バッグに入れて家を出た。
「お待たせ!」
「ああ、行くか」
 何かちょっとデートみたいで嬉しい。
 大会で活躍したこともあって、彼は女子生徒から人気急上昇した。
 告白してくる子も…何人かいたけれど、彼は断っていた。
 そんなシーンを見るたび、胸が痛むのを必死に隠してきた。
 だけどもし、彼が告白を受け入れるような女の子が現れたら…わたしはマネージャーを続けていられるかな?
 …いや、続けなきゃダメだ。
 彼がわたしに望んだことは、マネージャーになることなんだから…。
 彼の腰に回した腕に、力を込める。
 彼の好きになる女の子はどんなコだろう?
 少なくとも、わたしみたいに男の子と張り合うぐらい運動神経はよくないだろうな。
 そう思うと、自然と自虐的な笑みが浮かんだ。
 わたしの体は陽に焼けて、健康そうに見える。
 でも擦り傷、切り傷、痣など、男の子みたいに体には多くあった。
 髪もボサボサ気味で…女の子らしさなんてあんまり感じられないだろうな。
 ちょっと切なくなって、彼の背中に顔を押し付けた。
 彼はわたしが何をしても何も言わない。
 そのことがありがたかったけど、寂しくもあった。
 彼との距離は、一定を保ったまま、前にも後ろにも進めていない。
 その方がいいはずなのに、何で望んでしまうんだろう?
 答えの出ない問いを頭の中で繰り返しているうちに、学校へ到着した。
 彼の前では明るく振る舞わなくてはならない。
 マネージャーは何時いかなる時でも、平常心を保っていなければならないから。
「今日も良い天気♪ 外で食べる?」
「だな。部室の前で食べよう」
「うん!」
 彼と二人きりになるのは久し振りだった。
 特に今みたいに、部活抜きなのはかなり。
 会話はお互い部活のことだけど、それでも楽しかった。
 部室の前で、いつかのように二人並んで座って、お握りを食べた。
「…何か久し振りだよな、こういうの」
「そうだね。かなり忙しかったし」
 彼は部員として、わたしはマネージャーとして多忙を極めていた。
 それでも毎日会話はしていたし、顔も見合わせていたはずなのに…。
 満足できていないわたしは、おかしいんだ。
 それから何となく会話は続かなくなって、二人で黙々とお握りを食べた。
「それで用事って何?」
「あ~うん。そうだな」
 彼は膝を立て、その上に顎を載せた。視線はグラウンドに向かっている。
「…今、顧問いるかな?」
「確かいる…はず。いろいろ用事があって、休みの日も学校に来なくちゃいけないみたいだから」
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「えっ? あっ、うん」
 彼は校舎に向かって歩いて行ってしまった。
「…何だろう?」
 何かおかしい。けれどその原因が分かるほど、わたしは彼のことを知らない。
「無限ループだぁ」
 彼との関係を考えるたびに、おちいってしまう。
 深く息を吐き、わたしもグラウンドに視線を向けた。
 誰もいないグラウンド、見慣れているはずなのに、何故か心がザワめいた。
 しばらくして、彼が戻って来た。
「お待たせ」
「うん…。どうしたの?」
「あのさ、今から勝負してくんない?」
「…はい?」
 勝負? 何か久し振りに聞いた言葉だ。
「お前が球を投げて、オレが打つっていう勝負」
「はぁ…。まあ、良いケド」
 わたしが気の抜けた返事をすると、彼は頷き、部室に向かった。
 どうやら顧問には部室の鍵を借りに行ったらしい。
 バットとグローブを持って出てきた。

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