フリーのシナリオライターとして活動しています
「いいから迎えに来るから、待ってろ!」
「うっうん…。分かった」
 あまりの剣幕に、わたしは頷いた。
「…じゃな。弁当、美味かった」
「明日も楽しみにしててね」
 にっこり笑いながら言うと、彼も少し笑って頷いた。
 彼の後姿が見えなくなるぐらいになってから、わたしは家の中に入った。
「さて、と…」
 まずはシャワーを浴びて、体を綺麗にしよう。
 その後は野球部の練習メニューを考えて、明日のお弁当の中身も考えなくちゃ。
 …あっ、買い物、行かなきゃ。
 やることは多かった。
 体はスッゴク疲れていたけれど、何故か心は浮きだっていた。
 練習メニューを考えている間も、お弁当のメニューを考えている間にも、彼のことが頭に浮かんだ。
 けれど彼がわたしに望んでいるのはマネージャーとしての役目。
 それ以上は…いや、やめておこう。
 今考えることじゃない。
 わたしは自らマネージャーになることを決めたんだ。
 その役目を果たさないまま、彼への気持ちを強くしても意味がない。
 とにかく、野球部を立て直すことが先決!

 翌日、彼の自転車に乗って、学校へ行った。
 残りの掃除と片付けを終え、お弁当を食べ終えた後、考えた練習メニューについて話し合った。
「う~ん…。まあ悪くはないけど、結構キッツイかも?」
「大会が近いから、それはしょうがないわよ。大会が終われば練習は減るし、短期集中と思ってくれない?」
「まあそれならみんなも納得するかもしれないけど…。本当に大丈夫か?」
「大丈夫! 絶対納得させてみせるから!」
 わたしは自分の胸を叩いて見せた。
 不安げな顔をした彼は、翌日の放課後、みんなが集まった時にも同じ顔をしていた。
 ある程度は予想していたものの、みんな難しい顔をしていた。
 だからわたしは妥協案を出した。
 部長は一応エースピッチャー、腕にある程度は自信があった。
 その部長に、わたしは勝負を挑んだ。
 バッターとして、部長を迎え撃つと言ったのだ。
 そしてグラウンドでは、彼を含めた部員達が不安げな顔で勝負を見守っていた。
 わたしはバットを持って、構える。
 わたしが打てれば、部員は文句言いっこなしで練習メニューに従ってくれると約束してくれた。
 だから本気を出す!
 部長は悪い人ではないけれど、ちょっと気が弱くて、情けないところがある。
 そんな甘い部分を、打ち砕かなければ野球部は立ち直れない!
 部長は渾身の球を投げてきた。
 だけどわたしはマネージャーになってからというもの、バッティングセンターに通うようになっていた。
 それは練習メニューを考える為、バッターの気持ちを味わう為だった。
 だから今の部長の球は、ゆっくり見える。
 バッティングセンターの的に何度も当てて、景品をゲットしたわたしの目には、弱小野球部の球なんて軽いものだった。
 なので思いっきり、

カッキーン!

 と、ホームランを打った。
 部長は白い顔で膝から崩れ落ちた。
 部員達は口をあんぐり開いたけれど、わたしはピースして見せた。
 次に副部長が勝負を申し出てきた。
 副部長はバッターなので、わたしはキャッチャーをする。
 きっとそれならわたしに勝てるだろうと思ったんだろうケド…わたし、実はソフトボールのキャッチャーの経験があった。
 野球とはちょっと違うけどそれでも良いならと言ったら、副部長は満足そうに頷いた。
 なのでわたしは、全身全霊で一球投げた。

ズバンッ!

 …副部長は、バットを振ることすらできなかった。
「つーかお前、どんだけ運動神経抜群なんだよ?」
「体動かすのは好きだからね。そんじょそこらの運動部には負けない自信あるし」
 ケロッと言いながら、洗濯物を干す。
 今日は午前授業だけだったので、部活は休みにした。
 最近、部員達がみるみるやつれていったので、顧問からストップがかかった。
 なので今の時間を利用して、洗濯や掃除、片づけをしていた。
 本当はわたし1人でやるつもりだったんだけど…彼は手伝ってくれる。
 部活が終わった後の片付けとか、買出しとか、よく付き合ってくれる。
 過酷な練習メニューにみんなグッタリしているのに、彼1人だけ無表情で耐えている。
 …ちょっと練習量多かったかな?
 わたしなら平気でこなせるけど、彼等は少し厳しいみたいだ。
 減らすことを考えながら、洗濯を続ける。
 もうすぐ大会が始まるし、疲れた体で挑ませてもムリがある。
 それにテストもあるから、そこら辺を微調整しながら…。
「おいってば!」
「えっ! なっ何?」
 急に大声を出されて、驚いて振り返ると、むつくれた表情の彼が仁王立ちしていた。
「洗濯、終わったぞ? 何ぼんやりしているんだよ?」
「ごっゴメンゴメン。練習メニューの調整を考えてて、ぼーっとしちゃった」
 彼から洗濯籠を受け取り、物干し竿にかけていく。
「増やす気かよ?」
「まさか! テストもあるし、減らすことにしたの。無理は禁物だしな」
「オレはお前の方がムリしている気がするけどな」
「そう?」
「ああ。お前、ノックの練習とか付き合ってくれているし」
 顧問がボールを上げてくれて、わたしはある程度の力でバットを振る。
 四方八方に散ったボールを、部員達が1つ残さず拾うという練習。
 毎日欠かさずやっていた。守備を強くする為に。
 わたしの方がバッティングセンスに優れているということで、顧問と副部長に指名されてはじめたことだった。
「うん…。でもホラ、マネージャーの仕事、楽しいし。どうやらわたしに合っているみたい」
 部員達のサポートや裏作業は疲れるものの、充実していた。
 どんなに疲れてても、イヤになることはないのが証拠だ。
「…ならいいけど。たまには力抜けよな」
「大丈夫よ。あなたが仕事手伝ってくれるおかげもあって、大分楽だから。あなたこそ大丈夫? 練習に手伝いもあって、わたしより疲れているんじゃない?」

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【2017/06/10 02:06】 | <Kiss>シリーズ
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