【出会いの高速道路】・3

2017.05.06(22:36)

 翌日、眠い目をこすりながら本社に出社した。
「おはよ…」
「おはようさん。寝不足って顔しているな」
「まあな。お前は何だかスッキリした顔をしているな」
「ああ。それより眠気覚ましにコーヒーでも飲みに行くか?」
「そうだな…」
 このままじゃ車に乗るのも危険だ。
「昨日、帰りが遅かったみたいだな。ご苦労さん」
 上機嫌の同僚が、ブラックコーヒーを奢ってくれた。
 本社の最上階にはカフェスタイルのレストランがフロアごと入っていて、そこは街並みが見下ろせて人気だった。
 しかし今は仕事中。俺達のいる部署の人間以外はいない。
「あっ、そうだ。やっぱりウワサの女の子、幽霊じゃなかったぞ」
「ん? どういうことだ?」
 同じくコーヒーを飲む同僚に、俺は昨夜のことを話して聞かせた。
「…ふぅん。キレイな女の子だけど、ちょっと頭のネジがゆるんでるのかね」
「そういう言い方はよせよ。…まっ、正常とは言えないがな」
「そういうのをイカレてるっつーの。てーかよく女の子に声をかけたな。恐ろしくはなかったのか?」
「現実感がありすぎなんだよ、そのコ。実際食堂の人だって対応してたし、生きた現実の女の子だよ」
「へ~。でもキレイなコなら、会ってみたいもんだな」
 同僚の顔がイヤな表情になった。
「やめとけよ。30代になったんだし、そろそろ身を固めることを考えるべきだ」
「お前は真面目だなぁ。オレはまだ、遊び足りないぜ?」
 同僚とは大学からの付き合いで、コイツは当時から遊び人として知られていた。
 泣かされた女の子は数知れず。
 そのままの勢いで、会社でも遊びまわっている。
 コイツのせいで会社を辞めたコもいるぐらいで、さすがに上司が注意をしたら、最近は大人しくなったみたいだ。
 …まっ、外で遊ぶようになっただけだが。
「今じゃ仕事で各地転々として、なかなか遊べないんだけどな」
 肩を竦める同僚を見て、近場ではコイツの悪評を聞かなくなったことを思い出す。
「でもお前、定時で毎日帰っているじゃないか」
「残業は趣味じゃないんだ、お前と違って。でもキレイな女の子が見られるなら、残業も悪くないかもな」
「…言ってろ」
 コイツの発情は病気みたいなもんだし、そのうち再発するだろう。
 何て言っても春だし。
「とりあえず、仕事頑張ろうぜ。クビになったら、女も寄ってこない」
「そうだな。それじゃそろそろ行くか」
 欠伸をかみ殺しながら、立ち上がった。
「おいおい。しっかりしろよ?」
「ああ、何とか平気だ」
「じゃ、お互い頑張ろうぜ!」
「だな」
 ―そしてその時見た同僚の笑顔が、最期に見たヤツの笑顔だった。


 あの夜から数日、早めに帰れることが多くなり、彼女を見かけることはなかった。
 もう歩くのは止めたのかと思った。
 そのことを少し心寂しく思いながらも、ほっとしている自分に気付く。
 やっぱり夜、高速道路を女の子が1人で歩くなんて危険すぎる。
 それに…何だろう?
 彼女の行動には、何か深い闇の匂いがする。
 それこそ、関わってしまった者を呑み込んでしまうような深い闇。
 俺は人と関わるのがあまり好きではないが、人を見る目はあった。
 どんなに偽りの仮面をかぶっていても、漏れ出す感情を読み取るのが上手いみたいだ。
 だから同僚とは付き合いやすかった。
 アイツは表も裏もないも同然だったから…。


 …なのに何故、アイツは車の事故で死んだんだ?
 しかもいつも使っている高速道路で。
 そして何故…彼女がその場にいるんだ?
 俺の頭の中は真っ白だった。
 ああ、そうだ。
 久し振りに仕事で遅くなったんだ。
 出先から本社に戻る途中で…例の高速道路を走っている時だった。
 目の前に事故の現場があって、俺は慌てて車を止めて、救急車を呼んだ。
 ケータイを切った後に気付いた。
 彼女が、そこにいることに。
 アイツの車は思いっきり壁に突っ込んでいた。
 前の部分からは炎と煙が巻き上がり、壊れた運転席からは同僚の体が半分、出ていた。
 多分もう…。
「…どうして、キミがいるんだ?」
 俺はやっとのことで、彼女に声をかけた。
「この人だったんです。わたしの探している人」
 彼女は無表情で、同僚を指さした。


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