【宵闇の者としての覚醒と責任】・1

2017.05.12(01:52)

『死と再生』

 ごふっ、と口から血を吐き出し、少女は虚ろな眼でぼんやり思う。
(…ああ、私はここで死ぬのか?) 
 本来なら夕日に照らされている時刻だが、今は雨が降り出しそうな灰色の空が倒れている少女の視界いっぱいに映る。
 少女が倒れている場所は華羅臨海工場跡地。
 海が見渡せる陸地に、その体はあった。
 ここは滅多に人が通らず、声を張り上げても誰も助けに来てくれないことを、既に少女は分かっていた。
(自業自得とはこのようなことを言うのだな…)


 少女の実家は神宮地域にある神社だった。
 小さな神社で、華羅皇神社から業魔関係の仕事を紹介されて、生活は成り立っていた。
 少女の父親が神主、兄がその後を継ぐ予定で、姉は巫女の役目を母から受け継いでいた。
 三人目の子として生まれた少女は、上の二人ほど神社の仕事には関わらせてもらえなかった。
 ―しかし、それには大きな理由があった。
 少女は普通の人間なのに、霊視の力が生まれた時から備わっていたのだ。
 宵闇の者でもないのに、持ってしまった力は災いとしか言い様がない。
 『人型業魔』と呼ばれる可能性もあり、家族は外部に洩れることを酷く恐れ、少女を神社関係の仕事からわざと外した。
 余程のことがない限り、外にも出してもらえなかった。
 しかし学校へ通う歳になると閉じ込めておくわけにもいかず、仕方なく実家から学校へ通うことを許された。
 けれど部活をすることも許されず、学校が終わればすぐに家に帰るように言いつけられた。
 おかげで友達と遊ぶこともままならず、不満が溜まっていく日々を送っていた。
 そんな中、少女は担任の先生から気になる話しを聞く。
 それは今日の帰りのホームルームで告げられた。
「警察署から最近、華羅臨海工場跡地近くで行方不明の人が増えていると言う話しをされました。あそこは危険地帯ですし、くれぐれも近付かないように」
 険しい表情で語り、担任は教室から出て行った。
 生徒達の間に不安の色が浮かび、口々に事件のことを小声で話し出す。
「あそこ、不良達が時々行っているんだってな。ところがそこで続々と姿を消しているらしいぞ」
「やだぁ。怖ーい」
(それってまさか…)
 少女は心当たりがあった。
 華羅臨海工場跡地は夜になると業魔が出る。
 海の生物に憑り付いた業魔が、夜になると海から出てくる。
 昼間は海の底に身を隠している為、発見が難しいものだと聞いたことがあった。
(ちょっと見に行ってみるか)
 夕方であれば、まだ太陽の日は出ている。
 そう思い、学校が終わってから現場へ向かった。
 少女は実家が神社ゆえに、幼い頃から闇の存在についての知識を得ていた。
 その知識さえあれば最低限、自分の身は守れるだろう―と過信してしまった。


「ん~。朧気にしか視えないな」
 天気が悪いせいか、海を見渡してもよく視えない。
 あまり海辺に近付かないように、周囲を歩いていろいろな所を視たが、僅かな気配しか感じらない。
「何かはいるんだが……視えにくい。もう限界だな。後で父様に言ってみるか」
 華羅皇神社に父が相談しに行けば、何かが変わるかもしれない。
 見に来たことは言わないで、学校で噂を聞いたことだけ話そう。
 そう決めて海に背を向けた―瞬間、グイッと右足を引かれた。
「えっ?」
 足元に視線を向け、言葉を失う。
 見た目は赤いタコの足、だが吸盤は無く、代わりに銀色の棘があった。
 ソレが少女の右足首に巻きついていて、棘が刺さり、血が静かに流れ始めていた。
「あっ…ああっ……!」
 震え出す体で海へと視線を向ける。
 暗い海の中に潜む、二つの赤い光。
 ボンヤリと浮かぶ異形の赤き眼を見たが最後、少女の体は力を失った。
 どうやら針には毒があったらしい。
 全身がマヒしてしまい、声も出せず、指一本動かない。
 少女の体は空中に引き上げられ、そしてコンクリートの地面に背中から叩き付けられる。
 喉から出たのは息と血だった。
 タコの足は離れ、そのまま海の中へ戻った。
 少女は痛みも感じないまま、死を向かえるのを感じていた。
 時刻は夕方でも今日は天気が悪く、陽の光は降り注がない。
 業魔はこういう状況ならば、少しは動けるらしい。
(このこと、もっと早く知っていればな……)
 目の前が暗くなり、少女は意識を手放した。


「なぁ、おい。何時まで寝てんだよ。起きろよ、慧花」
 サトカと自分の名前を呼ばれ、少女はうっすら眼を開ける。
 眼に映ったのは、いわゆるチャラ男だった。
(……誰だ? コイツ。私の知り合いにいたか?)
 慧花は怪訝な眼差しを青年に向ける。
 歳は慧花と同じ、十七ぐらいに見えた。
 少し伸びた茶色の髪に、琥珀色のつり上がった眼。
 美しく整った顔立ちには、皮肉な笑みが良く似合う。
 Tシャツの袖の下の二の腕には、銀色のチェーンが巻いてある。
 黙っていればモデルのように見えるが、その雰囲気と口調は軽い。
 思わず睨み付けると、青年は苦笑する。
「オレの姿が不満みたいだな。だがこの姿はお前が無意識に願った形なんだ。オレに文句言うなよ?」
「私が願う……? まさかっ!」
 慧花は慌てて起き上がった。
 血まみれになっていた体には傷一つなく、心臓は安定した鼓動を刻んでいる。
 しかし左手に違和感を感じた。
 自分のモノではない、感覚が宿っているみたいだ。
 左手を恐る恐る開き、意識を集中させる。


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