甘々のキス・4(野球)・2

2017.06.10(01:55)

「オレはいいと思うけど…。でも部長が頷かなかったら、多分ムリだぞ?」
「それは大丈夫♪」
 わたしはニッコリ微笑んで見せた。
「秘策があるの。部長はピッチャーよね?」
「うっうん」
「じゃあ、簡単に投げた球を打たれちゃイヤよね?」
「あっああ」
 そこまで言って、彼は何となく悟ったらしい。
 ハッとした顔で、みるみる複雑な表情を浮かべる。
「お前…まさか」
「ええ、わたしの練習メニューに反対するなら、するだけのことをしてもらいましょう!」
 わたしは意気揚々と拳を空に向けた。
「とは言え、まずは掃除と洗濯ね。洗濯は何とか今日中に終わりそうだけど、掃除はやっぱり明日もやらなきゃ」
「オレの方は何とか今日中に終わらせるよ。そしたら明日の掃除は手伝ってやれるし」
「それは嬉しいけど…。でも掃除より、野球部のバットやボール、グローブを磨いてほしいなぁ」
「うっ…!」
「部費がそんなにないから、ボロいのはしょうがないけど。汚いのはどうにかしてもらいたいわね」
「わっ分かったよ。そっちの方が慣れてるし、明日はそっちをやる」
「うん。お願いね」
 お互い、慣れてることをやった方が効率が良い。
「あっ、なあ、明日も弁当作ってきてくれよ」
「いいけど…。明日はそんなに時間かからないわよ?」
 下手すれば午前中に全てが終わる。
「けどコンビニ弁当なんて味気ないし。それなら手作り弁当の方がいい。お前の作る料理、美味いし♪」
 子供のように無邪気に笑う彼を見て、思わずわたしまで笑顔になる。
「ふふっ、ありがとう。おかずにリクエストある?」
「ハンバーグ!」
 …味覚まで子供だったのね。
 それから楽しそうにお弁当の中身を語る彼を見ながら、胸が高鳴るのを感じた。
 でも今は野球のことが先!
 マネージャーとして誘われたんだから、ちゃんと役目は果たさなきゃいけない。
 お弁当を食べ終えた後は、すぐに部室に戻った。
 掃除と洗濯は半端なく疲れた。
 ぐったりしながら空を見上げると、すでに茜色に染まっている。
「終わったー!」
 それとほぼ同時に、彼の草むしりや終わったらしい。
「おい、終わったぞ!」
 彼は土だらけになりながら、草入りの袋を掲げて見せた。
「ご苦労様。こっちも区切りをつけたから、帰ろうか」
「だな」
 わたしは埃まみれで、彼は土だらけ。
 帰る前に顔ぐらいは拭いた方が良いだろう。
 わたしは乾いた洗濯物の中からタオルを二枚持って、水で濡らして彼に差し出した。
「帰る前に、顔とか手拭いた方が良いよ」
「えっ? そんなにヒドイ?」
「うん、かなり。ドロ遊びをした子供みたいな格好になっているから。部室に鏡あるから、見ながら拭いたら?」
「分かった。タオル、サンキュ!」
 彼はタオルを受け取ると、部室に走って行った。
 走る彼の後姿はカッコ良いなぁ。
 そんなことを思いながら、タオルを顔に当てた。
「つめたっ!」
 ぼんやりした頭に、冷たいタオルは効いた。
 顔や首、手や腕を拭くとある程度はすっきりした。
 でも何か汗臭い気がする…。
「お待たせー。どうだ?」
 彼が戻って来たけど、まだちょっと…。
「ん~。ちょっと動かないでね」
「あっああ」
 首や顎の、彼には見えにくい部分にはまだ土が付いていた。
 わたしは自分のタオルを使って、その部分を拭いていく。
「つめてっ!」
「我慢して。土だらけのまま、家に帰ったら何事かと思われるわよ」
 彼の場合、遊んで土だらけになったんだろうと思われることは間違いない。
「う~。まだか?」
「んっ。ちょっと首下げて」
「ああ」
 彼が首を下げると、うなじの部分が見える。
 わたしは少し背伸びをして、彼の首に腕を回した。
 ここが何だか汚れがヒドイなぁ。きっと汗が流れて、それを土が付いた軍手で拭いたりしたんだろう。
「ん~。けっこう汚れているわね」
 ちゃんと見ようとするたび、背伸びしなきゃいけないのが少し苦しい。
「なっなあ、もういいから」
「何言ってんの。こんなに汚れているのに」
「でっでも、この体勢は…」
「体勢?」
 そこでハッと気付いた。
 背伸びをして、彼の首に腕を巻いている。
 …抱きついている体勢だ。
 しかも今のわたしは汗臭かった!
「ごっゴメン!」
 わたしは慌てて後ろに飛びずさった。
 みっ密着しすぎた!
「いっイヤ、その、ありがとな」
「うっうん…。じゃあわたし、荷物取ってくるから。先に帰ってて」
「ああ」
 お互い、顔が真っ赤で気まずい。
 荷物は部室に置いていたけれど、部室の鍵は職員室にいる顧問に返さなきゃならない。
 荷物を持つと、そこで彼とは別れた。
 職員室に行くと、マネージャーモードになる。
 顧問に鍵を返す時に、練習メニューのことについて申し出てみた。
 軽くOKされたので、ちょっとビックリしたけれど、やっぱり部員のことは心配された。
 反対されるだろうことは分かっていたから、打開策があることを告げた。
 わたしの自信ありげな姿を見て、とりあえずは頑張れと言ってくれた。
 明日も来ることを告げて、わたしは職員室を出た。
 すると校門の所で、彼が自転車に乗ってそこにいた。
「あれ? どうしたの? 部室に忘れ物?」
「いやその…。おっ送ってく」
「えっ? わたし?」
「お前の他に誰がいるんだよ? ホラ、荷物」
「うっうん、ありがとう」
 自転車の前籠に荷物を入れて、わたしは後ろに座った。
「ちゃんと捕まってろよ」
「重かったら言ってね? そんなに家、遠くないし…。あっ、家の場所はねぇ」
「…知ってる」
「えっ? 通り道?」
 わたしの家は学校から歩いて20分程度。
 でも行く時も帰る時も、彼の姿を見たことはない気が…。
「~~~っ! いいから、行くぞ!」
「えっ、わぁ!」
 自転車がいきなり動き出したので、わたしは思わず彼の腰にしがみついた。
 何とか安定して自転車は進んでいるので、一安心。
 …フラフラさせては、女の子のプライドに傷が付いていただろう。
 流れる風が気持ちよかった。
 二人とも会話はなかったけれど、心地良い雰囲気のまま、家に到着した。
「明日も同じ時間でいい?」
「ああ。その…迎えに来るから」
「えっ? 悪いからいいよぉ」
 20分ぐらい、散歩代わりになる。
 けれど何故か彼は顔を真っ赤にして、怒鳴った。

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