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『桜の恋 櫻の愛』・5

 兄が選んだブティックは、最近できたらしい。
 高級住宅地から少し離れた場所にあって、上品な雰囲気があった。
 それこそお金持ちのマダムとかが、好んで来そうなお店。
「…どこで知ったの? この店」
「ん? 前に麗華と来たんだよ。その時に良いなって思ったんだ」
 また麗華さん絡み…。
 ここで麗華さんも一緒ならば、ある意味、格好が付いただろうに。
「じゃあ行くぞ」
 兄はウキウキとわたしの手を引きながら、店内に入った。
「いらっしゃいませ」
 これまた品の良さそうな二十代後半の女性が声をかけてきた。
 白いスーツ姿が良く似合う。
「あら、この前もいらっしゃってくれましたよね」
「覚えててくれたんですか? 美人に顔を覚えてもらえるなんて光栄だなぁ」
「まあ、お上手」
 本当に。
 彼女を大事にしないクセに、フェミニストとは笑える。
「こちらの方は妹さん?」
「ええ、一つ年下の妹です。今日は彼女に似合う服を買おうと思いまして」
「そうなんですか。どうぞごゆっくりご覧ください」
 しつこい接客はせず、女性は柔らかな笑みを浮かべて離れて行った。
 う~ん…。大人の余裕の態度が、スゴイ。
 ああいう女性にならなければ、とわたしは思う。
「それじゃあ魅桜、こっち」
 …けれど幼稚園児のように手を引っ張る兄がいては、それも難しいかもしれない。
 兄は満面の笑みで、店内を物色している。
 わたしは更衣室の近くで、そんな兄の様子を見ていた。
「お兄さん、貴女が大好きみたいですね」
 先程の女性がやって来た。
「ええ、まあ…。両親が海外へ行っているものですから、余計に構ってくるんですよ」
 うんざりしながら言うと、女性はクスクスと笑った。
「この前、ウチの常連客の麗華さんと一緒にいらしたんですけど、その時も貴女のことを言っていたんですよ」
 ぐはっ!?
 わたしのいない所で、彼女の前で何を抜かしているんだか…。
「そっその時、麗華さん複雑な顔していませんでしたか?」
「う~ん。…まあ、ちょっと」
 引いていたんだな。
 眼に浮かぶようだ。
「でも妹さんのことを語るお兄さんって、可愛いですね。何かこう、一生懸命に愛していますって感じで」
「シスコンも高校と同時に卒業してほしいんですけどね」
「ふふっ。まあ今は優しく見守ってあげましょうよ」
「…ですね」
 何を言っても聞かないのだから、今は状況を見守るしかないのかもしれない。
「おーい、魅桜。次はこれを試着してくれ」
「はいはい」
 わたしは再び溜息をつき、兄の元へ行った。


 結局、パーティードレスを3着、ワンピースを2着購入して家に帰った。
「良い買い物できたなぁ。満足満足」
「あっ、そう…」
 わたしはぐったりとソファーに座った。
 あれやこれやと、数十着試着を繰り返せば、誰だってこうなると思う。
 海外で行われるパリコレだって、モデルはこんなに着せ替えさせないだろうに…。
「なぁ、せっかくだから今度の休みに、ウチでパーティー開かないか?」
「新しく購入したパーティードレスのお披露目会?」
「そうそう」
「アホか」
 満面の笑みで頷く兄に、わたしも笑顔で返す。
 しかし毒に満ちた言葉を返した。
「何でだよ。そんなのどこのご令嬢だってやっているだろう?」
「それは世の中の景気が良い時、しかもお高いオーダーメイドの服ができた時だけよ! 既製品を購入しただけでパーティー開いたら、バカだと思われるわ!」
「ああ、そうか。ならオーダーメイドの服、購入しに行くか」
「いらない」
「ええ~?」
「はあ…」
 深くため息をつくと、わたしは立ち上がった。
「夕食ができるまで、自分の部屋で休んでいるわ。一人にさせてね」
「うっ…分かったよ」
 置いていかれる子犬のような顔をする兄を見て、思わずうんざりしてしまう。
 声なくため息をつき、わたしは自分の部屋へと戻った。
 制服を脱いで、部屋着に着替えて、ベッドに倒れ込む。
「あ~、疲れるなぁ」
 いつもなら着替えはメイドに手伝ってもらうけれど、一人になりたかった。
 四六時中一緒にいる兄。
 嫌いではないけれど、うっとおしくはある。

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