『わたしの婚約者は年上家庭教師』・11

2017.05.17(01:39)

「きゃっ! ちょっちょっと待ってよ!」
 いくらワンピースに着替えたと言っても、まだ春先は肌寒い。
 けれど上着を着ることもなく、わたしは先生に抱っこされたまま、駐車場まで連れてかれた。
 …その間、周囲の視線が突き刺さりまくった。
 けれど先生はケロッとしている。
 先生の愛車の前で、ようやくわたしは下ろされた。
 そして助手席のドアを開けられる。
「どうぞ、希姫お嬢様」
「はいはい」
 わたしは先生の車に乗る時は、いつも助手席だった。
 他の人が運転するならば、後部座席。
 コレは信頼している証と言っても良い。
 助手席に乗り込み、シートベルトをすると、先生は運転席に乗った。
「別にお姫様抱っこしなくても、逃げはしないわよ?」
「分かっていますよ。ただ私がしたかっただけですので」
 …やっぱりよく分からない。
 年がら年中引っ付いて、くっつきまくっているのに。
「ねぇ、行き先を教えてよ」
「到着したら分かりますよ」
「…それまでに教える気は一切ないのね」
「察してもらえると嬉しいですよ」
 何を考えてんだか。
 でもこうなった先生は、どんなに問いかけても答えてはくれない。
 あんまりしつこいと怒らせるだけだし。
 わたしはため息をついて、外に視線を向けた。
「ちなみにコレだけは教えて。荷物も向こうに移動変更しているのよね?」
「ええ。送る時に、そう手配しました」
 そう言えば、荷物を送ったのは先生だっけ。
 わたし達は身一つで行けるようにと、大きな荷物は宿泊先に前もって送っていた。
 ならとりあえず、安心だ。
 車で移動するなら、そう遠くはないだろうし。
 安堵すると、欠伸をしてしまう。
「眠っていても構いませんよ」
「んっ…。悪いけどそうするわ」
 ここんとこ、寝る時間がほとんどなかった。
 メイクで寝不足を隠すのが難しいほど、今はヒドイ顔をしているだろう。
「じゃあ…オヤスミ」
「はい、オヤスミなさい。お嬢様」


 ―そうしてどれほど時間が経ったのか。
「…さま、希姫お嬢様」
「んっ…んん~」
 わたしは先生に揺さぶられ、目を開けた。
「あっ、到着した?」
「ええ」
 目をパチパチさせながら周囲を見ると、暗くてよく見えない。
 披露宴が終わったのがもう夕方だったし、今は夜中と言える時刻になったんだろう。
「立てますか?」
「ええ、自分で歩くわ」
 車の外に出ると、周囲は真っ暗だった。
 街灯がいくつかあるぐらいで、周囲には木がいくつも見られる。
「ここ…山の中?」
「ええ、まあ。こちらです」
 そう言って先生は歩き出す。
 土道を歩くこと数分、一件の家の前で立ち止まった。
 先生はスーツのポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
「どうぞ」
「うっうん…」
 中は普通の家と同じ。
「ここもペンションなの?」
「と言うより別荘ですね。私が個人的に所有している所です」
「つい最近買ったの?」
「実は1年ほど前に。この別荘が、というより別荘地自体を気に入りましてね。まあそれは明日の朝、ご説明します」
「そう」
 家より土地を気に入って購入したとなると…景色がキレイだとか?
「じゃあ一週間はここで過ごすの?」
「ええ。お嬢様の身の回りのお世話は私一人でも充分ですしね」
 先生は自信たっぷりに言う。
 …まあ確かにわたしは家事ができない。
 ……と言うより、先生にやらせてもらえなかったと言った方が正しい。
 先生ったら自分で何でもかんでもやりたがるから、わたしがやろうとすると怒りさえする。
 いくらわたしがお嬢様だからって、やろうと思えば一通りのことはやれると思うんだけどな~。
「夕食の時間には遅くなりましたが、食事を作りましょうか?」
「ええ。お腹減っちゃった」
 式の途中では新郎・新婦は料理が食べられない。
 終わった後に少し軽い物を食べたけれど、一気に緊張が解けたせいか、お腹が鳴り出す。
「では食事をした後、入浴してすぐに休みますか」
「そうしましょう。さすがに疲れと眠気がひどい」
 今でも欠伸が絶えない。
 それに空腹もプラスされているから、かなーりフラつく。
「ではリビングのソファ―で待っててください。すぐに食事を持っていきますから」
「…んっ。そうする」
 言われるままにソファーに寝転び、わたしはウトウトし始めた。
 とりあえず、人生の大イベントはこなした。
 後はじっくりと楽しめば良い…そう思いながら、眠りの世界に落ちて行った。



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