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 ただの人間が霊視の力を持っている―という異常な存在ではなく、宵闇の者として能力を堂々と使える存在になった。
 沸き上がる感情は、喜びと昂ぶりのみ!
「やれやれ。私はこんな危険思考の持ち主だったのか」
 皮肉げに笑うと同時に、バシャーと海が割れ、業魔が姿を現す。
 ゆっくりと陸地へ上がってくるその姿を見て、慧花は息を飲む。
 下半身はさっき見た棘が生えたタコのような足が8本あり、頭もタコのように丸くて縦長だった。
 しかしその額には血のように赤い魂命石が怪しく輝いており、大きく横一文字に裂けた口からは無数の尖った牙が見える。
「大きさは2・3メートルと言ったところか。それで特技は…」
 言いかけた慧花へ向かって、業魔は足を2本伸ばしてきた。
「毒のある足を攻撃に使うこと!」
 スっと眼を細め、横に飛んで攻撃を避けた。
 足の動きはしなやかな鞭のようだが、地面に当たるとコンクリートが弾けて飛んだ。
「多機能な足だこと」
 足は次から次へと攻撃を仕掛けてくる。
 時には避けながら、またある時はサハカリで弾いた。
 しかし弾くたびに金属音が鳴り響き、衝撃が慧花を襲う。
『おい、慧花。接近戦はムリだ。一旦、距離を置け』
「分かってはいるが、隙が無いんだ!」
 タコの足は8本もある為、絶え間なく攻撃を仕掛けてくる。
 額にある魂命石を破壊すれば決着がつくことは知っていても、体の方がついていけない。
 息切れを始めた頃、サハカリの柄の部分2ヶ所に、タコの足が巻き付いた。
「しまった!」
 すると業魔はいきなり口を窄める。
 口の中がぷくっと膨らみ、慧花に向かって何かをふき出す。
「わっ!」
 慌てて身を縮こませて避けたソレは、後ろのコンクリートの建物の壁にドカッとめり込んだ。
『黒い砲弾かよ!』
 彩斗の言うように、めり込んだ物は黒くて丸い鉄のような塊だった。
 アレが体のどこかに直撃でもしたら、重傷は免れない。
(時間に余裕はないな)
 このままではただ霊力と体力が削られ、いずれ攻撃を避けきれなくなるだろう。
(ならば!)
「彩斗、私が倒れても死なない限り、お前は自由に動けるよな?」
『まあな。…って、何を考えてる! 慧花!』
「意識を手放す前に、開放する。ケータイ電話で実家とタイガ警備保障に連絡しといてくれ。連絡先はアドレスを見れば分かるから」
『お前っ…! ちっ、分かったよ!』
「頼んだぞ」
 慧花はサハカリを強く握り直し、刃を前に出しながら大きく一回転させた。

―ぎしゃああっ!

 悲鳴を上げ、業魔は後ろに下がる。
 柄に巻きつけていた足2本が刃で切り落とされたが、すぐに再生をしてしまう。
 だが一瞬の隙はできた。
 慧花はサハカリに残りの霊力と気力を全て注ぎ込む。
 力が満ちるまで、8本の足による攻撃は体を使って裂けるも、体には棘がかすり、切り傷が刻まれていく。
 神経の毒が体に流れ込んでくるのを感じながらも、慧花は倒れなかった。
(この一発に賭ける!)
 避けながらも攻撃が届く中距離まで来て、立ち止まる。
「貫穿ノ槍」
 低く呟き、慧花はサハカリを大きく振り下ろした。
 慧花の霊力と気力を込めた技は、紫色の一線となり、業魔の体を真っ二つにする。

 がしゃんっ…

 攻撃は魂命石をも二つに裂き、業魔は眼の色を失い、地面に倒れて動かなくなった。
 その様子を見届けた慧花はサハカリを大きく振り、真っ直ぐに立つ。
「初戦は勝利、と言ったところでいいな」
『ああ。苦戦の二文字はご愛嬌と言ったところだな』
「抜かせ」
 皮肉を言い合いながらも、慧花も彩斗も笑っていた。
「とりあえず、彩斗」
『うん?』
「後は……頼んだぞ」
 慧花は心の中で、武器解除を思った。
 すると左腕が徐々に人間の腕へと戻っていく。
 その光景を見ながら、ゆっくりと意識を手放した。
「お疲れさん。とりあえず、今はゆっくり休みな」
 再び人間形態に戻った彩斗は、笑顔で眠りについた慧花の体を受け止め、優しく微笑んだ。



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【2017/05/14 17:39】 | 【ホラー/オカルト短編集】
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