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「うん!」
 わたしはぎゅっと先生の腕にしがみついた。
 こういう風に二人だけで過ごせる時間は、とても新鮮で貴重。
 何だか心が浮きだってしまう。
 何気ない会話をしているうちに、わたしと先生は目的地に到着した。
「うわぁ…。すっごいキレイ」
 そこは何と、タンポポ畑。
 見渡す限り、黄色いタンポポが続いている。
「特に誰かが手を加えたわけでもないのですが、こういうふうになったみたいです。スゴイでしょう?」
「スゴイスゴイ! さすがにここまではウチの庭師でもムリでしょう」
 わたしは先生から離れて、タンポポ畑の中に入って行った。
「植物の力ってスゴイのねぇ! ホント、びっくりしちゃう!」
 わたしは久しぶりに心からはしゃぎながら、タンポポ畑の中を駆け回った。
「お嬢様、そんなにはしゃいでいると、転びますよ」
「だいじょ―ぶっ!?」
「お嬢様っ!」
 先生が注意してくれた数瞬後、わたしはものの見事にコケた。
「イタタ…。う~、もう若くないわね」
「まだ十八歳の女性が、何を言いますか?」
 先生が呆れた表情でしゃがみこみ、手を差し伸べてくれる。
「立てますか?」
「ん~」
 そこでわたしはふと、十五年前のことを思い出した。
 十五年前の今の季節、わたしは先生にプロポーズしたんだっけ。
 まさか本当に叶うなんて、当時のわたしは想像もできていなかっただろうに…。
 思わず遠い目をして、ため息をついてしまう。
「どうしました?」
 手を取らないわたしを心配して、先生はしゃがみ込んで視線を合わせてくれる。
「……ずっと考えていたんだけどね。三歳のわたしが、先生の人生を狂わせてしまったんじゃないかって……」
「まだそんなことを仰るんですか? どちらにしろ、私とお嬢様は結ばれることになっていたんですよ。それが早いか遅いかの違いだっただけです」
「まあそうなんだけどね」
 わたしの左手の薬指には、すでに結婚指輪がある。
 三歳のわたしが先生にプロポーズしなくても、どちらにしろこの指輪ははめることになっていたのは違いない。
「……はあ。やはりちゃんとした方が良いみたいですね」
 先生はわたしの左手をとると、結婚指輪に口付ける。
「――愛しています、季姫さん。私と結婚してください」
「んなっ!?」
 突然、先生からのプロポーズで、わたしの体温は一気に急上昇。
「なっ何を今更言ってんのよ! もう結婚式も入籍も済ませたじゃない!」
「確かに一通りは済ませましたけどね。ですが私から正式なプロポーズはまだでしたでしょう?」
 少し苦く笑う先生の顔を見て、わたしは改めて過去のことを振り返る。
「そう……だった、かしら?」
 確かに言われてみれば、わたしが先生をプロポーズした後、周囲の人達はすぐに婚約させた。
 その後はわたしも先生も、お互いを婚約者であり、将来結婚する相手だと自覚していたら、先生からプロポーズをされなくても大して気にはならなかった。
 愛の言葉は毎日二人っきりの時には口に出していたし、彼の気持ちは疑いようもなかったから……。
「実は私も、季姫さんにちゃんとプロポーズをしていないことで悩んでいたんです。気付けばすでに結婚の準備に取り掛かっていましたし、言うタイミングが見つからなかったもので」
「そう……だったの。そういうところはやっぱりちゃんとしたかったのね」
「それはそうですよ。一応私だって、大人の男ですからね」
 まあ女性も普通は気になるだろうけど、わたしはまた別のところが気になっていたからなぁ。
 先生の人生をこのままずっと、一人占めしていいのかどうか。
 グルグル悩み過ぎて、他の事なんてあまり考えられなかった。
「ですが季姫さんが私のことで悩んでいることには気付いていましたし、混乱させるのは不本意でしたから。落ち着くまで黙っていようかと思っていましたが、タイミングが今だと思いましたので」
「どうして今だって思ったの?」
「季姫さんが私にプロポーズをしてくれた場所と、ここがよく似ているからです。あの時もタンポポ畑の中でしたから」
「ああ、そうね」
「なので改めて私の気持ちを伝える場に、相応しいと思ったんですよ。……どうです? 少しは迷いが晴れました?」
 そう言いつつ先生は、わたしと額を合わせる。
 間近で見る先生の眼は、春の日の光のように暖かく柔らかだ。
 その眼を見ているだけで、わたしは落ち着いていく。
「……ええ。わたし、先生と結婚できて、嬉しいわ」
 素直な気持ちを伝えると、先生は何故かキョトンとする。
「貴女という人は……。私よりも十五も年下なのに、いつも先回りをするんですね」
「そうかしら?」
「ええ。自覚がないのかもしれませんが、貴女は私よりもしっかりした方です。なので自分を下に見ることは、もうお止めください。貴女は私が人生全てをかけて、愛する人なんですから」
 ……いや、どう考えても先生の方が大人だ。
「はあ……。分かったわ。もういろいろと悩むのは止めることにする。考え過ぎたって、良いことなんてないしね」
「そうしてください。これからは悩む暇なく、私に愛されるのですから」
 ……その言葉は心ときめくと言うよりも、恐ろしさが上回る。
 けれど先生にそう言わせるのが、わたしという存在なのだ。
 わたしは自分が先生に愛される存在であること、認めなければならない。
「ねえ、先生。落ち着いたら、二人っきりで結婚式をしましょう。わたしは黄色のウェディングドレスを着て、先生から貰ったイエローダイヤモンドの指輪をつけたいわ」
「ええ、貴女がそう仰るのならば。素敵な式にしましょう」
「うん!」
 わたしは思い切って、先生に抱き着く。
 先生は笑顔でわたしを受け止めて、抱き締め返してくれる。

――幸せ――

 わたしは心からそう思う。
 一年後も十年後も五十年後だって、わたしと先生はタンポポ畑の中で愛を確かめ合うんだ。
 負の感情に押し潰されそうな時だって、きっと長い人生の中では必ずある。
 けれど二人を結び付けてくれたタンポポの存在が、大きな支えになってくれるはずだ。
 春じゃなくても、先生がくれた指輪が、わたしをあたたかな気持ちにさせてくれるだろう。
 タンポポの花言葉は『愛の神託』と『真心の愛』。
 わたしと先生はこれからも、愛に満ちた日々を共に過ごしていく――。

<終わり>

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【2017/05/18 23:48】 | 恋愛小説
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