【地下鉄】・5

「あっああ、いくらだ?」
「こちらは乗車券ですので、お支払いは降りられた所でお願いします」
「そうか。ところでどこから乗ればいいんだ?」
「こちらです。ご案内いたしますので、ついてきてください」
 わたしが歩き出すと、男性も歩き出した。
 そして数分も経たない内に、細い階段の前に来た。
「こちらを降りられると、目的の場所まで行けますよ」
「あっああ…」
 いまいち納得して無さそうな顔で、男性は降りて行った。
 …あの切符は、先程の老女が持っていた切符とは種類が違う。
 でも男性は自ら電車に乗ることを決めた。
「ちゃんと説明を求めればいいのにね」
 小さくなっていく男性の背中を見ながら、わたしは呟いた。
 さて…、まだ迷子がいるみたいだ。
 わたしは踵を返し、感覚に引っ掛かる所を目指して歩き出した。
 しかもコレは…ちょっと厄介だ。
 深くため息をつき、肩を鳴らした。
 少し気合を入れていかなきゃ。


 その存在は、奥の方にいた。
 ずっと壁を見つめているのは、古い民族衣装に身を包んだ青年だ。
「何故…。何故こんな所に…」
「もしもし?」
 声をかけると、ゆっくりと振り返る。
「ここがどこだか、お分かり…ですか?」
「ああ…。何となくは…」
「では、大人しく行ってくれますか?」
 青年の目が僅かにつり上がった。
「ここへ来てしまったということは、そういうことなんですよ」
 わたしは出来るだけ穏やかに声をかける。
「…だ」
 …ああ、やっぱり。
「イヤだイヤだっ! こんな所へ来るはずではなかった! 私はずっとあの場所にっ…!」
 まあこういう迷子はたま~に来る。
 一つの場所に留まっていた昔の人。
 けれど何らかの力が働いて、追い出されたのだろう。
 追い出されれば、ここへ来るのは必須。
「そうはおっしゃられてもね。きっと戻れませんよ? それにここからも出られません。あなたの行く所は、一つですから」
「…っ! 言うなっ! 小娘!」
「小娘…て言われるほど、わたし、可愛くないんですよ」
 そりゃ彼からすれば、小娘に見えるだろう。
 けど…この身に流れる血は彼より古く、そして重い。
「申し訳ありませんが、あなたはすでに切符を持っていらしているはず。乗ってもらいますよ」
 あたしは制服のポケットから笛を取り出した。
 銀色の細い笛。
 しかし彼は色を変えてきた。
 どんどん濁った黒い色に染まり、形も歪んできた。
 …こりゃ、マズイな。
 よどみとなったモノは伸びたり縮んだりを繰り返していた。
 しかし突如動きを止め、狙いをあたしに定めた。
 あたしは飛び掛るよどみを避けながら、笛を吹いた。

ピィーーー!

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