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【地下鉄】・4

「…確かに。まだ僅かに時間がありますね」
「ええ、ご親切にどうもね」
 老女は軽く頭を下げた。
「いえいえ。ならわたしと少しお話でもしましょうか? これもわたしの仕事なんですよ」
「あら、そう? 嬉しいわ。ちょっと寂しかったのよね。今夜は私だけかと思って」
「地下鉄に乗れば、いろんな方がいらっしゃいますよ。寂しくはありません」
「そう? …そうね、きっとそう」
 老女はどこか悲しそうに微笑んだ。
「ちなみに思い残すことはありましたか?」
「いいえ、特には。平凡ながらも、幸せな人生でしたよ。先に逝った両親や姉達に会えるかと思うと、死ぬことも怖くないと思いましたし」
「それは良かったですね」
 確かに老女には思い残すことはなさそうだ。
 生前の美しい姿のまま、ここにいるのだから。
 それは己の死を受け入れている証拠。
 生を満足して、過ごした証拠。
「まあ望むならば、すぐに息子達に会わないことですかね」
「…何か心配ごとでも?」
「息子達は会社を立ち上げまして…。少々働き過ぎだと生前、もめましてね。孫達も寂しい思いをしていましたので、ちょっと…」
 言い辛そうに、老女は語った。
「まあ死に行く私の言葉ですから、ある程度は意識してくれているとは思うのですけど…。なるべくなら、すぐに再会はしたくないと思いまして」
「そうでしたか…」
「まあ杞憂で済めば良いんですけどね」
 語っていた老女は、ふと周囲をキョロキョロ見回した。
「あら、いやだ。そろそろ時間だわ」
「そうですか。それでは最後の良き旅を」
「ええ、ありがとう」
 老女はにっこり微笑んで、歩いて行った。
 老女は自分がどこへ行けば良いのか、分かっていた。
 迷うことなき足取りが、それを物語っている。

 ―が、老女は珍しい方だった。
 普通なら、エライモノになっていることが多い。
 まあそれは彼等が対応することになっているから良いのだが、わたしの場合、『迷子』の対処が難しい。


『夜 /迷子』
 ふと、感覚的に何かが引っかかった。
 …この感じは、迷子がいる。
 しかもかなり近くに。
 わたしは迷子の元へ、足を向けた。
 歩いて行くと、目の前に周囲をキョロキョロしている男性を見つけた。
「こんばんわ」
 声をかけると、男性はぎょっとして振り返った。
「どっどこの地下鉄だっ! ここは!」
 必要以上に声を張り上げ、男性は言った。
 黒い服装に身を包み、しかし男性の体からは血の匂いが漂ってくる。
 普通の人間では分からないほど、微かだが…。
「階段を降りたらこんな所にっ…!」
「まあ地下鉄ですから。ここは来られる人が限られているんですけどねぇ」
 極稀に、彼のような人が来る。
「出口を探していらっしゃるんですよね? ご案内しますので…」
「いっいや、このまま電車に乗る」
 …やっぱり。
 まあ何となくは予想できる答えだ。
「…ご乗車ですか。では少々お待ちください」
 わたしは腰に付けていた機械を取った。
 そして操作すると、機械から小さな切符が出てくる。
「こちらをどうぞ。乗車券です」

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