フリーのシナリオライターとして活動しています
「なら安心ですね。寄りたい所とかあったら、遠慮なく言ってくださいね。下手に夜道を歩かれるより、迷惑にならないんですから」
「分かっているよ。さて、そろそろ私達は行こうかね」
 中年の駅員が、若い駅員に声をかけた。
「それじゃ、また明日」
「ああ、頑張っておくれ」


 ―そして終電が行き、駅が閉まった。
 わたしは一人、薄暗くなった駅の中を歩く。
 そして一通り見回りを終え、誰もいないことを確かめると、駅員室に戻った。
 駅員室の奥に、給湯室がある。
 水場の下の棚を開け、水道のパイプが目に映る。
 暗い棚の中に目を凝らし、一つのスイッチを見つける。
 そこに触れると、給湯室の壁が動いた。
 ぽっかりと、空間が出来る。
 わたしはそこに入る。
 下に続く階段を降りる。
 そう―この地下鉄よりもなおも深い地下に。
 わたしが階段を降り始めると、後ろの壁が静かに閉じて、代わりに階段に光が照らし出される。
 明るい階段を降りる。
 十分ほど降りた所で、一つの扉の前に出た。
 ドアノブをゆっくりと回す。
 その先には、地下鉄の光景が広がる。
 わたしは躊躇無くそこに降り立った。
 上の地下鉄となんら変わり無い地下鉄だが、空気がイヤに澄んでいる。
 濁りが無いものが全て良いワケではない。
 濁りが無いからこそ、染まりやすいというのがある。
 そう―闇に。
 わたしは明るい駅の中を歩き、駅員室に向かった。
 部屋には複数の話し声。
 ドアをノックすると、明るい男性の声が返ってきた。
「お~。ルカ、今日もお疲れさん」
 まだ二十代の若い男性駅員の彼は、わたしの親戚である。
「やっほ、シヅキ。今夜もよろしくね」
 親しげに話しながら、駅員室に入った。
「おお、ルカくん。今夜もよろしくね」
「はい、おじ様」
 シヅキの実父も、ここの駅員の一人だった。
「毎日ご苦労さま。大学の方は大丈夫かい?」
 柔らかい物腰で話しかけるのは、今年40になるというのに二十代にしか見えない、これまたわたしの親戚だ。
「ええ、ラゴウ。明日は休講だし、気にしないで。そんな長期になる仕事じゃないしね」
「まっ、今の内だけだかんな」
 そう言ってシヅキがコーヒーを淹れてくれた。
 二杯目だが、飲み物が好きなわたしは笑顔で受け取る。
「さんきゅ。それより相変わらずみたいだね。毎年こうなの?」
「そうだなぁ。いつもはマカちゃんが来てくれるんだけど、学校の勉強合宿と重なっちゃったから、今年はルカちゃんにお願いしたんだけどね。今年はちょっと多いかな」
 おじが考えながら言った。
「マカ…。わたしより年下なのに、この仕事を?」
 思わず顔をしかめる。
 まあ年下の従妹である彼女の方が『強い』ので、仕事上の心配は少ないと思うけど…やっぱり危険だ。
「まあ当主のお考えでね。将来当主になる為には必要だろうって」
 ラゴウが苦笑しながら言った。
「ったく…。マカも気の毒というか何というか…。生まれてすぐ、次期当主に名指しされちゃ逃げ場無いわね」
「そうだね。当主にしては早計だと俺も思うが…何分、俺達一族は当主の命令には逆らえんからな」
 おじが肩を竦めて言うと、他の男性二人も同じくため息をついた。
「確かにマカはオレ等よりも『強い』からな。そこに目を付けられたんだろうけど」
「シヅキ、そういう問題じゃないでしょ? ならもうちょっと大事にしてあげれば良いのに…。馬車馬のごとく、こき使われてるんだから」

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【2017/05/30 23:33】 | ★マカシリーズ★
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