フリーのシナリオライターとして活動しています
 春は何かと忙しくなるので、あまり自由な時間は少ない。
 けれどせっかくの新婚旅行は、ちゃんと行きたかった。
「お嬢様はどこが良いですか?」
「ん~そうね。でも外国は厳しいかもね。行って帰ってくるだけで、バタバタと慌ただしいだろうし」
「そうですね。せめて一週間ぐらいでしょうから」
「一週間…。いっそ日本国内にする? それなら移動距離、どんなに遠くても半日もかからないでしょう?」
「それでも構いませんよ。でもまさか、温泉地とは言いませんよね?」
「まさかそこまでは。まあ温泉はある土地でも良いかな? 日本の温泉ってやっぱり格別だし」
「ではいくつか候補を上げておきますから、お嬢様がお好きな所を選んでください」
「分かったわ」
 決定したことに、少し気持ちが和らいだ。
 日本国内なら一週間でも充分に楽しめる。
 その間に、気持ちをリフレッシュすれば良いだけのこと。
 わたしは先生に全身を洗ってもらいながら、結婚後のことを考え……再び重いため息を吐いた。


『二人が結ばれた後に…』

 そうやって延々ループな考えに囚われたまま、あっと言う間に季節は春。
 入籍、結婚式、披露宴を無事に済ませ、思いっきり深く息を吐いた。
「はあ~~~。もう年明けから猛ダッシュしまくりだったわね」
「お疲れ様でした」
 わたしはドレスを、先生はタキシードから着替えて、ホテルの控え室に二人っきりになった。
 披露宴はさすがに豪華で時間もかかり、全身がボキボキ音を立てている。
 でも明日からは新婚旅行に行く。
 ウチと先生の両親は、新婚旅行に国内を選んだことに目を丸くしたものの、二人が決めたのならと最後は頷いてくれた。
 まあ大規模な旅行は、それこそ夏休みとか長期休暇の時に行けば良い。
 世界一周とまではいかないものの、オシャレな外国にでも羽を伸ばしに行くつもりだ。
 …まあそれはいつもの休みの過ごし方と同じだけど。
 いつも旅行とかは先生と一緒だったしなぁ。
 ちなみにウチの両親は、一緒の時とそうでない時がある。
 わたしと先生の間に入るのがちょっと、とか言っていたが、ただ単にあっちも二人っきりが良いということだろう。
「ねぇ、先生。明日は早起きで新幹線で行くのよね? 久しぶりに新幹線に乗るから、楽しみだわ」
 いつもは車や自家用ヘリで移動するけれど、さすがに新婚旅行までそれでは味気ない。
 わたしは先生に連れられて、バスや電車、新幹線にも乗った経験がある。
 人が混雑する時間帯を避けて乗ったけれど、楽しかった。
 だから今回の移動も、そういうのが良いとワガママを言った。
「ああ、そのことなんですが」
 不意に先生は動きを止めた。
 そしてわたしの方を見て、ゆっくり微笑んだ。
 途端に背筋にゾクッと悪寒が走るっ!
「えっ…?」
 何かこの超サドっけのある笑み、久々に見たような気がする…。
 寒気を抑えながら、わたしは引きつった笑を浮かべた。
「旅行はキャンセルしました。なので新幹線にも乗りません」
「………はい?」
 言われことを理解するのに、30秒ほど時間がかかった。
「きゃっキャンセルって…何か他に用事でも入ったの?」
「いいえ」
「なら向こうからのキャンセル?」
「それもないです」
 そりゃそうだろう。
 わたしと先生が選んだのは、温泉の出る避暑地。
 今ならシーズンオフだし、人も少ないだろうと思って行くことにした。
 しかもペンションを丸ごと1つ、借りたのだ。
 泊まり専門のペンションだけど、歩いて三百メートル先には喫茶店や土産物の店が立ち並ぶ、商店街がある。
 商店街と言ってもオシャレで、そこが気に入って昨年から予約していたのに…。
 しかもウチと先生の家を名前を出して。
 それで向こうが断るなんて、普通はまず有り得ない。
「えっと…なら何で?」
「旅行先を変更したんですよ。お嬢様には黙って」
「なっ何で黙る必要があるのよ?」
「お嬢様だってウエディングドレス、当日まで秘密にしていたじゃないですか」
「それとこれとは意味が全く違うわよ!」
 いくら秘密と言えど、候補に上がったデザイン画は先生だって見ていたはず。
 それにタキシードと合わせる時、義兄からそれとなくドレスのことは聞いていただろう。
 じゃなきゃ、二人の衣装がぴったり合うはずがない。
 …まあ先生のことだから、わたしが何を選んだのかとっくにお見通しだったかもしれないけど。
 ……というより、そっちの可能性が非常に高い。
 誰に何を言われなくても、先生ならば分かってくれる。
 そういう安心感があったのも、確かだけれど…。
 わたしは先生のことを、理解してはいなかったみたい。
 今までわたしの意見を通さなかったことなんて、なかったのに…。
「じゃあどこへ行くの?」
「そうですね。そろそろ出発しましょうか」
「はいぃ?!」
 もう出発? 早すぎない?
「お嬢様、ちょっと失礼」
 そう言って先生はわたしをいきなりお姫様抱っこした!


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【2017/05/14 18:12】 | 恋愛小説
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