フリーのシナリオライターとして活動しています
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

 ぼわっ…と浮かんだ紋章に、思わず息を飲んだ。
「私は…宵闇の者になってしまったのか?」
「ああ。願った通りに、な」
 黒いTシャツに黒いジーンズを着る青年は、全てを見透かした眼で慧花を見る。
 そして慧花も青年を真っ直ぐに見つめた。
 霊視の力から、青年が人間ではないことが分かる。
「あなた……業魔魂?」
「そう呼ばれていたモノ。でも今は業魂だ。名前はアンタが付ければ良い」
 傲慢な言い方だったが、自分の半身だと思うと不愉快にならない。
 慧花はため息をつきながら立ち上がり、制服についた汚れを手で払う。
 そして改めて青年と向き合う。
「彩斗なんてのはどう?」
「サイト、ね。悪くない」
 満足そうに笑うところを見ると、気に入ったらしい。
「早速だが慧花、宵闇の者としてデビュー戦をしないか?」
 そう言って楽しそうに笑い、黒い海に視線を向けた。
 続いて慧花もそっちを見る。
(私が死んで少なくとも一時間は経過しただろう。先程より暗くなっている)
 すでに空は闇色に染まり、海もまた同じ色を映していた。
 そんな海の中に、今は確かな業魔の気配をはっきりと感じる。
「海の中にいるのは、海の生物を糧とした業魔だ。すでに人間を襲っているのは、身を持って知っただろう?」
「そうだな」
 ここで消えた人達は、慧花と同じ目に合ったのだろう。
 そしてマーカーを付けられ、業魔魂に憑り付かれて……。
 そこまで考えて、慧花は顔をしかめる。
「…あまり考えたくはないが、襲われた人、全員が業魔になった可能性は?」
「否定はできないな。けどただの死体となってそこら辺にある可能性もあるし、慧花のように宵闇の者として黄泉返ったのかもしれない。まっ、そいつ等はそういうことを担当としているヤツらに任せよう。オレ達は目の前の敵を倒すことに専念すれば良い」
 彩斗の眼には好戦的な色が強く浮かんでいる。
 その様子を見て、慧花は首を傾げた。
「何故いきなりあの業魔と戦わせようとする? いくら業魂が業魔に対して敵対心を持っているとは言え、黄泉返ったばかりでは厳しいものがあるだろう?」
「でも戦って実績をつければ、実家から出られるだろう?」
「お前っ…! 私の記憶を見たのか?」
「この姿を形成する時に、イヤでもな。でも良いチャンスだと思うぜ? このまま鳥かごの中の鳥として、一生を過ごすつもりかよ?」
(…それはイヤだ)
 今の現状に不満を抱いていたからこそ、無意識の中からこの存在を生み出してしまったのだ。
 真っ直ぐに、自分の欲望に素直なモノを。
 自分の手を引き、今までの日常をぶっ壊す存在を、心の中では強く求めていた。
(自由への手段は惜しめない、か)
 宵闇の者として戦えることを周囲に知らしめれば、実家を出て、自由に生きられるかもしれない。
 このまま家に帰っても、家族はきっと今まで通りの生活を強いるだろう。
 何より、慧花の安全を守る為に。
(私が望んでいる道は、ただ一つ。茨であろうが、自由であること!)
 ぎゅっと眼を閉じ、慧花は決意を固める。
「…武器形態は?」
「そりゃ一度、一体化をしてみないと」
 肩を竦める彩斗を見て、もっともだと思う。
 けれど黄泉返ったばかりでは、5度の一体化は不可能と考えるべきだろう。
 霊力には自信があるが、戦い慣れていない慧花には厳しい戦闘になるかもしれない。
 それでも自由を手に入れたい。
「なら、とっとと始めようか。彩斗、あなたの紋章は?」
「ココ」
 彩斗は胸の中心を指さす。
 確かにそこから何かの力を感じる。
 慧花は左手に紋章を浮かび上がらせ、彩斗の印のある場所へと重ねた。
「さあ、私の武器よ。その姿を見せよ!」
 ニヤッと彩斗が笑うのと同時に、その姿が霧と化す。
 霧の中心に紫色の魂命石が浮かび、慧花の掌の紋章へと飛び込んできた。
 異物感はあるけど、イヤではない。
 グッと握りしめると、水晶のような棘が左腕に巻きついていく。
 左手を天に向けると、棘はどんどん伸びていき、とある武器へとその姿を変えた。
「コレはシックル属のサハカリ、か…」
 紫色の魂命石が刃と柄の間で煌めき、武器自体は黒い。
 柄は170センチはあり、刃は1メートル近くはある。
(これではまるで、死神の大鎌だな)
 慧花は自分の左手と一体化した武器を見て、苦笑した。
 神社の娘が、死神の武器を手にするなんて、とんでもない皮肉だと思う。
「……けど本当に霊力と気力の消費が激しいな」
 一度に消耗する力は大きく、疲れる。
 慣れないと厳し過ぎることを実感した。
『おいおい、大丈夫か?』
 頭の中に直接響く彩斗の声で、慧花は意識を保つ。
「まあ…な。ところでコレじゃあ海まで飛べないぞ?」
『飛ぶことなんてないさ。向こうの方からやって来るだろう。もう夜が近いし』
「……その前に、私の意識が途切れそうなんだが」
『頑張れ』
(無責任な…。だが業魔と戦えるのは、私だけだからな)
 慧花はサハカリを構えた。
 業魔はここからでも見える。
 夜が迫っていることで、海から上がってこようとしているのだ。
 自分に向けられている殺意を感じて、向こうも殺意を抱きながら近づいてくる。
 冷や汗が背筋を伝い、喉が渇く。
(けれど何でだろう? 負ける気がしない)
 霊力は消費しているのに、気分は上昇している。
(…そうか。私はようやくあるべき存在へと変われたのだ)



にほんブログ村←よかったら、ぽちっと押してください。

スポンサーサイト

【2017/05/12 02:00】 | 【ホラー/オカルト短編集】
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。