フリーのシナリオライターとして活動しています
 するとよどみの底が、ぽっかり穴が空いた。
 そこから何本もの黒く長い手が伸び、よどみを捕まえる。
『ぐおおおっ!』
 そして恐るべき力で、よどみを穴の中へ引きずり込んでいく。
「残念ながら、ここまで来て乗車拒否はできないんですよ。―良き旅を」
 そしてよどみは穴の中へ消えて、穴も消えた。
「ふぅ…」
 今日の迷子は二人。
 でもちゃんと送っているんだから、仕事はちゃんとこなせている。
 …マカは毎年、こんなのを相手にしているのか。
 破格のお給料とは言え、ちょっとなぁ…。
 …大学生なんてうまく授業を調整すれば、ヒマとも言える。
 来年も来ようかな、と思いつつ、あたしは駅の中を歩き出した。
 けれど来年、マカは当主の座につく。
 それでもまだ表の世に残り、大学生になるつもりらしい。
 まあマカは頭良いし、不可能ではないけど…。
 通常、当主になれば本家からは動けないはずだ。
 なのに現当主は、マカの表の世に残ることを受け入れた。
 その真意は…。
「何だか周囲が不穏だなぁ」
 …それでも、あたしは生きる。
 表と闇の世の中で。


『翌朝』
「ふあ~あ」
「おっきな欠伸だねぇ。ルカちゃん」
 朝、地下鉄にはすでに多くの人が来ていた。
 会社や学校に行く為、あるいはあたしみたいに帰る為に。
「はひ…。さすがに徹夜はこたえます」
 職場から上がってきて、給湯室から出たら、中年の駅員がすでに来ていた。
 コーヒーをもらい、地下鉄の駅が開く準備を、部屋の隅で見ていた。
 この光景は結構好き。
 若い駅員の人は、外の方の準備に出ていた。
「ははっ。…どうだった?」
「まあとりあえずは…。もうしばらくは続くそうですけど」
「そうだね。ここらは特に、霧が濃いから」
「…慣れてますね」
「だてに二十年以上もここにいないよ」
 にっこり微笑み、あたしにサンドイッチとおにぎりを渡してくれた。
 どちらもコンビニのものだ。
「あっ、どうも」
「これを食べて、今日はゆっくり休むといい。まだバイトは続くんだからね」
 あたしは笑みで返し、部屋から出て行った。
 そして電車に乗り、目的地で降りた。
 ここから歩いて十分もしないところに、あたしの借りているマンションがある。
「けど、霧がスゴイなぁ…」
 早朝だからかもしれないけど、3メートル先が見えにくいぐらい濃い。
 それに少し肌寒い気もする。
 あたしは歩き出した。
 早くもらったサンドイッチとおにぎりを食べて、眠りたかった。
 けれどあったかい飲み物も欲しくなって、コンビニに入った。
 そしてコーンポタージュとココアの缶を持って、レジに並ぶ。
 そこでふと、朝刊の見出しが目に映った。
 けれどすぐに順番が来て、あたしは会計を済ませ、コンビニを出た。
 
 ―朝刊の見出しはこうだった。
 このところ、変質者の出現で世間は騒いでいた。
 霧の深い夜、突然カミソリで切りつけてくるという。
 そして2・3回切りつけた後、笑いながらその場を後にする。
 警察は捜索していたが、それでも犯人は見つからず、人々はおびえていた。
 新聞では新たな被害者が出たと書かれていた。
 けれどもう―次は出ない。

「やれやれ…。早く霧がはれないかなぁ」
 霧に息を吐きかけながら、あたしはマンションに向かって歩いた。

【終わり】

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【2017/06/03 19:01】 | ★マカシリーズ★
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