フリーのシナリオライターとして活動しています
「きゃっ! ちょっちょっと待ってよ!」
 いくらワンピースに着替えたと言っても、まだ春先は肌寒い。
 けれど上着を着ることもなく、わたしは先生に抱っこされたまま、駐車場まで連れてかれた。
 …その間、周囲の視線が突き刺さりまくった。
 けれど先生はケロッとしている。
 先生の愛車の前で、ようやくわたしは下ろされた。
 そして助手席のドアを開けられる。
「どうぞ、希姫お嬢様」
「はいはい」
 わたしは先生の車に乗る時は、いつも助手席だった。
 他の人が運転するならば、後部座席。
 コレは信頼している証と言っても良い。
 助手席に乗り込み、シートベルトをすると、先生は運転席に乗った。
「別にお姫様抱っこしなくても、逃げはしないわよ?」
「分かっていますよ。ただ私がしたかっただけですので」
 …やっぱりよく分からない。
 年がら年中引っ付いて、くっつきまくっているのに。
「ねぇ、行き先を教えてよ」
「到着したら分かりますよ」
「…それまでに教える気は一切ないのね」
「察してもらえると嬉しいですよ」
 何を考えてんだか。
 でもこうなった先生は、どんなに問いかけても答えてはくれない。
 あんまりしつこいと怒らせるだけだし。
 わたしはため息をついて、外に視線を向けた。
「ちなみにコレだけは教えて。荷物も向こうに移動変更しているのよね?」
「ええ。送る時に、そう手配しました」
 そう言えば、荷物を送ったのは先生だっけ。
 わたし達は身一つで行けるようにと、大きな荷物は宿泊先に前もって送っていた。
 ならとりあえず、安心だ。
 車で移動するなら、そう遠くはないだろうし。
 安堵すると、欠伸をしてしまう。
「眠っていても構いませんよ」
「んっ…。悪いけどそうするわ」
 ここんとこ、寝る時間がほとんどなかった。
 メイクで寝不足を隠すのが難しいほど、今はヒドイ顔をしているだろう。
「じゃあ…オヤスミ」
「はい、オヤスミなさい。お嬢様」


 ―そうしてどれほど時間が経ったのか。
「…さま、希姫お嬢様」
「んっ…んん~」
 わたしは先生に揺さぶられ、目を開けた。
「あっ、到着した?」
「ええ」
 目をパチパチさせながら周囲を見ると、暗くてよく見えない。
 披露宴が終わったのがもう夕方だったし、今は夜中と言える時刻になったんだろう。
「立てますか?」
「ええ、自分で歩くわ」
 車の外に出ると、周囲は真っ暗だった。
 街灯がいくつかあるぐらいで、周囲には木がいくつも見られる。
「ここ…山の中?」
「ええ、まあ。こちらです」
 そう言って先生は歩き出す。
 土道を歩くこと数分、一件の家の前で立ち止まった。
 先生はスーツのポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
「どうぞ」
「うっうん…」
 中は普通の家と同じ。
「ここもペンションなの?」
「と言うより別荘ですね。私が個人的に所有している所です」
「つい最近買ったの?」
「実は1年ほど前に。この別荘が、というより別荘地自体を気に入りましてね。まあそれは明日の朝、ご説明します」
「そう」
 家より土地を気に入って購入したとなると…景色がキレイだとか?
「じゃあ一週間はここで過ごすの?」
「ええ。お嬢様の身の回りのお世話は私一人でも充分ですしね」
 先生は自信たっぷりに言う。
 …まあ確かにわたしは家事ができない。
 ……と言うより、先生にやらせてもらえなかったと言った方が正しい。
 先生ったら自分で何でもかんでもやりたがるから、わたしがやろうとすると怒りさえする。
 いくらわたしがお嬢様だからって、やろうと思えば一通りのことはやれると思うんだけどな~。
「夕食の時間には遅くなりましたが、食事を作りましょうか?」
「ええ。お腹減っちゃった」
 式の途中では新郎・新婦は料理が食べられない。
 終わった後に少し軽い物を食べたけれど、一気に緊張が解けたせいか、お腹が鳴り出す。
「では食事をした後、入浴してすぐに休みますか」
「そうしましょう。さすがに疲れと眠気がひどい」
 今でも欠伸が絶えない。
 それに空腹もプラスされているから、かなーりフラつく。
「ではリビングのソファ―で待っててください。すぐに食事を持っていきますから」
「…んっ。そうする」
 言われるままにソファーに寝転び、わたしはウトウトし始めた。
 とりあえず、人生の大イベントはこなした。
 後はじっくりと楽しめば良い…そう思いながら、眠りの世界に落ちて行った。



にほんブログ村←よかったら、ぽちっと押してください。

スポンサーサイト

【2017/05/17 01:39】 | 恋愛小説
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック